合理化(読み)ごうりか(英語表記)rationalization
Rationalisierung[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「合理化」の意味・読み・例文・類語

ごうり‐か ガフリクヮ【合理化】

〘名〙
① 道理に合うようにしたり、理性で納得できるように理由づけたりすること。また、もっともらしく言いつくろうこと。特に心理学で、行動の真の動機となる欲求を隠し、後からもっともらしく理屈をつけて自分の行動を正当化すること。理屈づけ。
※愛情の問題(1931)〈片岡鉄兵〉「そこで彼はこの欲情を何らか階級的な意義に於て合理化しようとした」
② 産業界などで、慣習的運営をやめて、生産性を向上しようとして技術導入設備投資人員整理や労働強化などを行ない無駄を省くこと。
真理の春(1930)〈細田民樹〉たこ「奴等は労働力の合理化(ガフリクヮ)人減らしをやり」

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デジタル大辞泉 「合理化」の意味・読み・例文・類語

ごうり‐か〔ガフリクワ〕【合理化】

[名](スル)
道理にかなうようにすること。また、もっともらしく理由づけをすること。「自説を強引に合理化する」
能率を上げるためにむだを省くこと。特に、企業などで、省力化組織化によって能率を上げ、生産性を高めようとすること。「経営を合理化する」
心理学で、たとえば言い訳のように、理由づけをして行為を正当化すること。

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改訂新版 世界大百科事典 「合理化」の意味・わかりやすい解説

合理化 (ごうりか)
rationalization
Rationalisierung[ドイツ]

労働問題の用語。合理化とは,ごく広く解すれば,資本が利潤の増大をめざして追求するさまざまな方策の総称である。それは新しい機械の採用,作業組織の再編,労務管理の刷新など労働の生産性を高めるための諸方策のほか,流通費用の節約をめざした新しい方策の導入や,価格の維持,経費の節減をめざした産業組織の再編など広範な方策を含んでいる。このような合理化のための諸方策は,新しい機械の採用などにみられるごとく,労働の生産力を高めるという要素を含んではいるが,合理化はなによりも利潤追求のために行われるので,労働者の抵抗のあり方いかんによっては労働強化,労働災害,雇用の縮減などの災厄を労働者にもたらしがちである。

 このような意味での合理化は資本主義の発生とともに始まったといってよいが,合理化という言葉が広く用いられるようになったのは,第1次大戦後にドイツをはじめ各国で合理化運動が展開されるようになって以降のことである。第1次大戦後のドイツでは,再建金本位制のもとでの厳しい国際競争にたえて賠償債務を支払いつつ国民経済を維持していくために,ドイツ工業全国同盟の提唱にもとづいて,国家的機関としての帝国合理化本部の指導のもとに産業合理化運動が展開された。この運動は労働の生産性をできるだけ高めるために必要なあらゆる技術的・組織的手段を講ずることを目的とし,これに対する労働者の協力を組織しようとしたものである。そこでは,外資をてことした新鋭設備の導入,独占組織の再編強化に加えて,アメリカで発展したテーラー科学的管理法などを導入して,労働者個々人の作業量を極大化せしめる方策が追求された。これに対して,アムステルダム・インターナショナルに属するドイツ労働組合総同盟など労働組合の多くは,合理化は福祉増進の最重要な前提であるとして産業の合理化運動に協力する姿勢を打ち出した。そして,生産費・価格の低減賃金引上げの同時的実現をはかるために,企業レベルでの経営協議会を通じての協働をナショナル・レベルでの協議機関としての経済審議会の設置を軸とした,経済民主主義のための闘争を推進しようとした。このような状況のもとで,コミンテルンとその指導下にあるプロフィンテルンは,新しい機械の導入そのものに反対するものではないが,機械の導入をてことする資本主義的合理化は,労働強度の増大を追求することを支配的方向とするものであるとして,時間短縮や賃金引上げによって償われないかぎり合理化そのものに対して闘わねばならないという方向を打ち出したが,ドイツで大きな影響力をもつことはできなかった。日本でも昭和恐慌からの脱出策の一環として1930年以降,独占の強化を主軸においた産業合理化が推進された(日本の産業合理化については〈産業合理化運動〉の項参照)。

