案山子(読み)カカシ

デジタル大辞泉 「案山子」の意味・読み・例文・類語

かかし【案子/鹿驚】

《「かがし」とも》
竹やわらで作った人形。みのや笠をつけて田畑に立て、人に見せかけて鳥などが作物を荒らすのを防ぐ。もと鳥獣がその臭気を嫌って近づかぬよう、獣肉や毛髪などを焼いて竹などに付け立てたもの。「かがせるもの」の意で、「かがし(かがせ)」といったところからいう。おどし。かがせ。 秋》「倒れたる―の顔の上に天/三鬼
地位・外見ばかりよくて、それ相応の能力のない者。見かけ倒し。
「私は―で来たので、向うの申出を信じて従う他はなかったのであります」〈滝井無限抱擁

そおず〔そほづ〕【案子】

そおど」の音変化。
「あしひきの山田の―おのれさへ我をほしてふうれはしきこと」〈古今・雑体〉

そおど〔そほど〕【案子】

かかし。そおず。
久延毘古くえびこは、今に山田の―といふぞ」〈・上〉

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精選版 日本国語大辞典 「案山子」の意味・読み・例文・類語

あんざん‐し【案山子】

〘名〙 田畑に立てて、鳥獣をおどし、その害を防ぐ人形。→案山子(かかし)
※俳諧・随斎諧話(1819)乾「案山子の文字伝灯録〈略〉の語あり。注に曰、民俗刈草作人形山田之上禽獣、名曰案山子」 〔景徳伝燈録‐一七・道膺禅師〕

そおど そほど【案山子】

古事記(712)上「其少名毘古那神を顕はし白せし謂はゆる久延毘古は、今者に山田の曾富騰(ソホド)といふぞ。此の神は、足は行かねども、尽(ことごと)に天の下の事を知れる神なり」

そおず そほづ【案山子】

〘名〙 (「そおど(案山子)」の変化した語) 田畑を荒らす鳥獣を追うために田畑に置く人形。かかし。くえびこ。そおど。
※古今(905‐914)雑体・一〇二七「あしひきの山田のそほづおのれさへ我をほしといふうれはしきこと〈よみ人しらず〉」

かがせ【案山子】

〘名〙 「かかし(案山子)」の変化した語。
狂言記瓜盗人(1700)「今夜は、某(それがし)がかがせに成ってとらよう」

そほど【案山子】

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改訂新版 世界大百科事典 「案山子」の意味・わかりやすい解説

案山子 (かかし)

農作に害を及ぼす鳥獣を排除する目的で田畑に設ける装置。人形や神札などによるもの,においや音・色などによるものなどがある。かかしに案山子の字をあてる由来は明らかでない。かかしは〈鹿驚(かがせ)〉の意から出たともいわれるが,一般には悪臭を発して鳥獣を追う〈嗅(か)がし〉が語源とされている。現在ではかかしの語が一般的であるが,これをソメという地方が長野や岐阜,愛知に分布し,徳島や種子島ではこれをシメという。ソメ,シメとも〈占〉に関係した言葉であろう。また,かかしをオドシと呼ぶ地域も中国,四国,九州,北陸と近畿地方の一部にあり,その目的をよくいいあらわしている。毛髪を焼いたり,鳥獣の死体をつるしたりするのは嗅がしの一般的な方法であるが,焼くことによりいっそう臭気が発散するので,元来は焼き焦がしたものが本式であったと考えられる。岐阜では猪の皮を焼き,あるいは鹿の脂を煤に混ぜてこれを用いた。このほか,鳴子やししおどしのサコンタロウ,ソウズのように大音を発する装置や,新しくは銀紙や反射テープを利用し光を発して鳥獣を追うものなどもある。かかしに神札など神の依代(よりしろ)を利用するのは鳥獣の背後悪霊などの存在を考えたためである。かかしはまた神の依代そのものでもあった。《古事記》ではかかしは〈久延毘古(くえびこ)〉の神であるとされる。かかしを田の神の依代としてまつる民俗例もある。長野県下では旧10月10日の十日夜(とおかんや)の行事に,カカシアゲまたはソメノ年取リといい,かかしに蓑笠を着せて箒・熊手を両手に持たせ,餅や二股大根を供えてこれをまつる。同県諏訪地方ではこの日はかかしの神が天に上がる日といい,同じく南安曇地方ではかかしが田の守りを終えて山の神になる日だとの伝承がある。また,群馬県下では正月14日にかかし神を作り,新潟では同日かかしを立て膳を供える風習もある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「案山子」の意味・わかりやすい解説

