インドネシア,マレーシアの短剣。この地域にインド的な諸王国が発展した8世紀ごろよりその存在が伝えられ,元来は武器であるとともに王室の宝器として重要であった。現在では結婚式などで男子の正装の一部として腰にさして用いられ,またバリ島におけるように舞踊にも用いられる。過去の王朝時代の作とされる古いクリスは,それぞれ独自の個性と呪的・神秘的力を帯びるものと信じられ,護身・破邪の呪物的家宝として大切に保管され,定期的に花,香,米飯などを供えられる。刃はニッケル鉄・隕鉄製で,両刃で先が鋭く,通常の短剣のごとく真っ直ぐなものと,波形にうねった特有の形をもつものとの2種がある。刃の表面には特別な鍛造技術により,波様,花様などの灰白色の紋がうかぶ。刃の形と紋には多くの種類があり,それぞれ固有の名称と神秘的意味が与えられている。柄は木,牛角,象牙などで作られ彫刻が施され,鞘は木製で,しばしば金銀薄板製の覆いを施される。なお,日本の弥生時代遺跡から出土する銅戈が,この短剣に似た形をもつことから,かつて〈クリス形銅剣〉と呼ばれたことがある。
執筆者:関本 照夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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