鸚鵡返(読み)おうむがえし

精選版 日本国語大辞典 「鸚鵡返」の意味・読み・例文・類語

おうむ‐がえし アウムがへし【鸚鵡返】

〘名〙
和歌で、人から言いかけられた歌の文句の一部を変えて直ちに返歌をすること。
俊頼髄脳(1115頃)「鸚鵡返しといへる心は、本の歌の、心ことばを変へずして、同じ詞をいへるなり」
八雲御抄(1242頃)一「あふむ返しと云物あり。本歌の心詞をかへずして、同事をいへる也」
② 人の言ったことや、しぐさを、そっくり真似をしてすぐに返答すること。
※俳諧・犬子集(1633)一「今朝の春は鸚鵡返しかとりの年〈正章〉」
其面影(1906)〈二葉亭四迷〉一三「『私と小夜さんとで?…』と鸚鵡返しに言って不審の眉を寄せた」
酒席で、人からさされた杯を、飲んですぐに返杯すること。
今川大双紙(15C前)酒に付て式法の事「あふむ返しの盞の事。是は七返まではすべし。八返はせず」
歌舞伎身光於竹功(1864)「又右の鳴物になり鸚鵡返(アフムガヘ)しの立廻りの中(うち)お竹忘れし所を次郎右衛門に聞く」
[語誌]歌学用語の①は、挙例の「俊頼髄脳」や「八雲御抄‐一」の説明で「十訓抄‐一」に藤原成範女房から「雲の上はありし昔に変はらねど見し玉だれの内やゆかしき」と詠みかけられて第四句の「や」を「ぞ」に換えて返したことなどがその具体例にあたる。これを小野小町と結びつけたのが謡曲の「鸚鵡小町」で、以後、歌論や連歌論では返歌の技法の一つとされる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報