代・替・変・渝(読み)かわり

精選版 日本国語大辞典 「代・替・変・渝」の意味・読み・例文・類語

かわり かはり【代・替・変・渝】

〘名〙 (動詞「かわる(代)」の連用形の名詞化)
[一] (代・替)
① あるものが退いて、その位置や立場を他のものが占めること。交替。また、その占めたもの。
※多武峰少将物語(10C中)「入道の少将ぎみの御かはりに、少将になり給ひて」
源氏(1001‐14頃)賢木「斎院は御服にておりゐ給にしかば、あさがほの姫君はかはりにゐ給にき」
② あるものが、他のもののすべき役割をつとめること。代理。
落窪(10C後)二「今は御かはりに翁こそ病まめ」
※源氏(1001‐14頃)若紫「かの人の御かはりに明け暮れの慰めにも見ばやと思ふ心深うつきぬ」
③ ある物事に相当する他の物事。ひきかえ。代償
(イ) 事柄の場合。多く連体修飾語が付いて、「かわりに」の形をとる。現代語では接続助詞に近い用法もある。
正倉院文書万葉仮名文(奈良)「わが養ひの可波利(カハリ)には、おほまします南の町なる奴を受けよと」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「母君のかひなくて行くへをだに知らぬかはりに、人なみなみに見奉らむとこそ思ふに」
(ロ) 品物の場合。かけがえ、または、ひきかえの品。
※落窪(10C後)一「鏡の箱のかはり、このあこ君といふ童しておこせたり」
古本説話集(1130頃か)五八「この柑子(かうじ)のかはりの物は、賜(た)ばんずるぞ」
(ハ) 金銭の場合。品物の代金。また、ある事をした報酬。
古今著聞集(1254)五「只今かはりなかりければ、其草かしおけ。かはりは後にとれ」
※義経記(室町中か)三「われわれはかはりのなければ、買ひて持つべき様なし」
④ 飲食する際に、飯、汁、おかずなど盛られた分を食べ終えた後で、さらに同じ物をもう一度食べること。また、その飯、汁など。おかわり。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「牛なべのかはりは生(なま)のから皿が二枚ばかり出て」
[二] (変・渝)
① 物事の状態や質が、前と別の物になること。変化、変遷すること。
※西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一二「世界万国の沿革(カハリ)をおはなし申まするが」
② ふだんと違う状態や出来事。異変異状
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「いふ事にさしたる変りも無いが、それをいふ調子に何処か今までに無いところが有って」
③ 物事と物事との間の違い。差異。
※応永本論語抄(1420)雍也第六「此章は、知者仁者とのかはりを云」
人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)二「宅抱唄女(うちげいしゃ)だからといって、見板の唄女(げいしゃ)だからといって、別に人間に変りがあるものかネヱ」
④ 普通の織物と織り方を違えたもの。変り織り。
多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「綾羅紗の変(カハリ)で好いのを見たから」

かわ・る かはる【代・替・変・渝】

〘自ラ五(四)〙
[一] (代・替)
① ある物が退いて、その位置、立場に他の物が来る。交替する。
万葉(8C後)二〇・四三三五「今替(かはる)新防人(にひさきもり)が船出する海原の上に波な開(さ)きそね」
② あるものが、他のものの役目をつとめる。代理する。また、身代わりになる。
※古今(905‐914)秋上・一七七・詞書「寛平御時なぬかの夜〈略〉人にかはりてよめる」
③ 相手にぶつかりそうなところで、うまくよける。狭い所でぶつからないようにうまくすれちがう。「立ち上がりに右へかわってはたきこむ」
※洒落本・辰巳婦言(1798)宵立の部「こぎよする舟。もどる舟。ヲイかはらねへかはらねへの声、くくり戸の音と共にかまひすく」
[二] (変・渝)
① 物事の状態や質が、前と別の物になる。変化する。
※万葉(8C後)二〇・四四四二「わが背子が屋戸のなでしこ日並べて雨は降れども色も可波良(カハラ)ず」
② 普通と違う。多く、「て・たり(た)」を付けて用いる。
※蜻蛉(974頃)下「さまかはりたる人々ものし侍りしに」
③ 物事と物事との間に違いがある。
※源氏(1001‐14頃)蓬生「大きなる松に、藤の咲きかかりて〈略〉風につきてさとにほふ香なつかしく、〈略〉橘にかはりてをかしければ」
④ 年月などが、改まる、また新しくなる。
※万葉(8C後)一三・三三二九「あらたまの 月の易(かはれ)ば」
⑤ 人や物の状態に異変が起こる。
※虎寛本狂言・抜殻(室町末‐近世初)「此間は久しう便りをも承らぬが、替らせらるる事も御座らぬか」
⑥ 住所や職場が別の所になる。移転する。異動する。
※俳諧・曠野(1689)員外「忍ぶともしらぬ顔にて一二年〈野水〉 庇をつけて住居かはりぬ〈荷兮〉 三方の数むつかしと火にくぶる〈荷兮〉」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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