尿(読み)にょう(英語表記)urine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿
にょう
urine

腎臓(じんぞう)において血液が濾過(ろか)されてつくられる排泄(はいせつ)物質で、同時に排泄される水分とともに溶液状態をなし、小便または小水(しょうすい)ともよばれる。血液中には、身体組織の代謝活動の結果生じた老廃物や有害な化学物質が含まれているが、これらが濾過されて尿となる。したがって、尿中に含まれる成分と血漿(けっしょう)成分とを比較してみると、尿中には、血漿中に存在する身体にとって有用な成分はほとんど排泄されず、逆に不要な成分が高濃度に濃縮されて排泄されている。腎臓の腎小体(毛細血管が集合した糸球体と漏斗(ろうと)状のボーマン嚢(のう)からなる)において最初に血漿から濾過された液体を原尿(糸球体濾液)とよぶ。原尿の組成は血漿からタンパク成分を除いたものに等しく、そのなかには不要な老廃物のみならず、水、ナトリウム、糖などの有用な成分も多量に含まれている。しかし、この原尿がボーマン嚢に続く尿細管集合管を流れ下る間に有用な成分は再吸収され、逆に不要な成分がさらに分泌されてしだいに濃縮され、最終的な尿となる。尿は腎盂(じんう)(腎盤)から尿管の蠕動(ぜんどう)によって膀胱(ぼうこう)に送られ、貯留する。膀胱内にある程度尿がたまると、膀胱壁が伸展されて尿意を生じ、内膀胱括約筋、外膀胱括約筋が弛緩(しかん)して尿は体外に排泄される。これを排尿という。

[真島英信]

1日の排泄量

健康成人の場合、尿は1日におよそ1500ミリリットル前後排泄されるが、この尿量の変動は主として水の摂取量によって決まる。水を多量に飲めば尿量は増加し、逆に水の摂取量が少なかったり、発汗が多い場合、あるいは下痢によって消化管からの水の喪失が多い場合には尿量は減少する。すなわち、腎臓は水の摂取量あるいは喪失量に応じて尿量を調節し、体内に含まれる水分量のバランスをとっているのである。尿量の最低限界は1日に500ミリリットルであり、これ以上の尿を出さないと老廃物を水溶液として排出しきることができなくなる。尿量が500ミリリットル以下となった場合を乏尿といい、まったく出なくなるものには無尿尿閉とがあり、緊急に治療することが必要となる。逆に尿量が持続的に3000ミリリットル以上になった場合を多尿といい、尿崩症のときなどに観察される。ただし、健康人でも水を多量に摂取したあとには、尿量が3000ミリリットルを超える場合もある。尿の生成量は夜間の睡眠中は少ないが、日中は増加して夜間の2~4倍となる。尿の比重は通常1.012~1.025であるが、これは尿量とほぼ反比例して増減する。すなわち、尿量の多いときには水が多量に排泄されているため、尿は希薄となって比重は低下するが、尿量が少ないときは水の排泄量も少ないため、尿は濃縮されて比重は大となる。

[真島英信]

尿の成分

尿の主成分は水であり、通常は尿の95%を占める。したがって、尿100ミリリットル中の固形物は平均5グラムであり、そのうち、もっとも多いのは尿素(約2グラム)である。尿素はタンパク質に由来し、食事として摂取したタンパク質、および身体を構成しているタンパク質が分解されて排泄される。つまり、尿素の排泄量はタンパク質の摂取量に大きく左右されるわけである。また、尿中には塩化ナトリウム(食塩)が平均0.6グラム含まれるが、これは食塩の摂取量に影響される。そのほか尿中に含まれる物質のおもなものとしては、硫酸イオン0.2グラム、リン酸イオン0.12グラム、カリウム0.15グラム、クレアチニン0.1グラムのほか、尿酸、アンモニア、カルシウムなどがあげられる。また、微量ではあるが、性ホルモンやビタミン類、ケトン体なども排泄される。しかし、正常な尿においては、糖やタンパク質はまったく、あるいは極微量しか検出されない。尿中に糖が排泄される場合を糖尿といい、糖尿病のときによくみられる。また、タンパク質が排泄される場合をタンパク尿といい、急性腎炎や慢性腎炎にかかって糸球体・尿細管が障害される結果出現するものである。尿の水素イオン濃度(pH)は通常は5.0~7.0の範囲(平均6.0)であるが、健康者でも食事の内容や身体の状態などによってこの値は変化する。なお、新鮮な尿は弱酸性であるが、放置すると尿素が分解されてアンモニアを生じ、アルカリ性に変化する。

