尿素(読み)にょうそ(英語表記)urea

日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿素」の意味・わかりやすい解説

尿素
にょうそ
urea

炭酸のジアミドに相当する化合物。ユリアウレアカルバミドcarbamideともいう。動物の尿中に存在するのでこの名がある。無色無臭の柱状結晶。尿素は1773年にフランスの化学者ルエルHilaire Marin Rouelle(1718―1799)により尿中から分離された。人工的には、1824年ドイツのウェーラーによりシアン酸アンモニウムから合成されたのが最初である。このウェーラーの合成は、無機物から有機物を合成できることを示し、有機物は生物のみが合成できるとした生気論を実験により否定した点で有名である。

 現在の製造法としては、カルシウムシアナミドの加水分解(石灰窒素加水分解法)、アンモニアと二酸化炭素との反応で生成するカルバミン酸アンモニウムの脱水(直接合成法)などの合成法があるが、後者が工業的方法の主流となっている。

 水、エタノール(エチルアルコール)には可溶、エーテルには不溶。150~170℃でビウレットH2NCONHCONH2を生成。またアルカリ性で硫酸銅を加えると紫色を呈する。

 多くの直鎖炭化水素やその誘導体と包接化合物をつくる。肥料ユリア樹脂尿素樹脂)の原料としておもに利用されている。そのほか、利尿剤や催眠剤の原料(バルビツール酸誘導体)、石油中のn-アルカンの抽出、ヒドラジンやメラミンの合成原料としても用いられる。

[務台 潔]

生体中の尿素

動物界にかなり広く存在し、脊椎(せきつい)動物の血液や体液をはじめ、哺乳(ほにゅう)類の尿中などに多いが、線虫類や甲殻類、あるいは軟体動物にもみられ、キノコやカビなどの菌類中にもわずかに存在する。サメやエイなどの軟骨魚類の筋肉中には多量の尿素が含まれる。ヒトその他の哺乳類や両生類の成体、軟骨魚類においては、尿素はタンパク質の最終分解物中の大部分を占める。植物や細菌・酵母に存在するウレアーゼの作用を受け、二酸化炭素とアンモニアを生成する。

 生体中ではタンパク質がアミノ酸に分解され、さらにアンモニアを経て肝臓に存在するオルニチン回路尿素回路ともいう)において生成される。この回路における諸反応により有毒なアンモニアが無毒な尿素に変化する。尿素回路の酵素の異常による高アンモニア血症や脳症などが知られている。こうして生じた尿素は、もはや利用されることなく尿中に排出される。排出量はタンパク摂取量に関係しており、ヒトでは1日に25~35グラムで、尿の窒素成分の80~90%、固形成分の約2分の1を占める。尿素は腎臓(じんぞう)を通じて尿中に排出されるが、腎疾患あるいは尿路閉塞(へいそく)をおこすと血中濃度が高くなる。したがって、血中および尿中の尿素値の変動は、代表的な臨床化学検査項目の一つである。なお、窒素の最終産物として鳥類は尿酸の形で、硬骨魚類はアンモニアの形で排出する。

[飯島道子]

肥料

尿素は45%以上の窒素を含み市販の窒素肥料中もっとも高成分なので、輸送費、包装費など経費がかからないこと、大規模な工場生産に適すること、また中性肥料であり、連用しても土壌が悪変しにくいことから、肥料としての消費量が大幅に伸び、硫安と並んで窒素肥料の双璧(そうへき)となっている。尿素は土の中で微生物の作用でアンモニウム塩に変わり、植物に吸収されるようになる。この変化は季節や土の種類で違ってくるが、通常夏季では2、3日、冬季では1、2週間かかる。このように有効化に多少の期間が必要であるが、肥効は速効性の部類に属する。尿素の欠点としては、イオン化しないので土に吸収されにくく雨水で流されやすいことがあげられる。

[小山雄生]

『森正敬著『生体の窒素の旅』(1991・共立出版)』『丸山工作著『生化学をつくった人々』(2001・裳華房)』『R・K・マレー他著、上代淑人・清水孝雄監訳『ハーパー生化学』原書28版(2011・丸善)』


