(読み)はらえ

精選版 日本国語大辞典 「祓」の意味・読み・例文・類語

はらえ はらへ【祓】

〘名〙 (下二段活用動詞「はらう(祓)」の連用形名詞化)
① 神に祈って、罪・けがれ・災いなどを除き払うこと。また、その儀式。神社で行なったり、水辺みそぎをしたりした。はらい。おはらい。
※大和(947‐957頃)一四八「いかで難波にはらへしがてらまからむ」
② 特に、六月と一二月に行なわれる大祓えのこと。六月の場合は、夏越祓(なごしのはらえ)、六月(みなづき)祓ともいう。はらい。
蜻蛉(974頃)中「心ものべがてら、浜づらのかたに、はらへもせんと思ひて」
③ 罪過を犯した者に、罪を償わせるために物を出させること。また、その品物
書紀(720)大化二年三月(北野本訓)「死(し)にたる者の友伴(ともかき)を留めて強(あなかち)に祓除(ハラヘ)せ使む」
④ ①を行なう場所。はらえど。はらえどの。
※蜻蛉(974頃)下「はらへなどいふところに、垂り氷いふかたなうしたり」
幣帛(へいはく)
⑥ ①を行なう時に読むことば。祓えの詞。「中臣の祓」

はらい はらひ【祓】

〘名〙 (四段活用動詞「はらう(祓)」の連用形の名詞化)
① =はらえ(祓)①〔和玉篇(15C後)〕
読本椿説弓張月(1807‐11)続「琉球二顆の珠をもて祓禊(ハラヒ)し給へかし」
※蜻蛉(974頃)上「かかるほどに、はらいのほども、すぎぬらん」
キリスト教で、旧約時代、律法を犯した者を、呪物などによってはらったこと。のちには、清めを意味するものとなった。
即興詩人(1901)〈森鴎外訳〉山寨「この頃聖アントニオの禳(ハラヒ)を受けたり」

はら・う はらふ【祓】

(「はらう(払)」と同語源)
[1] 〘他ワ五(ハ四)〙 神に祈って、災いや罪、けがれを払い除き、清める。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「其の穢悪(けからはしきもの)を濯(すす)き除(ハラハ)むと欲(をほ)し」
[2] 〘他ハ下二〙 (一)に同じ。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「筑紫日向小戸(をと)の橘の檍原(あはきはら)に往きて祓(みそ)き除(ハラヘ)たまふ」

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デジタル大辞泉 「祓」の意味・読み・例文・類語

ふつ【祓】[漢字項目]

[音]フツ(漢) [訓]はらう はらえ
神に祈って、災いを払いのける。おはらい。「祓除修祓

はらい〔はらひ〕【×祓】

はらえ」に同じ。→御祓おはらい

はらえ〔はらへ〕【×祓】

神に祈ってけがれを清め、災厄を取り除くこと。また、そのための神事。はらい。
罪をあがなうために出す物。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「祓」の意味・わかりやすい解説


はらえ

罪穢(つみけがれ)や災厄を除くための行事。「ハライ」ともいう。日本古来の宗教思想である神道(しんとう)は、汚穢(おえ)を忌み、清浄をもっとも貴ぶ観念が強く、そのために祓が重んじられる。祓の起源伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、黄泉(よみ)の国(キタナキ国)の穢(けがれ)を筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小戸(おど)の檍原(あはぎはら)において禊祓(みそぎはらえ)をなされたのに始まる。祓の方法には、水を用いる禊(みそぎ)と、祓麻(はらえぬさ)にて祓う方法とに二大別される。いずれも罪穢を、地下の世界である根(ね)の国、底(そこ)の国に追いやるのである。いやなことをば水に流すというのは祓の思想による。神道では神前に参拝するに先だって、かならず祓を行い、これを修祓(しゅばつ)という。祓詞(はらえことば)を奏し、祓麻にて祓を修するのである。また、大祓(おおはらえ)といって、定期的に6、12月の晦日(みそか)と、臨時には罪穢にあったときに行う祓がある。6月晦日の大祓を名越(なごし)(夏越(なごし))の祓という。大祓には人形(ひとがた)や茅(ち)の輪(わ)などが用いられることがある。このほか、巳日(みのひの)祓、万度(まんど)祓、六根清浄(ろっこんしょうじょう)祓、その他がある。

[沼部春友]

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改訂新版 世界大百科事典 「祓」の意味・わかりやすい解説

祓 (はらい)

