精選版 日本国語大辞典 「成・為・生」の意味・読み・例文・類語
な・る【成・為・生】
〘自ラ五(四)〙
[一] (生) なかったものが、新たに形をとって現われ出る。
① 動植物が、新たに生じる。
※書紀(720)天智一〇年正月・歌謡「橘は おのが枝々 那例(ナレ)れども」
[二] (成・為) あるものやある状態から、他のものや他の状態に変わる。
① あるものから他のものに変化する。
② ある状態から他の状態に移り変わる。また、ある状態に達する。
※平家(13C前)七「矢だね皆射尽して、馬をも射させ、かちだちになり」
③ その時刻や時期に達する。その時に至る。また、時が経過する。
※古事記(712)下・歌謡「君が行き 日(け)長く那理(ナリ)ぬ 山たづの 迎へを行かむ 待つには待たじ」
※更級日記(1059頃)「十三になる年、のぼらむとて、九月三日門出して」
④ ある場所やある高さに達する。
※更級日記(1059頃)「今は武蔵の国になりぬ。ことにをかしき所も見えず」
⑤ 官職に任ぜられる。任命される。
※大和(947‐957頃)四「四位にもなるべき年にあたりければ」
⑥ みじめな状態になる。おちぶれる。→なれる果て。
※平家(13C前)二「入道かたぶけうどするやつがなれるすがたよ」
※俳諧・犬子集(1633)一五「ならぬ間ぞたのみ成ける さか馬にいられて後はつめにくし〈貞徳〉」
※大和(947‐957頃)一五六「せめられわびて、さしてむとおもひなりぬ」
[三] (成) 行為の結果が現われる。
① 物事ができあがる。やっていたことがしあがる。
※万葉(8C後)一四・三五四三「室草(むろがや)の都留(つる)の堤の那利(ナリ)ぬがに児ろは言へどもいまだ寝なくに」
② 望んでいたことが実現する。思いがかなう。
※竹取(9C末‐10C初)「思ふことならで、世中に生きて何かせん」
③ することができる。
※浄瑠璃・義経千本桜(1747)三「死でくれな小金吾、そちが死るととと様に逢事がならぬは」
④ 特に、酒が飲める。いける。
⑤ さしつかえないとしてがまんできる。たえられる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑥ 暮らしが立つ。
※浮世草子・好色敗毒散(1703)五「夫婦となりて十二年、ならぬ世帯にしほたらと明かし暮らすも」
⑦ 物事がそれによって構成される。
※春の城(1952)〈阿川弘之〉二「第一航空戦隊はこの時、大鳳、瑞鶴、翔鶴の三隻の正規空母から成っていた」
⑧ 三粒(みつぼ)ばくちで、六・一一・一六の目が出る。成り目ができる。
※浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)二「ここを一番当てたいが、南無骰子(さい)明神なり給へ当り給へ」
⑨ 貴人がある行為・動作をする。なさる。特に、ある所へおでましになる。
※紫式部日記(1010頃か)消息文「殿なむ参り給ふ、御とのゐなるなど」
な・す【成・為・生】
〘他サ五(四)〙
[一] (生) 生む。出産する。また、生み出す。産出する。つくる。
※竹取(9C末‐10C初)「おのがなさぬ子なれば、心にも従はずなんある」
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「この春、子一人なして、かくれましにき」
[二] (成・為)
① ある行為をする。行なう。
※大和(947‐957頃)一六八「身をなげしにたる物ならば、そのみちなし給へ」
※更級日記(1059頃)「武蔵の国を預けとらせて、おほやけごともなさせじ」
② ある気持をおこす。
※大鏡(12C前)一「ひたひに手をあてて、信をなしつつききゐたり」
※方丈記(1212)「ありとしある人は皆浮雲のおもひをなせり」