[真島英信]

尿の色

健康な人の尿は透明であり、色は無色ないし淡黄色である。この色の基になっているのはウロクロムurochromeとよばれる色素であるが、その起源はよくわかっていない。尿の色は、尿量が少ないときは濃く、尿量が多くなるにつれて無色に近づく。尿の透明さが失われて混濁したものを混濁尿といい、次のようなものがある。すなわち、尿路(尿道・膀胱・腎盂など)の炎症によって、そこから膿(のう)が尿中に混じる場合(膿尿)、塩類が不溶解のまま尿中に排泄される場合(塩類尿)、尿路とリンパ管との間になんらかの原因で交通が生じ、尿中にリンパが混じる場合(乳糜(にゅうび)尿)などである。また、尿中に血液が混じる場合を血尿という。新鮮な出血であれば尿は鮮紅色、出血後時間が経過している場合は褐色調となる。血尿は腎臓や尿路の炎症、腫瘍(しゅよう)、あるいは結石などによって出現することが多いが、健康な人でも、きわめて激しい運動のあとには血尿が認められることがある。胆管の閉塞(へいそく)や肝炎などでは尿中に直接ビリルビンが排泄されて尿は黄色に着色する。この尿の黄変は皮膚の黄変に先行する黄疸(おうだん)の先駆症状である。

[真島英信]

異常尿

病気に気づく最初の症状となることが多い。重要なものにタンパク尿と糖尿があり、いずれも検尿して発見される。一般に気づきやすいのは、混濁、色調、臭気の異常である。混濁尿で重要なのは、血液の混じった血尿、膿のために黄白色を呈する膿尿である。このほか、牛乳状を呈する乳糜尿や、プディングのように固まる線維素尿(いずれもフィラリアの寄生が原因)をはじめ、精液もしくは前立腺(せん)液が混じって白濁する精液尿、糞便(ふんべん)が混じる糞尿や、腸内ガスが尿とともに出て排尿時に異様な音を発する気尿(ともに膀胱腸瘻(ろう)による)などがある。新鮮な健康尿は透明であるが、放置すると濁ってくる。食物などの関係で尿がアルカリ性になると、炭酸塩やリン酸塩が析出して放尿時にすでに混濁を認める。また、冷たい尿器に排尿すると、尿酸塩が析出してれんが色に濁る。こうした塩類尿は一過性であり、心配はない。

 尿は全体として清透であるが、その中に糸屑(いとくず)のようなもの(尿糸)が浮遊することがある(慢性尿道炎)。色調の異常としては血尿が重要であるが、その色はつねに鮮紅色を呈するとは限らない。腎出血などではやや黒みを帯びていることもある。血尿を思わせる外観を呈する血色素尿(中毒や寒冷による)やメラニン尿のほか、薬剤や食物の色素によるものもある。また、黄疸のときには胆汁色素のため緑褐色になり、尿器ごと振ると黄褐色の泡を生ずる。臭気の異常は比較的少ないが、慢性膀胱炎、とくに残留尿のある前立腺肥大症では悪臭がひどくなることがある。また、糖尿病ではアセトンの存在によって尿が発酵して果実臭を発することがあり、かつてはくみ取り従事者に家族内に患者のいることを指摘されることもあった。なお、妊娠尿の動物試験による早期妊娠診断法も古くから行われてきた。

[加藤暎一]

動物の尿

動物においても、排出器官により体液から濾過され、集められて体外に排出される溶液状態をなすものを尿という。脊椎(せきつい)動物の尿は腎臓でつくられる。淡水産の硬骨魚類は血液よりも低張の尿を多量に排出する。海産魚は血液と等張の尿を少量排出するとともに、えらにある特別な細胞(塩類細胞)から塩類を積極的に排出して体液の浸透圧を海水よりも低く保っている。陸生脊椎動物の腎臓では、マルピーギ小体と細尿管で尿が生成される。マルピーギ小体では糸球体の中の血液から血球と大部分のタンパク質を除いた成分がボーマン嚢へ濾(こ)し取られ、原尿となる。原尿が細尿管を流れる間に、水分、塩類、ブドウ糖などの有用成分が毛細血管へ再吸収される。これに対して尿素、尿酸などの老廃物はほとんど再吸収されないので、血液成分中の老廃物だけがきわめて濃縮された尿となる。