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化学辞典 第2版 「尿素」の解説

尿素
ニョウソ
urea

carbamide.CH4N2O(60.05).CO(NH2)2.炭酸のジアミド,カルバミン酸のアミドに相当する.ヒトやほかの動物の体内でタンパク質が分解する際に生成し,尿中に排出される(成人では30 g d-1).植物にもわずかに存在する.クロロギ酸エステル,塩化カルバモイル,炭酸エステル,ホスゲンなどにアンモニアを作用させると生成する.工業的には,液体アンモニアと二酸化炭素を高圧(15.2~25.3 MPa),高温(180~200 ℃)で反応させると得られる.弱い塩味をもつ無色の柱状晶.融点132 ℃.1.335.1.484.エタノールや水に易溶,エーテルに難溶.弱塩基性で,酸とは塩を形成する.徐々に熱すると,融点以上でシアヌル酸に,150~170 ℃ でビウレットとアンモニアに,200 ℃ でシアヌル酸トリウレイドに分解する.水溶液は酸やアルカリとの加熱,酵素ウレアーゼの作用によりアンモニアと二酸化炭素に加水分解し,亜硝酸を作用させると窒素を発生する.アルカリ性水溶液中で次亜臭素酸を作用させると窒素を生じるが,この反応はウレアーゼによる反応とともに尿素の定量に用いられる.

  CO(NH2)2 + 3NaOBr + 2NaOH

→ N2 + Na2CO3 + 3NaBr + 3H2O  

尿素に酸塩化物を作用させるとウレイド(アシル尿素)を生成する.尿素は直鎖状炭化水素,脂肪酸,アルコール類と結晶性の付加物をつくるので,これらの分離精製にも利用される.尿素肥料,尿素樹脂原料として大量に使われるほか,利尿剤や分析用試薬にも用いられる.[CAS 57-13-6][別用語参照]尿素の工業的製法

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿素」の意味・わかりやすい解説

尿素
にょうそ
urea

化学式 (NH2)2CO 。無色の結晶で,塩辛い味がする。融点 132.7℃。哺乳類の尿,その他の動物の体液などに広く存在する。尿素は蛋白質が体内で分解する際に生じるものであって,成人は1日約 30gを排泄する。 1828年,F.ウェーラーによってシアン酸アンモニウムから合成され,これによって「有機物質は生命力によってのみつくられる」という従来までの考えが否定された。尿素は希酸,希アルカリによってアンモニアと二酸化炭素に分解する。用途としては,肥料,尿素樹脂の原料,医薬品製造原料として重要であり,アンモニア,二酸化炭素を原料として工業的に生産されている。

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百科事典マイペディア 「尿素」の意味・わかりやすい解説

尿素【にょうそ】

化学式はCO(NH22。無色の結晶。ウレアともいう。比重1.335,融点135℃。水,アルコールに可溶。1828年ウェーラーによって,初めて無機化合物から人工的に合成された有機化合物として著名。カエルなど両生類の成体,軟骨魚類,水生爬虫(はちゅう)類,哺乳(ほにゅう)類の窒素代謝の主要な終産物。一般的には肝臓で尿素回路によって生成される。工業的にはアンモニアと炭酸ガスからの直接合成によってつくる。窒素肥料,尿素樹脂,医薬原料など用途は広い。
→関連項目石灰窒素石灰窒素工業窒素肥料尿素樹脂

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精選版 日本国語大辞典 「尿素」の意味・読み・例文・類語

にょう‐そ ネウ‥【尿素】

〘名〙 炭酸のジアミド。化学式 CO(NH2)2 無色無臭の正方晶系結晶。脊椎動物の血液・体液、哺乳動物の体液、軟骨魚類の筋肉、線虫類・甲殻類など動物界に広く存在し、工業的にはアンモニアと二酸化炭素とから直接合成してつくる。人体や肉食動物の体内では蛋白質が分解して生じ尿として排泄される。多くの酸・塩・有機化合物と複塩ないし付加物をつくり、肥料、ユリア樹脂の原料、医薬品などに用いられる。
※医語類聚(1872)〈奥山虎章〉「Azotouria 尿中ニ多ク尿素ヲ分泌スルコト」