 第2次大戦後には,冷たい戦争の激化するなかで,ヨーロッパ諸国の経済復興を速め自由主義陣営の強化をはかるために,1948年以降,アメリカのマーシャル・プランの実施とともに,国際的運動の一環としてイギリス西ドイツ,フランスなどで生産性向上運動が組織されていった。やや遅れて日本でも,55年アメリカ対外活動本部の働きかけを契機として,経営者団体の主導のもとに政府の援助も得て日本生産性本部が設立され,生産性向上運動が始められた。日本の生産性向上運動は労使協議制の拡充を通じて労働者の生産性向上への協力を組織することを主眼とし,技術革新による労働生産性の向上,能力主義管理による労務管理体制の刷新,寡占体制の再編強化をてことする高度成長を支えていくこととなった。生産性向上運動の開始に際して,世界労連が産業合理化運動の再版であるとして反対運動を展開したのに対し,これに不満を抱く自由主義諸国の労働組合は国際自由労連を結成して,協力的姿勢を打ち出していった。日本では同盟の前身である総同盟や全労(全国労働組合同盟)が生産性向上によって経済自立を達成し,それに応じた成果配分をめざすという観点から生産性向上運動を推進するという態度を打ち出し,企業レベル,産業レベルの労使協議を通じて,生産にかかわる問題について労働組合の参加を進める運動を展開していった。これに対し総評は,生産性向上運動は労働組合の〈産報化〉によって労働強化,賃下げ,首切りを推し進めようとするものであるとして,職場闘争を基底に抵抗闘争を組もうとした。だが60年の三池争議の敗北でこの運動が頓挫するに及んで,事前協議制を通じて計画段階で合理化政策の変更を求めていく運動,さらには産業政策の変更を求める政策転換闘争に力点を移していった。しかしこれもはかばかしい効果を上げえなかったため,オイル・ショック以降の減量合理化のもとで,産業・企業のあり方を規制していく新しい運動のあり方が模索されてきている。
生産性向上運動
執筆者:

合理化 (ごうりか)
Rationalisierung[ドイツ]

人間と人間,人間と世界とのあらゆる関係が,理性ratioに従って整序され首尾一貫されること。西欧世界にはじめて出現したこの歴史的趨勢は近代社会の本質を形作るばかりではなく,今や人類全体の共通の運命となる。こうした用法を確立したのがM.ウェーバーである。彼によれば合理化が出現する以前の人間は〈呪術〉を用いて周囲の世界に適応していた。こうした〈呪術の園Zaubergarten〉は,〈科学〉に行き着く〈理論合理化theoretische Rationalisierung〉と,内的に首尾一貫した生活態度・エートス形成に導く〈実践合理化praktische Rationalisierung〉との合力の結果打ち破られる。〈世界の呪術からの解放Entzauberung der Welt〉,これが合理化の帰結である。呪術のかわりに科学や技術が用いられると,人間による世界の予測可能性や制御可能性は飛躍的に向上する。このような〈形式合理化formale Rationalisierung〉は近代以降,〈官僚制化〉の絶えまない進展により社会のあらゆる領域に貫徹する。他方,呪術の追放は人々の信奉する価値が何であるかを明晰(めいせき)にし,実質的価値に即して世界を作り変えようとする〈実質合理化materiale Rationalisierung〉への期待を高める。形式合理化と実質合理化とはしだいにはっきりと分離しはじめ,相互に尖鋭な対立に陥る。また,合理化の進展に伴い経済や政治などの生活諸領域は,それぞれの固有法則性に従い首尾一貫した姿に作り上げられ,ここでも相互に尖鋭な緊張が出現する。合理化はこのようにさまざまな内的矛盾・構造的緊張をかかえているので,その解決・調停に失敗すると容易に〈非合理化〉へと転落してしまう危険性をつねに秘めている。
合理性
執筆者:

