日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニジェール川」の意味・わかりやすい解説
ニジェール川
にじぇーるがわ
Niger
アフリカ西部の大河。ギニア南部、フータ・ジャロン山地のセネガル川源流に接した地域に発し、海岸から遠ざかるように乾燥地帯に向かって北東に2000キロメートル余り、主としてマリ国内を流れたのち、同国東部で南東に大きく向きを変え、今度は湿潤地帯に向かって、ニジェール南西部、ベナン北東端(国境)およびナイジェリア北西部を約1500キロメートル流れ、ナイジェリア中部で東から流れてきた最大の支流ベヌエ川と合流し、南に数百キロメートル流れてギニア湾に注ぐ。本流の全長約4180キロメートル。本・支流あわせて約209万2000平方キロメートルに達する流域には、上記五か国のほか、コートジボワール、ブルキナ・ファソおよびカメルーンの各一部が含まれる。語源は、トゥアレグ語で大河を意味するンジェロ・ンジェレオ。英語ではナイジャーという。
中流部のマリ領ジェンネ付近からトンブクトゥを経てガオ付近(流路の大湾曲部)までは、分流、曲流が著しく、周囲に湿地が広がり、内陸デルタの様相を呈する。この付近一帯は、砂漠とサバンナの、牧畜地帯と農耕地帯の、そして交通手段としてはラクダと舟の接点であり、7世紀あるいはそれ以前から交易の拠点として栄えていたが、近年は気候乾燥化の影響もあって衰退しつつある。河口部にも、面積3万5000平方キロメートルを上回るアフリカ最大のデルタが発達し、分流が著しい。そこでは、マングローブ林や湿地林の背後に、キャッサバやプランテン(クッキング・バナナともいう)の畑およびアブラヤシやゴムのプランテーションが広がっている。このデルタは、ベヌエ川流域を最大の供給源とする年間約3800万トンの土砂の堆積(たいせき)で、現在も海面下で盛んに成長している。その地下には大量の石油が埋蔵されているので、サハラ砂漠以南で最大の産油地帯であるが、石油開発に伴う水質汚染も問題になっている。
ニジェール川中流部についての情報は、そこに産する金とともに、アラブ人によって中世ヨーロッパにもたらされていたが、ヨーロッパ人が実際にサハラ砂漠を越えてこの地に到達したのは1796年、さらにニジェール川の河口を確認したのは1830年である。現在は、ナイジェリア北西部のカインジ・ダムより下流はほぼ一年中、中流部のマリ領クリコロとガオの間は8月から2月までの増水期に、大型船が航行できる。
[田村俊和]