③ 物をつくる。つくりあげる。また、事をしとげる。
※万葉(8C後)六・九二八「もののふの 八十伴(やそとも)の男は 廬(いほり)して 都成(なし)たり 旅にはあれども」
※徒然草(1331頃)一八八「一事を必ずなさんと思はば、他の事の破るるをもいたむべからず」
④ あるものを別の状態のものにする。
※万葉(8C後)一九・四二六〇「大君は神にしませば赤駒のはらばふ田井を都と奈之(ナシ)つ」
※枕(10C終)七「思はん子を法師になしたらんこそ心ぐるしけれ」
⑤ ある状態にする。ある状態をひき起こす。
※竹取(9C末‐10C初)「多くの人の身をいたづらになしてあはざるかぐや姫は、いかばかりの女ぞとまかりて見て参れ」
※平家(13C前)一「軒騎群集して、門前市をなす」
⑥ ある時期になるのを待つ。また、ある時になるのにまかせる。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「よるになして京にはいらんと思へば」
⑦ そのように考える。みなす。
※古今(905‐914)雑上・八七五「かたちこそみ山がくれのくちきなれ心は花になさばなりなん〈兼芸〉」
※蜻蛉(974頃)上「日ごろ月ごろ、わづらひて、かくなりぬる人をば、今はいふかひなきものになして」
⑧ 官職につける。任命する。
※蜻蛉(974頃)中「しひて帥(そち)になし奉りて、おひくだし奉る」
⑨ ある物を他の物であるかのように用いる。
※万葉(8C後)一三・三三三六「高山を 障(へだて)に所為(なし)て 沖つ藻を 枕に所為(なし)」
⑩ 貴人がおでましになるようにうながす。
※保元(1220頃か)下「さらば清盛がもとへいれまゐらせよと仰せければ、西八条へなし奉るに」
⑪ 動詞の連用形に付けて、補助動詞のように用いる。そのように…する。また、意識して…する。
※万葉(8C後)一六・三八一〇「味飯を水に醸(か)み成(なし)吾が待ちし代(かひ)はさねなし直にしあらねば」
※徒然草(1331頃)五六「見ることのやうに語りなせば」
なり【成・為・生】
〘名〙 (動詞「なる(成)」の連用形の名詞化)
[一] (生)
① 生(な)ること。生(お)い出ること。「かたなり」
② 実がなること。結実。「なりが悪い」
[二] (成・為)
① なること。成功。成就。
※万葉(8C後)一四・三四九二「小山田の池の堤に刺す楊奈里(ナリ)も成らずも汝と二人はも」
② (接頭語「お」を付けて用いて) 貴人の外出や訪問の尊敬語。おでまし。おいで。→おなり。
※簾中旧記(1521頃か)「御なりの事〈略〉御なりの時の御供の様躰」
③ 将棋で、王将・金将以外の駒が敵陣にはいったり、敵陣の中で一度動くことによって、金将と同じ力を得ること。飛車と角行は本来の力の上に、金将・銀将と同じ力を合わせ持つ。なりきん。
※滑稽本・古今百馬鹿(1814)上「『向の角の尻っぱたへ、銀を引置ねえナ』『只とられる』『ムム成(ナリ)か』」
④ 近世の租税の率をいう。高一石について「六つ成」は六斗、「五つ成」は五斗を年貢として上納した。
⑤ 三個の賽(さい)を用いてする賭博(とばく)で、出た数の合計が六・一一・一六のどれかになることをいう。この目が出れば胴親の勝となる。
※浄瑠璃・歌枕棣棠花合戦(1746)三「ヤレ悲しや、又なりを打たれたは」
なし【成・為・生】
〘名〙 (動詞「なす(成)」の連用形の名詞化)
① (生) 生むこと。
※万葉(8C後)九・一八〇四「父母が 成(なし)のまにまに 箸向ふ 弟の命は」
② (成・為) そのようにさせること。しむけること。
※源氏(1001‐14頃)紅梅「猶たぐひあらじと思ひ聞えし心のなしにやありけん」
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