フィスカルポリシー(英語表記)fiscal policy

翻訳|fiscal policy

デジタル大辞泉 「フィスカルポリシー」の意味・読み・例文・類語

フィスカル‐ポリシー(fiscal policy)

財政政策

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改訂新版 世界大百科事典 「フィスカルポリシー」の意味・わかりやすい解説

フィスカル・ポリシー
fiscal policy

インフレーション,失業,対外収支などの経済問題が生じたときに,財政活動の水準の調整によって対処する政策。財政政策ともいう。財政活動は経済全体の活動規模や物価動向などのマクロの経済変量と密接に関連している。このことは,資本主義経済が1930年代の大不況を経験し,ケインズ経済学の登場以来大きく認識されるようになってきた。この時期を契機に,市場機構のみにまかせておいてはもはや完全雇用が維持できない事態が到来したのである。民間の投資意欲が低迷していたため,雇用機会も少なく失業者があふれていた。J.M.ケインズはこのような時期に,公共事業などの政府支出増加させれば経済全体の総需要が増大し,仕事の機会も増え,失業を減らせると提唱した。

経済活動が停滞しているときには,政府支出を増やして総需要を喚起し景気を活発化させたり,減税政策などの方法がよくとられる。こうした政府支出のなかには,公共事業関係費や政府企業の設備投資等や,各種社会保険の保険金給付,生活保護費,恩給費等の社会保障移転,(企業や農業者等に対する)補助金がある。また,政府のこのような支出を賄うためには財源が必要である。この財源調達手段としては,租税所得税,法人税,物品税など),社会保険料,料金や受益者負担金,公債発行などがある。政府支出の増大を租税(たとえば所得税)で賄うとすれば,租税の増加が可処分所得を減少させるため民間の消費支出が減退し,総需要の増分は政府支出だけの増大の場合と比較すると小さくなる。次に政府支出を公債の発行で賄ったとすると,国債残高の増加が資産の増加となり,資産効果(富効果)が働き貨幣需要を増加させるので金利が上がり,民間資金需要を圧迫し,民間設備投資が減退し総需要がまったく増加しないことも生じうる(クラウディング・アウト)。このようにフィスカル・ポリシーの実行に際しては,政府支出の財源を何にするかも重要な点である。

総需要面を重視した租税,政府支出にかわって,最近アメリカではフィスカル・ポリシーの供給サイドに及ぼす効果も注目されるようになった。日本においては,利子所得非課税としたり(少額貯蓄非課税制度いわゆるマル優制度),利子所得を分離課税にすることによって貯蓄の収益率を高め,貯蓄の増加を図り経済成長を維持しようとしている(このようなマル優制度には賛否両論がある)。また,経済政策上ある特定分野の経済活動を促進するために,選択的,差別的に法人税,所得税等を減免する租税特別措置や,産業設備の近代化,合理化,あるいは新技術の研究開発とその企業化等の目的のために,減価償却率に特別な配慮を与えようとする特別償却制度がとられている。これらの租税特別措置や特別償却制度は,企業の貯蓄,資本蓄積を促進させようとするもので,総供給サイドからの財政政策に含められる。
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世界大百科事典(旧版)内のフィスカルポリシーの言及

【安定化政策】より

…1930年代以前には,この種の発想法がとられることはなく,いわば経済変動は不可避と考えられてきたが,ケインズの《一般理論》(1936)以来,安定化政策が経済政策のなかで重要な地位を占めると考えられるに至った。 安定化政策の手段としては,財政と金融が用いられることが多く,とくに財政を通ずる安定化政策をフィスカル・ポリシーということがある。安定化政策を広くとるときには,政府がその裁量にもとづいてとる政策(たとえば減税とか公定歩合操作)と経済システムに組み込まれている安定化要因を活用することをも含んでいる。…

【ケインズ政策】より

…ケインズ理論において有効性をもつとされているマクロ経済政策をいう。最も典型的には,ケインズ政策とはフィスカル・ポリシーを裁量的に行う政策を指す。すなわち,ケインズ理論においては,極端な場合,貨幣需要の利子弾力性が無限大,あるいは投資需要の利子非弾力性が想定されることがあり,このときには金融政策は経済活動に対して無力となり,財政政策によって初めて有効需要がコントロールできることとなる。…

【国債】より

…この場合には,公経済が赤字予算を組み国債を財源として租税収入以上に歳出を拡大して失業を救済したり,あるいは黒字予算を組み国債を償還して租税収入以下に歳出を削減してインフレを抑制することが必要な措置となる。ケインズはこうした役割を国家財政に期待し,その場合の財政政策をとくにフィスカル・ポリシーと呼んだ。 フィスカル・ポリシーは,第2次大戦後,現代国家の財政運営の主要原理となった。…

【財政学】より

…スミスからリカードを経てJ.S.ミルにいたると,自由主義財政思想にもかなりの変化がみられ,経費の生産性を限定づきながら認めたり,ある程度の累進税も認めるようになった。
【フィスカル・ポリシーの理論】
 1930年代に資本主義諸国全般を襲った大不況は,大量失業と企業倒産をもたらすとともに,各国とも赤字予算を余儀なくされた。これにより古典派経済学と財政学の権威は失墜した。…

※「フィスカルポリシー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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