[川島誠一郎]

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百科事典マイペディア 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿【にょう】

排出器官を通じて水分とともに体外に排出される体液中の不要物質。脊椎動物では腎臓でつくられる。代謝終産物(特に尿素などの窒素化合物),無機成分としてはナトリウム,カリウム,カルシウム,塩素,リン酸,硫酸の各イオンなどを含む。健康な成人の1日の尿量は平均して男1.5l,女1.2l。正常では帯黄色透明で弱酸性(pH5.5〜6)。病的状態ではブドウ糖,タンパク質など種々の成分が出現し,尿検査の対象となる。なお尿は不要成分の排出とともに,体液の浸透圧,pH保持に働くとともに,マーキングなど動物間のコミュニケーションの手段としても役立つ。一般に淡水産動物は低張で多量,陸生動物は高張で少量の尿を排出し,乾燥地帯にすむものにそれが著しい。含まれる窒素代謝終産物は,主として水生無脊椎動物でアンモニア,昆虫,陸生貝類,爬虫(はちゅう)類,鳥類で尿酸,魚類,両生類,哺乳(ほにゅう)類で尿素など。→排出器官
→関連項目排出

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精選版 日本国語大辞典 「尿」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆまり(尿)」の変化した語) =ゆまり(尿)〔十巻本和名抄(934頃)〕
※石山寺本大般涅槃経治承四年点(1180)九「蚊の子の尿(ユハリ)は此の大地を潤ひ洽はしむること能はずといふがごとし」
[語誌](1)上代、大小便を排泄することを「まる」と言い、「くそ(糞)」と区別して、小便の方はあたたかい水であるところから「ゆ(湯)をまる」ということで「ゆまり」と呼んだ。中古には語源が忘れられて「ゆばり」の形が一般化する。なお中古には「しと」の語も用いられており、こちらの方がやや上品な語と意識されていたらしい。
(2)中古中期には「いばり」の形が生じ、さらに中世前期には語頭を脱した「ばり」の形も現われ、語形がゆれている。

ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり(尿)」の変化したもの)
① 小便。にょう。いばり。また、小便をすること。
※源平盛衰記(14C前)二「医師の云尿(バリ)を飲ま令め、味を以て存否をしらんと云けれ共」
② (小便くさい人の意か) 少年や青年など、若い人をあざけったりののしったりしていう語。青二才。
※浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)野崎村「納める程猶ごふ腹にやし、大まいの銀引負(ひきをい)した其ばりめ」

しし【尿】

[1] 〘感動〙 幼児に小便をさせる時のかけ声。
※俳諧・天満千句(1676)九「ししししし志賀の都は春めきて〈未学〉 細波よする迹の小便〈武仙〉」
[2] 〘名〙 (「しじ」とも) 小便をいう幼児語または女性語。し。しい。しっこ。
※御伽草子・福富長者物語(室町末)「ししにやよだれにや、鬼うばが背中より裾下りにしかけ」

しい【尿】

〘名〙 (「しと(尿)」の「し」の変化した語)
① 小便をすることをいう幼児語。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)初「しいをやる時にさむらいみたといふ」
② 幼児に小便をさせるときに、促す語。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「サア、小便(ざあざあ)しな。シイ(引)」

ゆ‐まり【尿】

〘名〙 (「ゆ」は湯、「まり」は排泄する意の動詞「まる(放)」の連用形の名詞化) 小便。尿。ゆばり。いばり。
※書紀(720)神代上「乃ち大樹に向ひて(ユマリ)(ま)る〈略〉、此をば愈磨理(ユマリ)と云ふ。音は乃弔反」
[語誌]→「ゆばり(尿)」の語誌

しと【尿】

〘名〙 小便。しとと。
※宇津保(970‐999頃)歳開上「父君にしと多(ふさ)にしかけつ」
[補注]「霊異記‐下」の「仏坐の上に屎矢(くそまり)穢し〈略〉〈類従本訓釈 矢 麻利〉」について、真福寺本では「矢」を「失」とし、「失 糸土」と訓釈をつけている。

い‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり」の変化した語) 小便。ばり。ゆまり。
※石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)六「有る一分は糞を食ひ溺(イバリ)を飲み」 〔日葡辞書(1603‐04)〕

よ‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり(尿)」の変化した語) 小便。
※梵舜本沙石集(1283)八「或時水船の上に立はだかりて、よばりをまりければ」

し【尿】

〘名〙 「しし(尿)」の略。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿
にょう
urine

腎臓でつくられ,尿道から排出される液体。血液が腎臓の糸球体を通過しているうちにろ過され,さらに尿細管を流れているうちに,身体に必要な糖,水分,電解質,ある種の塩類などは再吸収される。残りの有毒,不要なものが尿となる。このろ液の量は1日に 100l以上もあるから,正常人の1日の尿量1l強からみると,ろ液の大部分は再吸収されていることになる。尿は尿細管に次いで集合管,腎杯,腎盂を経て,袋状の膀胱に運ばれ,平均して 0.2l前後になると,尿意が働き,排尿される。

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デジタル大辞泉 「尿」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐まり【尿】

《「ゆ」は湯、「まり」は排泄する意の動詞「ま(放)る」の連用形の名詞化》小便。ゆばり。いばり。
伊弉諾尊いざなぎのみこと乃ち大樹に向かって―まる」〈兼方本神代紀・上〉

にょう【尿】[漢字項目]

常用漢字] [音]ニョウ(ネウ)(呉) [訓]いばり ゆばり
小便。「尿意尿道血尿検尿排尿糞尿ふんにょう放尿泌尿器

ばり【尿】

《「ゆばり」「いばり」の音変化》小便。
のみしらみ馬の―する枕もと」〈奥の細道

にょう〔ネウ〕【尿】

腎臓じんぞうで生成される排泄液はいせつえき。水分中に尿素・塩分などが含まれる。小便。
[類語]小便小水おしっこ

しと【尿】

小便。しとと。
「この宮の御―にぬるるは、うれしきわざかな」〈紫式部日記

しい【尿】

《「しと」の音変化》小便をいう幼児語。しいしい。

しし【尿】

小便をいう幼児語。しっこ。しい。

いばり【尿】

《「ゆばり」の音変化》小便。ばり。ゆまり。

ゆ‐ばり【尿】

ゆまり」の音変化。〈和名抄

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栄養・生化学辞典 「尿」の解説

尿

 血漿成分が腎臓でろ過されて,生体が必要とする物質を再吸収したあと,排泄される液体.

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世界大百科事典 第2版 「尿」の意味・わかりやすい解説

にょう【尿 urine】

動物の体液中に含まれる不要物質が,排出器官を通じて水とともに体外に出されるもの。脊椎動物は排出器官として発達した腎臓をもっている。哺乳類では腎臓でつくられた尿は輸尿管を通って膀胱に集められ,間欠的に尿管を通って体外に出される。再吸収や分泌される物質の種類と量は,体液の浸透圧やイオン調節と関連して,おもにホルモン(アルドステロン,バソプレシンなど)によって調節され,適当な濃度の尿ができる。海水魚のように体液より高張な環境にすむ動物は比較的濃い尿を,淡水の動物は体液より淡い尿を出す。

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世界大百科事典内の尿の言及

【腎臓】より

… 外形も動物により異なり,一般には左右1対であるが,軟骨魚類や硬骨魚類のように左右が融合したり,鳥類のように前・中・後葉と3葉に分葉したり,哺乳類の腎臓でも普通にみられるソラマメ型から多くの小腎からなる葉状腎をもつものまで多様である(図3)。 腎臓は多数の腎単位,すなわちネフロンnephronの集合したもので,腎単位は腎小体(ラテン名corpusculum renis,英名renal corpuscle)と尿細管(ラテン名tubulus renalis,英名renal tubule)とからなり,排出機能を営む一つの構造単位である。腎動脈血の供給を受けている糸球体とそれを包むようにしてボーマン囊Bowman’s capsuleがあり,この両者をいっしょにして腎小体という。…

※「尿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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