カリキュラムの学際化(読み)カリキュラムのがくさいか

大学事典 「カリキュラムの学際化」の解説

カリキュラムの学際化
カリキュラムのがくさいか

従来学問領域の枠に細分化せず,複数の異なる学問分野を関わり合わせながら大学教育課程(カリキュラム)編成しようとする取組みやその動向。新しい学問領域の登場や多様化する社会と学生への対応など,大学を取り巻く状況の変化を背景とする。学際化されたカリキュラムは,授業科目の内容や編成,学生の履修において自由度が高い。

[大学のカリキュラム編成と学際化]

学問は対象とする分野の知識や概念を体系立てて整理し,一定のまとまりある領域を構成する。これをディシプリン(discipline,学問領域)呼び,研究や教育の内容・方途にそれぞれ固有の特性がある。大学は,教育しようとする学問領域について,その知識や技術の修得に必要な内容を授業科目として構成し,それらをカリキュラムとして体系的に編成する。しかし,学問は常に新しい領域を生み出しながら発展し,また高度複雑化する社会は従来の学問的枠組みにとらわれない研究教育を大学に期待する。カリキュラムの学際化は,こうした要請に対応する教育課程編成の取組みであり,複数の学問領域を融合させながら新たな学修領域を拓こうとするものである。

[大学設置基準の大綱化とカリキュラム改革]

日本の大学において,カリキュラムの学際化が広く進展するのは「大学設置基準の大綱化」を契機とする。1991年(平成3)2月,大学審議会は「大学教育の改善について」を答申し,これを受けて改訂した大学設置基準が同年7月より施行された。「大学設置基準の大綱化」と呼ばれるこの改訂は,大学における教育面での規制を大きく緩和した。カリキュラムの編成については,従来の一般教育,専門教育といった科目区分や区分ごとの単位数規定を撤廃し,大学は特色あるカリキュラムの編成が可能となった。

 大学設置基準の大綱化以降,各大学において旧一般教育の改革機運が高まった。従来の設置基準が示した「人文,社会,自然」の3領域に区分された伝統的学問領域に依拠する授業科目を改変し,「学習スキル取得のための授業」「少人数ゼミ」「大学適応支援科目」「キャリア教育科目」,専門教育のための「基礎科目」,複数教員による「総合科目」や「テーマ別科目」など,学際的要素を持つ授業科目が開設された。また,選択科目の幅を広げたり,主副専攻制を導入するなど,その履修によって「学際的学修」が可能となるカリキュラムを構築した。新設置基準では設置学部の例示もなくなり,これによって学際的教育や研究を指向する「国際」「環境」「情報」「生命」等の名称を冠する「学際学部」も多く新設された。

[教養教育改革から学士課程教育改革へ]

大学設置基準の大綱化以降も,中央教育審議会は学士課程全体のカリキュラムについて積極的に答申した。とくに1998年の「21世紀の大学像と今後の改革方策について―競争的環境の中で個性が輝く大学」答申では,授業方法やカリキュラム等の一層の工夫・改善を進め,「課題探究能力」を涵養することの重要性を述べている。また,教養教育と専門教育に有機的関連をもたせ,専門教育についても細分化した分野に限定された知識やそれまでの学問研究成果だけを教えることに終始せず,関連諸科学との関係も含め,学生が主体的に課題を探求し解決する能力の育成に配慮すべきことも強調した。2003年からは全国の大学を対象とした「特色ある大学教育支援プログラム」(特色GP)や「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)の採択競争も始まり,カリキュラムの学際化がさらに進行する。学際化の局面は教養教育だけのものから,専門教育も含めた学士課程全体に移行した。

[今後の課題]

しかし,カリキュラムの自由化や学際化の動向は,その多様性がカリキュラムの編成意図を不明瞭にしているという懸念も指摘されるようになった。こうしたことも背景に,2005年の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」では,学位授与の方針,教育課程編成・実施の方針,入学者受入れの方針の「3ポリシー」を各大学が明確化すべきとした。大学はそれぞれの教育目的を明確にし,これを実現する教育課程編成・実施の方針を具体化して公表することにより,教育の質を保証することが求められたのである。これら「3ポリシー」の設定・機能状況は,大学機関別認証評価において検証される。

 大学設置基準の大綱化以降,カリキュラム改革のキーワードでもあった「学際化」だが,学習成果の観点から問題があることも指摘されている。学力水準の高い学生を集める大学では,理論的・アカデミックな授業科目の再開設や,基礎スキルよりも幅広い学問的知識基盤修得を重視する教育のあり方が検討されるなど,大綱化以降の流れを軌道修正する動きも現れている。カリキュラムの学際化はすでに普及定着しており,もはや特別な取組みではない。大学の特性や学生の学力水準が多様化した現況で重要なのは,各大学それぞれの目的に応じ,いかなるカリキュラムを構築するかである。
著者: 大川一毅

参考文献: 井門富二夫『大学のカリキュラムと学際化』玉川大学出版部,1990.

参考文献: 清水畏三,井門富二夫編『大学カリキュラムの再編成―これからの学士教育』玉川大学出版部,1997.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報