ツチクジラ(英語表記)Baird's beaked whale
Berardius bairdii

改訂新版 世界大百科事典 「ツチクジラ」の意味・わかりやすい解説

ツチクジラ
Baird's beaked whale
Berardius bairdii

ハクジラ亜目アカボウクジラ科の哺乳類。北部北太平洋の大陸沿いに生息し,最大体長13mに達するクジラ。体は細長く丸太状で,前頭部は膨大し,前端にくちばしがある。歯は扁平な三角形をなし,1~3対が下あごの先端にあり,前端の1対が大きい。性成熟と前後して萌出する。のどの部分には八の字状の1対の溝がある。全身黒褐色ないし黒色で,腹面には白色の不規則な斑紋がある。2~30頭の群れで生活する。北半球の温帯から亜寒帯海域分布し,日本の太平洋岸では6月初め伊豆諸島~房総沖の水深1000~3000mの大陸斜面域に出現する。分布の濃密域はしだいに北上し7~8月に北海道沿岸に達し,冬には姿を消す。生息頭数は約5000頭。日本海,オホーツク海南部の個体は別の個体群とされ,生息頭数はそれぞれ1500頭と660頭。日本では小型捕鯨業に対して年間54頭の捕獲が許可されている(1997年現在)。妊娠期間はおそらく17ヵ月で,子は3~4月ころに約4.5mで生まれる。10歳前後,体長9.3~10.3mで成熟する。成長停止は平均11m前後,雌のほうがやや大きい。寿命は雄85歳,雌55歳である。なぜ,雄がこのように長命となったのかについては生態学的な謎とされている。マッコウクジラと同様,1時間に及ぶ長潜水をすることで知られる。餌はイカタコ深海魚などである。南半球のミナミツチクジラB.arnuxii体型など本種とほとんど差がない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ツチクジラ」の意味・わかりやすい解説

ツチクジラ
Berardius bairdii; Baird's beaked whale

クジラ目ハクジラ亜目アカボウクジラ科ツチクジラ属。体長は雄約 11.9m,雌約 12.8mに達する。体重は約 12tに達する。ハクジラ類ではマッコウクジラに次いで大きい。出生体長は 4.5m程度。体色は全身青みを帯びた灰色で腹部はやや薄い。胸部から腹部にかけて白斑をもつものがいる。咬傷が白色の筋となり体表に多く残る。体型は長い紡錘形で嘴 (くちばし) は長く下顎が突き出る。噴気孔は1個で頭部正中線上にあり,噴気は丸い飛沫状で高さ 2m程度上がる。咽喉部にハの字状の長さ約 60cmの溝がある。背鰭 (せびれ) は小さく,体の後方3分の2に位置し,直角三角形状で,その先端は鈍い。尾鰭は大きく,幅は体長の4分の1程度で後縁中央がわずかに切れ込む。下顎に2対の歯があり,先端にある1対の歯は性的成熟に達すると突出する。5~20頭の群れで行動することが多いが,50頭以上の群れをなすこともある。潜水時間は通常 30分程度であるがまれに1時間をこえる。繁殖期は3~4月と推測される。おもに深海性イカ類や底生魚類を食べるが,ナマコ,ズワイガニなども捕食する。分布は北太平洋に限られ,主として大陸棚斜面や海山近く,あるいはそれより深い外洋域に生息する。日本では小型捕鯨で太平洋岸の房総地方を中心に年間 150~250頭ほど捕獲されていた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ツチクジラ」の意味・わかりやすい解説

ツチクジラ
つちくじら / 槌鯨
Baird's beaked whale
[学] Berardius bairdi

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目アカボウクジラ科のハクジラ。頭部は丸く、吻(ふん)が棒状に伸びて、頭の形が木槌(きづち)に似ている。下顎(かがく)先端部に2対のおむすび状の歯があり、ほかの歯は退化している。体の前から3分の2の位置に直角三角形の背びれがある。体色は黒灰色で、成熟した雄は頭背部に闘争による歯形がつき、その部分は淡色となる。イカ類を主として、魚類その他の底生動物を食べる。北太平洋の特産で中・高緯度の近海域に分布する。これに対し、近似種は南半球海域に分布する。数頭から30頭の群れをつくって生活し、1000メートルの深海にまで、80分間も潜水できる。日本では17世紀から捕獲され、千葉県南部ではこの鯨(げい)種の肉の塩干し品が「たれ」と称して好んで食べられる。

[大隅清治]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例