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デジタル大辞泉 「尿素」の意味・読み・例文・類語

にょう‐そ〔ネウ‐〕【尿素】

窒素を含む有機化合物。無色の柱状結晶。水・エタノールに溶ける。生体内でのたんぱく質代謝の最終生成物で、哺乳類やカメ・カエル・サメなどの尿中に多い。工業的には二酸化炭素アンモニアとから合成され、肥料・尿素樹脂の原料。化学式CO(NH22 カルバミド。ユリア。ウレア。

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栄養・生化学辞典 「尿素」の解説

尿素

 CH4N2O (mw60.06).H2NCONH2.哺乳類のアミノ酸など窒素化合物の代謝最終生成物の主たる物質で,水に溶けやすく,毒性がない.尿素サイクルで合成される.ヒト血液の正常値は窒素量にして8〜25mg/dlとされる.

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世界大百科事典 第2版 「尿素」の意味・わかりやすい解説

にょうそ【尿素 urea】

化学式CO(NH2)2。ウレア,ユリア,カルバミドcarbamideともいう。炭酸H2CO3のジアミドに相当する無色柱状結晶。ヒトや肉食動物の尿中に(ヒトの場合1.5~2.0%)含まれるのでこの名がある。尿中だけではなく動物の血液,体液,とくに軟骨魚類の筋肉に大量(1~2%)に含まれている。ヒトや肉食動物の体内ではタンパク質が分解され,アミノ酸を経てアンモニアとなり,肝臓内で尿素に変換される。尿素は細胞膜を容易に透過し,腎臓を通じて体外に排出され,ヒト(成人)では1日30gに達する。

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世界大百科事典内の尿素の言及

【アルギナーゼ】より

…尿素生成反応を触媒する酵素。ヒトをはじめ哺乳類,両生類の肝臓,腎臓などに含まれ,尿素回路の一員として働き,アルギニンを分解してオルニチンと尿素を生成する。…

【窒素肥料】より

…窒素はタンパク質,核酸,アミノ酸などに含まれる植物の重要元素であり,その欠乏は植物の生育を顕著に抑制する。肥料として広く用いられている窒素化合物としてはアンモニウム塩類,硝酸塩類,尿素,石灰窒素であり,そのほかに尿素とアルデヒド類との誘導化合物のウレアホルム,イソブチリデンダイウレア,クロトニリデンダイウレア,グアニル尿素などの緩効性合成有機質窒素肥料もある。また,油かすや魚肥など動植物質の天然有機質肥料も主としてタンパク質やアミノ酸の形で窒素を含んでおり,窒素肥料となる。…

【尿】より

…無脊椎動物でも,原腎管(扁形動物,袋形動物),腎管(環形動物,軟体動物),触角腺(甲殻類),マルピーギ管(昆虫類)など各種の排出器官を通じて尿が排出される。尿の主成分である窒素化合物はアンモニア,尿素,尿酸などで,タンパク質や核酸の代謝最終生成物である。これらの窒素老廃物の比率は動物の系統によって異なり,また同じ系統群のなかでも,種の生活環境に応じた変化がみられるが,おおざっぱにいって,水生無脊椎動物はアンモニア,哺乳類,両生類,魚類は尿素,鳥類,爬虫類,昆虫類,陸生巻貝類は尿酸が主成分である。…

【排出】より

…その結果,物質の種類によって血中濃度にたいする尿中濃度の比(U/P比)に大きな差を生じる。たとえばヒトではこの比はブドウ糖0,尿素70,クレアチニン50,ナトリウム1,カリウム8,リン酸17である。再吸収や分泌は脳下垂体後葉から出るバソプレシン,副腎皮質のコルチコイドなどのホルモンで制御されており,血液組成の恒常性の維持に重要な役割を演じている。…

※「尿素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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