追・逐(読み)おう

精選版 日本国語大辞典 「追・逐」の意味・読み・例文・類語

お・う おふ【追・逐】

〘他ワ五(ハ四)〙
① 先に進むものに到達しようとして、あとから急いで行く。追いかける。
万葉(8C後)一七・四〇一一「夕猟に 千鳥ふみ立て 於敷(オフ)ごとに ゆるすことなく」
※土左(935頃)承平五年正月二六日「まことにやあらん、かいぞくおふといへば」
② あとから行って、先のものに至り着く。追いつく。
源氏(1001‐14頃)若菜上「ここの草(さう)の本など入れて、御車にをひてたてまつれ給ふ」
③ 場所、物事など、ある目標をめざして進んで行く。追い求める。「理想を追う」
※土左(935頃)承平五年正月一一日「あかつきに舟を出だして、室津をおふ」
即興詩人(1892‐1901)〈森鴎外訳〉未練「我は新月の光を趁(オ)ひて、又同じところに来しに」
④ あとから事を行なう。
(イ) 死後、その人の功績人柄をしのんで行なう。
書紀(720)天武二年五月(北野本訓)「坂本財臣卒(みまか)りぬ。壬申の年の労に由りて、小紫の位を贈(オヒてたま)ふ」
(ロ) 少したってあとから物事を行なう。→追って
蜻蛉(974頃)下「かへりごと、やがておひて書く」
⑤ (物事の順序、時の流れ、既成の道、先人の跡などに)そのまま従って行く。「順を追う」
古本説話集(1130頃か)四〇「としまかりおいぬ。身のふかう、としををいてまさる」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「従来の弊を追(オ)って遊ばせておいちゃアいけねへヨ」
⑥ ある場所や地位から退け去らせる。追い払う。追放する。「職を追われる」
※万葉(8C後)八・一五〇七「うれたきや しこほととぎす 暁(あかとき)の うら悲しきに 追(おへ)ど追(おへ)ど なほし来鳴きて」
⑦ 順序や時がすすむ。回を重ねてくる。
※黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉四「雑誌は号を逐(オ)ふて発売部数を増加し」
⑧ ひとつの物事のあとに次の物事がつづく。
野火(1951)〈大岡昇平〉一「廻れ右をすると、分隊長の声が追って来た」
⑨ (「目で追う」の形で用いる) 動きに従って視線を走らせる。
ブルジョア(1930)〈芹沢光治良〉二「サーシャは〈略〉、その若い人々を目で追った」
⑩ あるものをさぐってもとめる。さがしもとめる。
唐人お吉(1928)〈十一谷義三郎〉二「なほ退屈しずに彼女等の生活を追ふなら」
⑪ (「追われる」の形で用いる) ある物事にせめたてられる。「仕事に追われる」
湯葉(1960)〈芝木好子〉「祝言の日取りが早かったので、美濃屋は準備に追われた」
⑫ 貴人が通るときに、お供の者が前方の人を去らせる。先を追う。
※書紀(720)継体元年正月(前田本訓)「前駈(みさき)に警蹕(オヒ)て、奄然(にはか)にして至る」
⑬ (牛、馬などを)せきたてて先に進ませる。
※徒然草(1331頃)一一四「御牛を追(おひ)たりければ」

おい おひ【追・逐】

〘名〙 (動詞「おう(追)」の連用形の名詞化)
① 追うこと。追い払うこと。「鳥追い」「馬追い」など名詞につけて造語要素のように使う場合が多い。
② 「おいせん(追銭)②」の略。
※虎明本狂言・連歌盗人(室町末‐近世初)「ぬす人においといふ事は、かかる事をや申らん」

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