尿検査(読み)ニョウケンサ

デジタル大辞泉 「尿検査」の意味・読み・例文・類語

にょう‐けんさ〔ネウ‐〕【尿検査】

診断のため、尿を検査すること。尿にさまざまな代謝産物が排出されるので、腎臓・泌尿器だけでなく全身の疾患を見つけるため行われる。検尿。

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内科学 第10版 「尿検査」の解説

尿検査(腎・尿路系の疾患の検査法)

(1)尿検査
 尿の異常は,量的な異常と質的な異常に大別できる.尿量は,健常成人では1日500〜1500 mLであり,50〜100 mL以下を無尿,400 mL以下を乏尿,2500 mL以上を多尿とよぶ.以下尿の質的異常について述べる.
a.色調,混濁
 通常,尿は淡黄色から黄褐色を呈するが,疾患により色調の変化をきたすことがあり(表11-1-14),鑑別の手がかりとなる.なお,薬剤の影響(ビタミンB2で濃黄色など)も考慮する.尿が混濁している場合は,血尿,膿尿,細菌尿,塩類の析出などを考慮し,尿沈渣にて鑑別する.
b.尿比重・尿浸透圧
 尿比重は,腎の濃縮力・希釈力の指標であり,尿細管機能を表す.希釈尿・等張尿・濃縮尿に分類され,等張尿では,比重は1.010程度,浸透圧は290 mOsm/kg程度である.尿に含まれる溶質のモル数を反映する尿浸透圧に比べ,尿比重は,蛋白質・糖・造影剤のように電解質より分子量の大きい物質が尿に含まれていると高値を示すことに注意する.
c.尿糖
 糸球体で濾過されたグルコースは尿細管でほとんどすべて再吸収される.しかし血糖値が170~180 mg/dL以上になると,再吸収の閾値をこえて尿糖が出現する.また,近位尿細管障害でも,再吸収障害により尿糖が出現する.
d.ビリルビン,
ウロビリノーゲン
 肝疾患のスクリーニングに用いられる(表11-1-15).正常ではビリルビン(−),ウロビリノーゲン(±)である.
e.尿蛋白
 尿蛋白検査は,腎疾患の診断において最も重要な検査である.蛋白尿は,150 mg/日以上の蛋白が尿中に排泄されることを指す.健常人でも蛋白は少量排泄されているが,多くはTamm-Horsfall蛋白やグロブリンであり,アルブミンは30 mg/日未満である.生理的蛋白尿として,発熱・過激な運動などがある.起立性蛋白尿の診断のためには,早朝尿と来院時尿の尿蛋白定量を行う.病的な蛋白尿はその機序から,腎前性,糸球体性,尿細管性,腎後性に分けられる(図11-1-14).腎前性蛋白尿は,多発性骨髄腫で産生されるBence Jones蛋白のように低分子蛋白が大量に産生されるために,糸球体を濾過した蛋白が尿細管での再吸収閾値を超えて尿中に排泄されるものである.糸球体性蛋白尿は,糸球体からの漏出によるものであり,アルブミンがその主体であるが,糸球体基底膜障害が高度になると,IgGも漏出する.トランスフェリンとIgGのクリアランスの比(Ctransferin/CIgG)をselectivity indexといい,0.2以下が正常(高選択性)である.β2-ミクログロブリン(β2-MG)のような低分子蛋白は糸球体を濾過した後,近位尿細管でほとんど再吸収されるが,近位尿細管障害が存在すると,再吸収低下により尿蛋白が出現する.また,近位尿細管に存在するN-acetyl-β-glucosaminidase(NAG)は,尿細管障害に伴って尿中に出現する.腎後性蛋白尿は,尿路からの分泌・漏出によるものである.
 ⅰ)尿定性試験
 試験紙法は,健診などのスクリーニングから一般患者まで広く用いられているが,診断のためには,その特性を知る必要がある.試験紙法は,アルブミンには感度・特異度が高いが,IgGやBence Jones蛋白などには検出度が低い.試験紙法で(±)だが,尿蛋白定量で(2+)というような乖離がみられる場合は,Bence Jones蛋白などの存在を疑い,尿免疫電気泳動法を用いて蛋白の同定を行う.また,試験紙法は,指示薬の蛋白誤差を利用して検出しているため,アルカリ尿で偽陽性を示す.試験紙法では,尿蛋白(+)が30 mg/dL,(2+)が100 mg/dLにほぼ統一されている.
 ⅱ)尿蛋白定量
