(読み)よく

百科事典マイペディア 「翼」の意味・わかりやすい解説

翼【よく】

一般に流体の中を動くとき流れに対し直角上向きの力を受けるよう形づくられたもの,特に重航空機(航空機)の揚力を発生させる面をいう。飛行機,グライダーなどの固定翼と,ヘリコプターなどの回転翼ローター)があり,前者では主翼が揚力発生の役目を受け持つ。翼の断面形状(翼型)はふつう前縁に丸みがあり,上面は下面より湾曲が大きく,後縁はとがっている。したがって翼が前進するとき,上面を流れる空気は湾曲の大きな部分を通りつつ加速され,下面では逆に気流がせきとめられたようになって流速が下がり,このため上面では静圧が低下して翼を上方に吸い上げ,下面では静圧が高まって翼を上方に押し上げる。これらの力を合わせたものが揚力で,翼の風圧中心に働く力の垂直分力として与えられる(水平分力(抗力)との比を揚抗比という)。 飛行機の翼はその役割,平面形,断面形(翼型)などによってさまざまに分類される。飛行機の重量を支えるための揚力の発生を主目的としているのが主翼で,単に翼といえばこの主翼を指すが,飛行機にはこのほかつりあいと安定を保つための水平尾翼垂直尾翼があるのがふつうである。 平面形からは矩形翼,テーパー翼(先細翼),楕円翼等に分けられ,また上から見たときの胴体との取りつけの角度から,胴体にほぼ直角になっている直線翼,斜め後ろ向きになっている後退翼,斜め前向きになっている前進翼に分類される。一般に高速機では後退翼が用いられる。 翼型はふつう機体中心線に平行な断面で示される。翼型は翼の性能に大きな影響を及ぼすことから,早い時期から研究に力点がおかれ,1940年代に現在でも亜音速機の翼型として使われている層流翼型が開発され,さらにジェット機実用後は,音速近くまで翼表面の気流のはがれが起こらない,薄く反りの小さい翼型が選ばれるようになった。
→関連項目後退角高揚力装置

翼【つばさ】

鳥類前肢。飛行器官として適応した構造をもつ。哺乳(ほにゅう)類や爬虫(はちゅう)類の肢と相同であるが,構成している骨の数は癒合あるいは消失して少ない。表面をおおう大羽(羽毛)には初列風切羽,次列風切羽,雨覆羽,小翼などがあり,羽ばたくときには1枚1枚が開いて,初列風切は主として推力を,次列風切は主として浮力を生む。翼の形態は生息環境と飛行習性によって異なり,丸翼,細翼,長翼,広翼の4型に分けられる。なお,航空機の翼については(よく)の項を参照。
→関連項目鳥類

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精選版 日本国語大辞典 「翼」の意味・読み・例文・類語

よく【翼】

[1] 〘名〙
① 鳥のはね。また、飛ぶ虫のはね。つばさ。羽翼(うよく)。〔易経‐明夷卦〕
② 軍隊などの陣形で、中央から左右に張り出した部分。本隊の左右の部隊。鳥のひろげたつばさの部分に相当するところからいう。また、運動競技の陣形などにもいう。〔五国対照兵語字書(1881)〕 〔史記‐李牧伝〕
③ 船。水に浮かんで進む様子が、鳥がつばさをひろげて空を飛んで行く姿に似ているところからいったもの。
④ 飛行機、弾丸、ロケット、また水中翼船などの、揚力や空中での安定力をもたらす機能をつかさどる部分。飛行機では、機体から左右に伸びる主翼と、機体の後部にある尾翼とがある。多く飛行機のものをいうところから、飛行機そのものをもいう。つばさ。銀翼
※国民歌謡・航空唱歌(1938)〈西条八十〉「なんなく越ゆる銀の翼(ヨク)
⑤ 一般に、物の左右に張り出した部分。多く、建物などにいう。
※黒い環(1967)〈石原慎太郎〉弾痕「同じホテルの他翼の部屋ではなかった」
[2] 二十八宿の、南方七宿の一つ。コップ座のアルファ星付近の星宿。翼宿。たすきぼし。
※二中歴(1444‐48頃か)五「廿八宿〈略〉奎婁胃昴觜参(西)井鬼柳星張翼(南)」 〔礼記‐月令〕
[3] 〘接尾〙
① 鳥のはね、また、鳥の数をかぞえるのに用いる。
※延喜式(927)一「弓七張、箟二連、鹿皮十張〈已上三種神祇官充〉羽二翼、鹿角二頭」
② 船をかぞえるのに用いる。艘(そう)。隻(せき)
※輿地誌略(1826)四「毎歳商舶二翼を支那の広東に送り」 〔顔延之‐車駕幸京口三月三日侍遊曲阿後湖作詩〕