解除とも書き,古く〈はらひ〉または〈はらへ〉という。宗教的な罪や穢(けがれ)を除いて身心を清める方法の一つ。〈はらひ〉は他動詞〈はらふ〉四段活用,〈はらへ〉は同下二段活用の共に連用形が名詞化したもので,前者は自分で祓い,後者は他人に祓わせる意味をもつ。一般に塵や埃を拭き払うように紙や麻の祓麻(はらいぬさ)で振り払う清めの所作をいうが,とくに罪や過ちに対する制裁として償い物(祓柱(はらえつもの))を科すこともあり,また禊祓(みそぎはらい)()として水で身を清める方法を伴う場合もある。神事にあたって身心を清めるのを吉解除(よしはらえ),刑罰を科すことを悪解除(あしはらえ)とし,また6月と12月の晦日と大災厄の際とに大祓(おおはらえ)を執行する。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「祓」の解説


はらえ

「はらい」とも。罪・穢(けがれ)などを身から除き,清める儀式。記紀神話にみられる伊奘諾(いざなき)尊が黄泉(よみ)の国の穢を檍原(あはぎはら)で祓ったものと,素戔嗚(すさのお)尊が悪業の代償として,千座置戸(ちくらのおきど)を科されたときに天児屋根(あめのこやね)命が祓詞を宣したのが起源と伝えられ,記紀神話成立段階には実際に行われていた。穢には罪穢と汚穢があるが,当時はその区別が判然としていなかったためともに祓によって清め,はじめは解除(げじょ)の語も用いられた。大祓は,国家全体の穢を祓うために行われ,やがて6・12月晦日の年2回に固定され,大嘗(だいじょう)祭・新嘗(にいなめ)祭・斎宮卜定(ぼくじょう)など国の重要な祭事には必須のものとされた。しだいに私的な場でも行われるようになり,祓の儀も多様性を増した。

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百科事典マイペディア 「祓」の意味・わかりやすい解説

祓【はらえ】

神道で,穢れ・罪のある場合,身心・家・土地などを払い清めること。祓戸(はらえど)の四柱の神に祈り,大麻・榊(さかき)・塩湯などで払う。神祭の前には必ず行われ,修祓(しゅばつ)と呼ぶ。→大祓(おおはらえ)/
→関連項目雛祭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祓」の意味・わかりやすい解説


はらい

災厄,汚穢(おえ。けがれ),罪障などを祓って身心を清めるために行なう神事。解除とも書き,「はらひ」「はらえ」ともいう。また,そのとき,神に祈って誦する詞や,その文句を書いたお札もさす。日本上代の罪に対応する制度といえる。推古天皇以前の上代は法と宗教との未分離時代で,罪を犯した者には汚穢がついており,そのことは神を怒らすものと考えられたので,罪があると,その者に祓,すなわち汚穢の祓い落としを行なった。具体的には,神に祓具(はらえつもの)を捧げ,神主が祝詞(のりと)を奏することで行なわれた。上代も後期になると,祓と合わせて,現世的な刑罰も科するようになった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「祓」の解説


はらい

儀式により身体や環境の穢 (けがれ) を払い去ること。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【祓】より

…宗教的な罪や穢(けがれ)を除いて身心を清める方法の一つ。〈はらひ〉は他動詞〈はらふ〉四段活用,〈はらへ〉は同下二段活用の共に連用形が名詞化したもので,前者は自分で祓い,後者は他人に祓わせる意味をもつ。一般に塵や埃を拭き払うように紙や麻の祓麻(はらいぬさ)で振り払う清めの所作をいうが,とくに罪や過ちに対する制裁として償い物(祓柱(はらえつもの))を科すこともあり,また禊祓(みそぎはらい)()として水で身を清める方法を伴う場合もある。…

【坑道】より

…炭層に到達すると,ここから石炭の中を炭層に沿って沿層坑道を展開して採炭の準備が完了する。採掘された石炭は,いまと逆に,それぞれの払い(採炭切羽のこと)から沿層坑道→目貫坑道→片盤坑道→おろし斜坑を通って運ばれる。 最近の炭鉱では石炭の運搬にベルトコンベヤを用いることが多いが,そのために,斜坑の傾斜がベルトコンベヤの運搬可能範囲である20度程度以下に抑えられることがある。…

【採炭】より

… 立坑や斜坑によって炭層に到達すると,坑内に坑道を展開して採炭の準備が行われるが,これにもいくつかの考え方がある。(a)沿層坑道方式と岩盤坑道方式 沿層坑道方式は石炭層の中に主要坑道を掘削して採掘を行う方式で,〈払い〉(切羽,採掘場のこと)作りが簡単で,そのための投資が少なくて済み,直ちに出炭ができる。しかし,坑道が石炭層の中にあるため,坑道を安定に維持することが困難で,運搬や通気(坑内に新鮮な空気を供給し,汚れた空気を排出する作業)に当たって,いろいろな障害が生ずる。…

※「祓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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