 糸球体腎炎や糖尿病性腎症の予後の判定のみならず,心血管病のリスクを考える上で,1日の尿蛋白排泄量を把握することが重要であり,GFRと蛋白尿による慢性腎臓病患者の新しい重症度分類が発表された(新しい重症度分類については【⇨表11-2-1】).尿蛋白は,採取時の希釈・濃縮により濃度が変化するので,随時尿の蛋白濃度だけでは,1日尿蛋白量を推定することはできない.24時間蓄尿での把握が望ましいが,外来診療で蓄尿が困難な場合は,尿蛋白クレアチニン補正を用いる.成人の1日のクレアチニン排泄量は1 g程度であるので,随時尿の蛋白濃度をクレアチニンで補正することにより1日尿蛋白排泄量を推定することができる.たとえば,随時尿の蛋白濃度が250 mg/dLで,クレアチニン濃度が100 mg/dLの場合,250/100=2.5 g/g Crとなり,尿蛋白は2.5 g/日と推定できる.
 ⅲ)微量アルブミン尿
 正常範囲をこえて尿中にアルブミンが排泄されている状態を微量アルブミン尿とよぶ.日内変動があり,夜間に低く,運動により増加するため,随時尿では午前中の採取が望ましい.微量アルブミン尿は,尿中アルブミン値が随時尿で30〜299 g/g Cr,24時間蓄尿で30〜299 mg/日,夜間蓄尿で 20〜199 μg/分と定義される.微量アルブミン尿は早期糖尿病性腎症の診断によく用いられるが,最近では血管内皮傷害のマーカーとして心血管病のリスク因子としても重要である.蛋白尿をアルブミン尿に換算する場合は,ほぼ0.6倍すればよい.ただし,微量アルブミン尿の段階では,尿細管性蛋白などが占める割合が多いため,蛋白尿150 mgがアルブミン尿30 mgに相当する.
 ⅳ)尿細管性蛋白α1-ミクログロブリン,β2-MGはいずれも糸球体で濾過され近位尿細管で再吸収される低分子蛋白であり,これらの排泄増加は尿細管障害を疑う.ただし,悪性腫瘍や膠原病など炎症反応性に血清β2-MGが増加した時は,尿中β2-MGも増加する.また,尿細管のライソゾーム由来の酵素であるNAGや尿細管刷子縁由来のγ-GTPも尿細管障害により尿中排泄が増加する.
f.尿潜血・血尿
 尿中に赤血球が混入した状態を血尿といい,尿1 Lに血液が1〜2 mL混入するとコーラ色を呈し,肉眼的血尿と呼ばれる.一方,尿潜血反応ヘモグロビンの酸化還元反応を検出しているため,血尿以外に,溶血によるヘモグロビン尿や横紋筋融解症によるミオグロビン尿でも陽性となる.これらの鑑別には尿沈渣による検鏡等にて可能である(表11-1-16).尿潜血(1+)はヘモグロビン濃度0.06 mg/dL,赤血球20 個/μL,尿沈渣では5 個/HPFに相当し,これを顕微鏡的血尿とよぶ.
g.尿沈渣
 ⅰ)赤血球 5 個以上/HPFで病的である.高浸透圧や低pHでは金平糖状を,低浸透圧や高pHでは球状を呈する.糸球体性血尿では,尿細管腔通過時の浸透圧変化等により赤血球は同一標本で多彩な形態を示すが,下部尿路出血(非糸球体性)では均一な形態を示す. ⅱ)白血球 1個以上/HPFで病的である.尿路の炎症,特に尿路感染症を疑うが,間質性腎炎や急性糸球体腎炎ループス腎炎などでも出現する. ⅲ)円柱 Henleの上行脚から分泌されるTamm-Horsfall蛋白が主成分となり尿細管腔を鋳型としたものである.内部に封入体のない硝子円柱は,脱水・発熱等でも出現し,単独では病的意義がないが,細胞成分を含んだような赤血球円柱,顆粒円柱,ろう様円柱などは腎実質性傷害の影響を考える.
 上皮円柱は,尿細管上皮細胞が封入されたもので,急性尿細管壊死,糸球体腎炎などの腎・尿細管傷害で出現することが多く,顆粒円柱の成分も,ほとんどは尿細管上皮細胞が変成したもので,慢性糸球体腎炎,腎不全などの腎実質傷害で出現することが多い.赤血球円柱は,急性糸球体腎炎,IgA腎症など糸球体性の血尿を伴うとき,白血球円柱は,腎盂腎炎,間質性腎炎,ループス腎炎など感染症や炎症性疾患を伴うとき,脂肪円柱は,ネフローゼ症候群では高率に出現する.ろう様円柱は,尿細管腔の長期閉塞を意味し,ネフローゼ症候群,腎不全,腎炎末期などの重篤な腎疾患に認めることが多い.[猪阪善隆]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿検査」の意味・わかりやすい解説

