日本大百科全書(ニッポニカ) 「塀」の意味・わかりやすい解説
塀
へい
敷地などの境界線に設けられる連続した壁。垣と異なり、間隙(かんげき)が少なく、出入りを防ぐ目的が完全である。
[中村 仁]
形状・意匠による分類
形状、意匠の面から、築地(ついじ)塀、唐(から)塀、透(すき)塀、源氏(げんじ)塀、柵板(さくいた)塀、簓子(ささらこ)塀、竪板(たていた)塀、大和(やまと)塀などの区別がある。
[中村 仁]
築地塀
木骨土造の塀で、昔は、官職についている人にのみ許された。壁面に引いた定規筋(じょうぎすじ)の数(最高5本)で格式を表した。京都御所、本願寺、東京の護国寺などの塀に、5本の定規筋をみることができる。
[中村 仁]
唐塀
唐破風(からはふ)付きの屋根をもつ塀で、仏寺、廟(びょう)などによく用いられた。
[中村 仁]
透塀
屋根付きの塀で、腰長押(こしなげし)の上の部分を連子(れんじ)、狭間(はざま)、花狭間などに透かせたもの。神社の玉垣などにみられる。
[中村 仁]
源氏塀
軽快な屋根をもち、腰長押の下部に簓子板または羽目板(はめいた)を、腰長押の上部に塗り壁や窓をつけたもので、数寄屋(すきや)造のほか一般の住宅にも使われている。
[中村 仁]
柵板塀
柱の間隔を狭めて立て、貫(ぬき)でこれを連ねるようにし、裏側に横板を張ったもの。
[中村 仁]
簓子塀
簓子下見(したみ)板を張るように、横板を押縁(おしぶち)で押さえて柱の間にはめ込んだもので、おもに住宅に用いられる。
[中村 仁]
大和塀
1.8メートル間隔くらいに柱を立て、これに貫を通し、その貫に両面から交互に板を少し重なり合うようにして打ち付けたもの。
[中村 仁]
塀の基本的条件は、外部との遮蔽(しゃへい)(視覚的、音響的に)、建物と環境への調和、境界の表示などだが、付随する条件として、遮蔽された通風を回復すること、耐久力(耐震、耐火、耐朽)をもつこと、空間の広がりを確保すること、経済性などがあげられる。視線を遮断するには、目通りの高さ1.5メートルもあれば十分である。侵入防止のためには、手掛けや足掛けになるものをなくし、頂部に障害物を設けたり、飛び越しにくい形状にすれば、1.8メートルから2.1メートルくらいで目的は達せられる。高い塀は、日照や通風に支障をきたすことがあるばかりでなく、強い風のときなど思わぬ風圧を受けるので、基礎をしっかり築く必要がある。
塀の構造は、板塀のような架構造(かこうぞう)のものと、れんが、ブロックなどを積み上げる組積造(そせきぞう)のものに分けられる。いずれの場合も、控柱(ひかえばしら)や控壁を要所に設け、風、地震、衝撃による外力にも耐えるよう配慮する必要がある。
[中村 仁]
材料による分類
塀の材料には、木材、石材、れんが、コンクリート、コンクリート製品などいろいろある。1種類の材料でつくりあげる場合と、数種類を混ぜ合わせて使用する場合とがあるが、塀の主要な部分を形成している材料により、板塀、土塀(どべい)、石塀(いしべい)、れんが塀、コンクリート塀、コンクリート組立て塀、コンクリートブロック塀、生子(なまこ)板塀などの呼称がある。
[中村 仁]
板塀
和風建築に調和するが、耐久性では石やコンクリートには劣る。土台や柱、笠木(かさぎ)など腐りやすい部分には、耐久性のあるクリ、ケヤキ、マツなどを用いたり、鉄材やコンクリートを使ったりするとよい。木部に防腐剤を塗ったり、柱下部の、土中に入る部分を焼いて炭化させるなどの方法は、従来よく用いられた。羽目板はスギ板やヒノキ板が使われる。上の笠木には銅板や鉄板をかぶせるとよい。板の張り方には、大和張りや網代(あじろ)風の組み方などがある。
[中村 仁]
土塀
練り塀ともいう。瓦(かわら)を平たく置き、その上に粘土を7、8センチメートルくらいの厚さに置いて構造体をつくる。粘土の部分は、瓦よりも少しへこませて置き、その部分に白漆喰(しっくい)を塗って仕上げる。瓦の部分の黒と、漆喰の白とでできる横縞(よこじま)が美しい。江戸時代の大名の邸宅の塀などに使われた。
[中村 仁]
石塀
石を主体に積み上げる。上部に笠木をつけたもの、一部に風抜き用の小穴をあけたものなどがある。材料は、その地方の石を使うのが経済的であり、建物に石を使ってあれば、同質の石を使うのが普通である。ほかの材料の塀に比べて費用がかさむが、長もちする。積み方には、石切り場から切り出した粗石や玉石を積む野石積み、切石を積む切石積み、角錐(かくすい)形に加工した石を積む間知石(けんちいし)積みがある。
[中村 仁]
れんが塀
赤れんがや焼きすぎれんがを積む。イギリス積み、オランダ積み、フランス積みなどがある。明治時代、洋風建築の渡来とともに流行した。
[中村 仁]
コンクリート塀
仮枠をつくり、その中にコンクリートを流し込んでつくる。通常は鉄筋コンクリートとする。この場合は、鉄柱を1.8メートルくらいの間隔で立て、これに鉄網を張り、両面から小砂利を使用したコンクリートをたたきつけるようにして塗る。耐震・耐火・耐久性に富み、廉価であるが、肌や色にはあまり親しみをもたれない。
[中村 仁]
コンクリート組立て塀
工場でつくられたコンクリートの柱や板を現場で組み立てる。万代塀ともいう。鉄筋入りの柱、壁板、笠木、控柱などからなり、高さ0.9メートルから2.4メートルぐらいのものが既製品として販売されている。簡単で工期も短くてすむ。
[中村 仁]
コンクリートブロック塀
ブロックと目地(めじ)の間に鉄筋を入れ、補強コンクリートブロック塀として使用するのが普通である。一般的に用いられるコンクリートブロックは、長さ40センチメートル、幅20、15、10センチメートル、高さ20センチメートルのものが多く、これらの1/2ブロックとを組み合わせてつくった塀がよくみられる。主体には穴のあいていないものを用い、ところどころに風穴用のブロックを用いるのがよい。全面的に穴の大きくあいているルーバーブロックで積み上げた塀は、モダンである。化粧積みといって、目地を化粧目地とし、積んだまま仕上げをしないで使用する場合と、モルタル塗り、人造石塗り、タイル張りなどで仕上げをする場合と、2種類の使い方がある。
[中村 仁]
生子板塀
板塀と同様、柱を立てて貫を通すが、板のかわりに生子板(亜鉛めっき鉄板を波形に整形したもの)を張る。
[中村 仁]
このようにさまざまな塀があるが、境界線上につくられることが多いので、法規的なことに留意して建設する必要がある。新たにつくる場合は、補修するときのことを考え、入手しやすい材料とすることが望ましい。
[中村 仁]