差向(読み)さしむき

精選版 日本国語大辞典 「差向」の意味・読み・例文・類語

さし‐むき【差向】

[1] 〘名〙
① 向きあうこと。さしむかい。
人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)五「二個(ふたり)さし対(ムキ)の何かもつれし咄し声」
② 現在直面していること。当面すること。
※絅斎先生敬斎箴講義(17C末‐18C初)「読ば読むなりに、どうなりと指前指向の事なりに、づんど失ぬぞ」
[2] 〘副〙
① 今のところ。さしあたり。とりあえず。目下(もっか)
※幕末御触書集成‐九八・慶応元年(1865)八月二一日「差向出帆之御船も有之候間」
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉八「さし向何もする事がないので」
② いってみれば。さしずめ。結局。
社会百面相(1902)〈内田魯庵閨閥「男は某省高等官秋葉学士、さしむき半道仇(はんだうがたき)に打ってつけの顔に不似合なゾロリとしたる扮装(いでたち)

さし‐むか・う ‥むかふ【差向】

〘自ワ五(ハ四)〙 (「さし」は接頭語)
① その方に向かって行く。
② 向かい合う。
(イ) 物が向かい合って位置している。その方に向いている。
万葉(8C後)九・一七八〇「牡牛(ことひうし)三宅の潟(かた)に 指向(さしむかふ) 鹿島の崎に さ丹塗の 小船を設(ま)け」
(ロ) 特に、人が向かい合う。対座する。
※宇津保(970‐999頃)蔵開中「よところさしむかひて、ひとにきかせできこしめす」
徒然草(1331頃)一七五「冬、せばき所にて、火にて物煎(い)りなどして、へだてなきどちさしむかひて、多く飲みたる、いとをかし」
③ ある事態に、現在直面している。当面する。
源氏(1001‐14頃)薄雲「親王たち、大臣御腹といへど、猶、さしむかひたる劣りの所には、人も、思ひおとし、おやの御もてなしも、えひとしからぬものなり」

さし‐む・く【差向】

[1] 〘自カ四〙 (「さし」は接頭語)
① その方に向く。向きあう。
※三百則抄(1662)二「深、月にさしむき花にさしむく時き」
② 直面する。当面する。
※大学垂加先生講義(1679)「扨さしむいてあらはれたる語は」
和歌連歌などで、技巧に凝らず素直な表現をする。
※白髪集(1563)「此等発句、さしむきたる儘の正直なる物共也」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒さしむける(差向)

さし‐む・ける【差向】

〘他カ下一〙 さしむ・く 〘他カ下二〙 (「さし」は接頭語)
① その方に向かせる。
太平記(14C後)二二「すは此(ここ)を射よとて、後ろを差向(さしむけ)てぞ休みける」
② つかわす。派遣する。行かせる。やる。さしまわす。
※平家(13C前)七「既に討手をさしむけらるる由聞えしかば」

さし‐むかい ‥むかひ【差向】

〘名〙
① 人や物が向かい合って位置していること。特に、二人の人が向かい合っていること。さし。対座。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「何心もなきさしむかひを、あはれと思すままに」
② その物の向く方向。正面の方角。
※街道記‐「奥の細道」の杖の跡(1952)〈井伏鱒二〉「その対岸の差向ひに、はりまといふ宿屋がある」

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