久延毘古(読み)クエビコ

デジタル大辞泉 「久延毘古」の意味・読み・例文・類語

くえ‐びこ【久延毘古】

古事記にみえる神の名。歩けないが、天下のことをことごとく知る神とされる。
[補説]「こわれた男」の意の「崩彦くえびこ」で、案山子かかしのことかともいう。

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精選版 日本国語大辞典 「久延毘古」の意味・読み・例文・類語

くえ‐びこ【久延毘古】

(こわれた男の意の「崩(く)え彦」で、案山子(かかし)のことかという) 「古事記」に見える神。海上より来臨した少名毘古那神(すくなびこなのかみ)の名を明かし、天下の事を知る神とされる。
※古事記(712)上「謂はゆる久延毘古(クエビコ)は今者(いま)山田の曾富騰(そほど)といふぞ」

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改訂新版 世界大百科事典 「久延毘古」の意味・わかりやすい解説

久延毘古 (くえびこ)

《古事記》にみえる神の名。〈クエ〉は〈崩(く)ゆ〉の連体形で身体の崩れた男を指すと思われ,また案山子(かかし)のことである。大国主(おおくにぬし)神出雲の御大(みほ)(美保)の岬にいたとき,海上から羅摩(かがみ)の船(ガガイモの船)に乗り,鵝(ひむし)の皮(蛾の皮)の衣服を着た神が近づいた。だれもその神の名を知らなかったが,谷ぐく(ヒキガエル)は〈クエビコなら知っていよう〉と答えた。クエビコに尋ねてみると〈これは神産巣日(かむむすび)神の御子,少名毘古那(すくなびこな)神(少彦名命)です〉という。そこで神産巣日神にいうと〈まことに私の指の間から漏れ落ちた子だ〉との返事を得た。少名毘古那神は,こののち大国主神と協力して国造りをし,やがて常世国(とこよのくに)へ渡る。少名毘古那神の素性を知らしめたクエビコは,〈山田の曾富騰(そほど)(濡れそぼつ人)〉すなわち歩行不能の案山子であるが,天下の事を知る神とされている。身体の不自由な者が〈異形(いぎよう)の人〉として,知恵者化身と考えられていたことを示している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「久延毘古」の意味・わかりやすい解説

久延毘古
くえびこ

(1)日本神話の神。『古事記』で、海上を寄り来る神の名がわからなかったとき、大国主命(おおくにぬしのみこと)に、それは少彦名命(すくなひこなのみこと)であると答えた神。山田之曽富騰(やまだのそほど)ともいい、「足は行かねども、尽(ことごと)に天の下の事を知れる神なり」とも語られている。

(2)田に立つ案山子(かかし)のこと。風雨にさらされた姿を崩(く)え彦(びこ)(男)と見立てたものをいう。長野県では旧暦10月10日の刈上(かりあ)げ祭を「案山子ひき」といい、案山子に餅(もち)などを供え田の神を山に送るが、案山子は稲の生育を見守る田の神の依代(よりしろ)である。その一本足も、男根をもって象徴される隻脚(せっきゃく)王シバの坐法(ざほう)であり、地母を身ごもらせる呪法(じゅほう)かといわれる。

吉井 巖]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「久延毘古」の解説

久延毘古 くえびこ

「古事記」にみえる神。
「崩(く)え彦」(身体の崩れた男性)の意味で,大国主神(おおくにぬしのかみ)の国作り神話に登場する案山子(かかし)の名。大国主神に,だれも知らなかった少彦名命(すくなひこなのみこと)の名をおしえたとされる。異形の人は知恵者と信じられていたことをしめす。

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世界大百科事典(旧版)内の久延毘古の言及

【案山子】より

…かかしはまた神の依代そのものでもあった。《古事記》ではかかしは〈久延毘古(くえびこ)〉の神であるとされる。かかしを田の神の依代としてまつる民俗例もある。…

※「久延毘古」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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