合理化 (ごうりか)
rationalization

精神分析の用語。ある行動に対して後からもっともらしい意味づけをなし,その行動を正当化すると同時に,その行動の真の動機を隠す機能をもつ心の働きのこと。合理化は,一般の防衛機制とは異なり,行動そのものは制止されてはいない。また行動の基にある欲求も,完全に抑圧されているとはかぎらず,多くは漠然と意識されている。合理化はわれわれの日常生活の中で広く用いられているが,神経症者は,みずからさしあたり理解できない症状を,さまざまに合理化することによって不安を軽減しようとする。不潔恐怖の人が現実に感染の危険を強調したり,心気症の人が,その身体のさまざまな違和感を,架空の病の存在を信じることによって説明しようとするのがその例である。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「合理化」の意味・わかりやすい解説

合理化
ごうりか

(1) 諸個人が自己正当化という意図をもってみずからの行為の真の動機を意識的あるいはなかば無意識的に隠蔽して,社会的な承認を獲得しようとすること,あるいはその理屈づけを意味する。 S.フロイト以来,一種の自我防衛機制とみなされ,無意識のうちにとられる不安回避の一つの手段であると考えられている。 (2) 資本主義社会で,資本が利潤率の低落や資本間競争などの背景から労働生産性を増大させるために労働過程での機械化,自動化といった手段で行う労働力節減,あるいはその政策のこと。 (3) 「普遍的な意味と普遍的な妥当性をもった発展過程」としての近代ヨーロッパ社会を,人類史の壮大な構図のなかに位置づける M.ウェーバーが,その構図の全体像として提出したのが,徹底的合理化過程としての歴史という像であった。この過程は一方での形式的合理化と他方での実質的合理化という2側面が,相互に逆説的に重層し合う。一方が他方を不可欠の媒介環として要請することのなかから新たな展開の起動力が生じるというように,相互排他性と相互転換性あるいは型の移行が同時に包み込まれる形で想定されている。

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世界大百科事典(旧版)内の合理化の言及

【合理化】より

…労働問題の用語。合理化とは,ごく広く解すれば,資本が利潤の増大をめざして追求するさまざまな方策の総称である。それは新しい機械の採用,作業組織の再編,労務管理の刷新など労働の生産性を高めるための諸方策のほか,流通費用の節約をめざした新しい方策の導入や,価格の維持,経費の節減をめざした産業組織の再編など広範な方策を含んでいる。このような合理化のための諸方策は,新しい機械の採用などにみられるごとく,労働の生産力を高めるという要素を含んではいるが,合理化はなによりも利潤追求のために行われるので,労働者の抵抗のあり方いかんによっては労働強化,労働災害,雇用の縮減などの災厄を労働者にもたらしがちである。…

【合理化】より

…精神分析の用語。ある行動に対して後からもっともらしい意味づけをなし,その行動を正当化すると同時に,その行動の真の動機を隠す機能をもつ心の働きのこと。合理化は,一般の防衛機制とは異なり,行動そのものは制止されてはいない。また行動の基にある欲求も,完全に抑圧されているとはかぎらず,多くは漠然と意識されている。合理化はわれわれの日常生活の中で広く用いられているが,神経症者は,みずからさしあたり理解できない症状を,さまざまに合理化することによって不安を軽減しようとする。…

【有理化】より

…無理式を扱うのに,分母分子に適当な数をかけることによって,分母が根号のない形に変形するのが便利であることが多い。これを分母の有理化という。たとえば,また無理方程式を解く際に,両辺を何乗かして式を整理し,さらに同様の操作を幾度か繰り返して代数方程式を得る操作も有理化と呼ばれる。このとき得られた代数方程式の根は最初の無理方程式の根ではない無縁根を含むことがあるので注意が必要である。【上野 健爾】…

【行為】より

…まず,この意図は,わたしの欲求(寒いので暖かくなりたい)と欲求を満たす手段に関する信念(暖房機のスイッチを入れると暖かくなる)を前提にした〈実践三段論法〉の結論として成立したものという点で,欲求や信念と関連をもっている。この推論は演繹推論のような必然性を伴うものではないが,その前提は意図と行為に〈理由〉を与え,それらを〈合理化〉する働きを担っている。次に,この(スイッチを入れるという)意図は,それを実現する行為を〈充実条件〉としているという点で,行為と志向的な関係にある。…

※「合理化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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