〓文(読み)べんぶん(英語表記)pián wén

改訂新版 世界大百科事典 「〓文」の意味・わかりやすい解説

駢文 (べんぶん)
pián wén

中国の文体の一種。四六駢儷文(しろくべんれいぶん)ともいう。〈駢〉とは2頭だての馬のことで,この文体が対句を基本として成り立つことを意味している〈駢儷文〉ということもあるが,〈儷〉はつれあいの意で,やはり2句が一対として並ぶところからつけられた名称である。1句の長さは4字あるいは6字であることが最も多く,そこから〈四六〉の別名も出た。後漢のころからしだいに盛行しはじめ,次の六朝時代に至って,極度に技巧をこらした美文として完成度を高めつつ,文章主流に定着していった。ただし,〈四六〉の名称が現われたのは唐末であり,〈駢文〉の名はさらに下って清代につけられたものである。

 駢文の条件としては,すでにその名が示していたように,(1)4字句と6字句を基本単位とする,(2)対句形式によって全編を構成することが,まず欠かせない。駢文では4句が一つのまとまりをなすので,隣り合う2句が対偶になる場合と,句を隔てて2組の対偶関係が成り立ついわゆる隔句対(かくくつい)の場合とがある。さらに,(3)典拠を有することばを多用する。これは圧縮された字句の中に,古典に拠りどころを持つ表現を導入することによって,イメージを豊かにし,文章の奥行を深める効果をもたらす。(4)文字の美観に配慮する。畳字のような特別の場合を除き,同字の重複や近似する形の文字はつとめて避けるように心がける必要がある。(5)平仄ひようそく)を整えて,音声の調和をはかる。これは六朝後期の斉・梁から唐にかけて重んじられるようになったもので,対をなす2句の句末および句中の要所の平仄は,原則として交替しなければならない。律詩や絶句における平仄の調整と,基本的に同じ考えから出た技巧といえる。

 駢文は全体に1字1音節という漢語の特徴を生かして,視覚の上からも,聴覚の上からも,また意味内容上からも,整斉たる美しさをもたらすべくくふうされた文体である。脚韻こそ踏まないが,その修辞性の強さは(ふ)などの韻文に共通するものがある。これまで述べた駢文の特色を具体的に見るために,六朝末の詩人徐陵(じよりよう)の〈玉台新詠序〉の冒頭部を例示してみよう(平声を〇,仄声を●で示す)。

 六朝・唐においては,詔勅や上書などの公的な文章から,書簡などの私的な文章に至るまで,ほとんどあらゆる文章が駢文で書かれた。その修辞性がともすれば過度におちいって,無内容な文章に堕する欠陥を伴ったため,より自由で充実した文体を主唱する唐の韓愈や宋の欧陽修ら古文家によって,排撃の対象にされた(古文運動)。しかし,梁の劉勰(りゆうきよう)の《文心雕竜(ぶんしんちようりよう)》や,唐の劉知幾の《史通》のように,駢文によって書かれたすぐれて論理的な著作のあることも忘れてはならない。
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世界大百科事典(旧版)内の〓文の言及

【五山文学】より

…道号を与えられた際,師匠先輩よりその意義を説いた頌を受けるが,これが七言絶句の形をとっている。文章では序,跋,記,銘,説などがあるが,最も注目すべきは,韻文と散文との中間に位する四六文(四六駢儷体(べんれいたい))すなわち駢文という第三の文体が,禅林において特に盛んに作成されたことである。この四六文は対句(ついく)のみでできていて,2句の対句と4句の対句がある。…

【中国文学】より


[四六文と文学理論の発展]
 《史記》や《漢書》は純粋の散文で書かれたが,辞賦の発展に伴って対句の技巧はますますひろがり,魏・晋以後,対句だけで組み立てた文体が一般化する。これを〈四六文〉(または駢文(べんぶん))とよぶ。4字の句と6字の句を基本とし,そのリズムを繰り返す点で詩に近く,韻文と散文の中間にある。…

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