尿検査
にょうけんさ

健康診断の代表的な検査項目で、検尿ともいう。尿を生成する腎臓(じんぞう)をはじめ、その通路である尿管、膀胱(ぼうこう)、尿道に病変があれば混濁尿や血尿などの異常が現れるが、そればかりでなく、尿中には全身の代謝産物が排泄(はいせつ)されているので、泌尿器以外の全身的な疾患の診断にも尿検査は欠くことができない重要なものである。しかも、患者に無理なく採取できるので、今日では検尿のない健康診断はなく、診療の一部となっているといってもよい。

 検査する尿は新鮮なもので、滅菌または清浄な容器に採取したものでなければならない。ときには1日分(24時間)の尿を蓄尿して検査することもある。また、病変の部位を知るために1回の排尿を二つのコップに分けて採取することもある。これを二杯分尿法といい、一杯目に混濁が著明な場合には前部尿道、二杯目の混濁が強い場合は後部尿道、二杯とも同様に混濁しているときは膀胱より上方の尿路に病変があると推定される。女子では外陰部の分泌物などが混入するので、排尿の最初は捨てて中間尿を尿器に採取するか、カテーテルを尿道に挿入して尿を採取する必要がある。男子でも包茎の場合は包皮内の汚物を清拭(せいしき)してから排尿させる。

 まず、尿の色調、清濁、比重、酸性度を調べる。尿の色は尿量が多いときには水のように淡く、量の少ないときには濃い黄褐色を呈する。正常尿の比重は1.015~1.025であり、酸性度は健康者でもpHが4.85~8.0の範囲で動揺がある。混濁のあるものは多くは病的であるが、健常なものでも塩類のために一時的に濁ることがある。塩類の場合は加熱するか、酢酸などの滴加によって清透となるので、病的なものと区別できる。

 タンパクの検査には、鋭敏なスルホサリチル酸試験が広く用いられる。20%のスルホサリチル酸液を数滴加えると、タンパクのある場合には白濁を生ずる。糖の検査には、普通、ニーランデル法が用いられる。試験管に尿を採取し、その10分の1量のニーランデル液を加えて煮沸する。糖があれば灰褐色ないし黒色となる。最近は、簡易にタンパクや糖の有無を検査する試験紙が発売されている。

 なお、正確に排出量を知るためには容量試験が行われる。そのほか、肝機能不全を検査するためにビリルビン、ウロビリン、ウロビリノーゲンの試験が行われるし、さらに種々の異常物質の存否を検査する数多くの検査法がある。こうした物理的・化学的検査を行うとともに、尿の一部を遠心分離機(毎分1000~1500回転)にかけ、上澄みを除いたあとに残ったもの(沈渣(ちんさ))について顕微鏡検査をする。まず、尿沈渣の一部をとって染色を施さずに鏡検する。これによって、赤血球や上皮細胞、塩類の結晶、原虫や真菌などの有無ならびに細菌の運動を知ることができる。次に、沈渣を載物ガラス上に塗抹固定し、メチレンブルー液で染色して鏡検する。これによって白血球の多い少ない、細菌の有無ならびに菌の形態や存在部位などを綿密に検査する。さらに、細菌の鑑別や分類ならびに治療面での抗生物質の選択を考慮し、特殊染色を施して鏡検する。代表的なものにグラム染色法やチール染色法があり、チール染色法は結核菌の検出には欠くことができない。鏡検によって細菌の種類はだいたい推定できるが、さらに精確な分類を必要とする場合は、尿の培養を行う。これによって抗生物質に対する耐性も検討できるので、治療上、薬剤の取捨選択の指針となる。

[加藤暎一]

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改訂新版 世界大百科事典 「尿検査」の意味・わかりやすい解説