案山子
かかし

農作物を害する鳥獣を追払う装置や設備。音や光でおどすもの,臭いで退散させるもの,人形を立てるものなどがある。音や光でおどすものには,水車や鳴子を使ったり,空缶をたたいたり,空砲を撃つなどして大きな音をたてたり,ひらひらする布や,きらきら光る金属片などで幻惑させたり,鳥の死骸をぶら下げておどすものなどがある。臭いによるものは,髪の毛,油をしみこませた布,魚の頭,獣肉などを焼き焦がし,その悪臭で鳥獣を近づけまいとする方法で,本来カカシの語も,嗅がしの転じたものといわれる。人の形に似せたものは,人と見まちがわせようとするものであるが,これは田の神の依座でもある。長い期間にわたって田畑を見守り,収穫が終れば用がなくなるところから,カカシ上げ,カカシ祭などといって,田から家に迎え入れ,庭で供物をあげて祀る行事が行われる。

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百科事典マイペディア 「案山子」の意味・わかりやすい解説

案山子【かかし】

農作物を鳥獣の害から防ぐため田畑に立てるもの。〈かかし〉が一般的な呼称であるが,長野,岐阜,愛知では〈ソメ〉,徳島,種子島では〈シメ〉,北陸,近畿,中国,四国,九州の一部では〈オドシ〉ともいう。毛髪,魚の頭,焼いた獣肉や鳥など悪臭を放つもの(かかしの語源は〈嗅(か)がし〉説が有力),鳴子(なるこ),空缶など物音をたてるもの,神札や護符などを竹の先にはさみその威力で作物を守ろうとするものなどがある。みの笠姿のかかし人形は田の神の依代(よりしろ)と考えられ,長野県では収穫後これを焼いてまつる。

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とっさの日本語便利帳 「案山子」の解説

案山子

田畑が鳥獣に荒らされるのを防ぐために麦藁などで作って田畑に置いた人形。もとは、獣の肉を焼いて串に刺したり毛髪やぼろ布を焼いて竹に下げ、鳥獣の嫌う臭いを出し、それを田畑に置いたため、嫌な臭いをかがせる意味の「嗅がし」が語源。

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世界大百科事典(旧版)内の案山子の言及

【久延毘古】より

…《古事記》にみえる神の名。〈クエ〉は〈崩(く)ゆ〉の連体形で身体の崩れた男を指すと思われ,また案山子(かかし)のことである。大国主(おおくにぬし)神が出雲の御大(みほ)(美保)の岬にいたとき,海上から羅摩(かがみ)の船(ガガイモの船)に乗り,鵝(ひむし)の皮(蛾の皮)の衣服を着た神が近づいた。…

【少彦名命】より

…《古事記》によれば,大国主神が出雲の御大之御前(みほのみさき)にいたとき,波のかなたより天之羅摩船(あめのかがみのふね)(ガガイモのさやでできた船)に乗り,蛾の皮を衣服として漂着した神があった。名を問えども答えず,まただれもその素姓を知らなかったが,ヒキガエルと久延毘古(くえびこ)(山田の案山子(かかし))によって,神産巣日(かむむすひ)神(神皇産霊尊)の子スクナビコナであることが知れた。カムムスヒは,わが子のうちで〈手俣(たなまた)より漏(く)きし子ぞ〉(指のあいだから落ちた子だ)といい,オオナムチと兄弟になってその国を作り固めよと命ずる。…

※「案山子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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