尿検査 (にょうけんさ)
urinalysis

尿から疾病の診断,治療のために必要な情報を収集するための検査。検尿ともいう。尿を調べることによって,病気の有無,病気の性質,病状をより詳しく知ることができる。尿検査を疾病診断に利用したのは古代バビロニアに始まる。前400年代にヒッポクラテスは病気の有無を知るために尿の観察が役立つことを記録に残した。もちろん当時の検査は肉眼的観察であるが,1700年代以降の近代科学技術の進歩はそのまま尿検査法に応用され現在に至っている。現在,尿検査の内容は,(1)尿の物理化学的性状の検索,(2)尿中有形成分,細胞,有機無機結晶の観察分類,(3)尿中微生物の分析,(4)薬物負荷後の追跡検査による機能診断,などである。尿の組成は血液血漿成分の一部が腎臓でろ過再吸収されたもので,血漿成分に由来しないものはない。そして疾病の種類によって特定成分の尿中排出が増減するので,その現象をとらえて診断に利用される。尿の主成分は水であるが,疾病診断に利用されるおもなものは,タンパク質,糖質,有機酸,生体色素,アミノ酸などである。これらはいずれも健康人では1日排出量が一定範囲内にあって,その増減は病態を反映する。尿中有形成分は顕微鏡観察により,白血球,赤血球など血液細胞のほか,腫瘍細胞の検出,薬剤結晶やアミノ酸結晶などの有無をみる。微生物検査は尿路感染症の診断に,負荷物質の尿中排出動態追跡は腎機能・膵機能・肝機能検査に応用されている。尿検査手技は,非常に簡便な試験紙を使う定性法から面倒な微生物培養同定検査手技に至るまで多種多様であるが,最近では化学,微生物検査領域に自動化機器の開発が進み集団検診に利用されている。〈尿検査なくして診断なし〉という言葉は約1世紀にわたって医師に伝えられ守られてきたが,現在でもなおたいせつにされている。尿検査で病名を特定できることは少ないが,尿検査成績の異常は必ず病的状態の存在を示しているからである。
臨床検査
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百科事典マイペディア 「尿検査」の意味・わかりやすい解説

尿検査【にょうけんさ】

尿は代謝終産物を含み,また病的状態では正常で出現しない物質が尿中に現れるので,尿検査は尿路系疾患だけでなく,心臓,肝臓,膵臓など全身性疾患の診療にも重要である。疾患によって異なるが,尿の色,比重,タンパク,糖,ウロビリノーゲン,ビリルビン,アセトン体,電解質,クレアチニン,沈渣(ちんさ)などが検査の対象となる。
→関連項目診断スクリーニング検査

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿検査」の意味・わかりやすい解説

尿検査
にょうけんさ
urine examination

検尿ともいう。診断のために尿の成分その他を調べること。混濁尿や血尿で腎臓や膀胱,尿道などの病変がわかるほか,尿中には全身の代謝産物と病的成分が出てくるので,糖尿病,フェニルケトン尿症などを知ることができる。検査の種目としては,1日の全量,量の増減や清濁,色調,比重,氷点降下度,pH,濃縮試験,蛋白や糖などの排出量,糸球体ろ過値,顕微鏡での白血球や細菌の検査などがある。

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とっさの日本語便利帳 「尿検査」の解説

尿検査

糖、たんぱく、細胞成分、潜血反応などを見る。糖尿病や腎臓などの異常を発見する手がかりになる。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内の尿検査の言及

【医療】より

… 診察のときに,体温測定や血圧測定も行われる。
[臨床検査]
尿の検査尿のなかには,いろいろの体内の代謝物質が含まれている。人が病気にかかると,これらの代謝物質の組成が変わるとともに,健康人の尿のなかには含まれていないような,タンパク質,糖,血色素,胆汁色素,アセトン体などの異常物質や微生物などが出現してくる。…

【学校検尿】より

…日本の小学校,中学校,高等学校では,毎年1回定期健康診断を行うことが〈学校保健法〉によって定められているが,1973年5月,この学校保健法施行令が一部改正され,その定期健康診断のなかに尿検査という項目が加えられた。したがって74年以来,全国の小中高校においては,毎年4月から6月にかけて,全児童・生徒を対象として検尿が行われている。この学校で行う集団検尿のことを学校検尿とよんでいる。定期健康診断に検尿がとり入れられた理由として,小中学校の長期欠席者や体育見学者のなかに慢性腎臓病の子どもが多いことから,このような慢性腎疾患児を早く発見して,正しい治療および生活管理をすることが必要であるとする学校関係者の意見が強くなったことが,まずあげられる。…

※「尿検査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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