つばさ【翼】

〘名〙
① 鳥類の身体の部分の名称。爬虫類の前肢が変形して飛翔器官となったもの。後方に向かって生えた二〇~四〇枚の大きな羽毛(風切羽)とその基部を上下から覆うようにある多数の小さい羽毛(雨覆)と前肢とから成る。
※万葉(8C後)一〇・二二三八「天飛ぶや雁の翅(つばさ)の覆羽(おほひば)の何処(いづく)漏りてか霜の降りけむ」
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)七「名は翼(ツハサ)無くして長く飛び、道は根無くして永く固し」
② 転じて、鳥。鳥類。
※御伽草子・酒呑童子(室町末)「天をかけるつばさ、地を走る獣まで、道がなければ来る事なし」
③ 飛行機の翼(よく)。また、飛行機。
※軍歌・加藤隼戦闘隊(1943)〈田中林平〉「世界に誇る荒鷲の 翼(ツバサ)伸ばせし幾千里」
④ 飛翔すること。あたかも空中をかけるように自在であることを象徴的にいう。
※帰去来(1901)〈国木田独歩〉一〇「自分はふと頭を挙げて、眼を半ば閉ぢ夢想の翼(ツバサ)を空瞑に放った」
⑤ 左右にあってささえるもの。補佐するもの。つばさの臣。
※大日経承暦二年点(1078)「翊(ツハサ)其の左右に侍して」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「翼」の意味・わかりやすい解説


よく
wing

空気中を運動することによって,揚力を発生するもの。鳥の羽,飛行機の翼,ヘリコプタの回転翼 (ロータ) などが翼である。これらが空中を飛行する場合,翼によって垂直上方に揚力Lが発生するが,その代償として抗力Dが生ずる。この揚力に対する抗力の比を揚抗比L/Dといい,翼の性能の判定基準になる。揚抗比は翼の断面形と翼の縦横比 (アスペクト比 ) とで決まり,優秀な断面形で縦横比が十分大きいときは,揚抗比は 100以上にも達する。したがって抗力にうちかつだけの推進力を加えれば,その翼は 100倍の重量を空中で支えることが可能となる。


つばさ
wing

鳥類コウモリ(→翼手類)の飛行器官。脊椎動物の前肢が変形したもので,鳥類の場合,特別に発達した羽毛が生え,飛行に重要な小翼羽,初列,次列,三列の各風切羽と翼の上下両面を覆う雨覆羽からなる。地上生のダチョウエミューなどのように 2次的に退化したものや,ペンギンのように遊泳器官に変化したものもある。翼は飛行以外にも,ディスプレイのときなどに重要な役割を演じる。

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デジタル大辞泉 「翼」の意味・読み・例文・類語

よく【翼】

[名]
鳥のつばさ。羽翼うよく
航空機の機体から左右に張り出した部分。主翼尾翼など。
軍隊の陣形で、左右に張り出した部分。運動競技の陣形などにもいう。「右」「左
動物の骨や植物の種子・茎などで、つばさのように薄く張り出した部分。
プロペラ・タービンなどの、断面が航空機の主翼の断面と同じ形をした羽根。
二十八宿の一。南方の第六宿。コップ座αアルファ星と海蛇座の22星。たすきぼし。翼宿。
[接尾]助数詞
鳥のはね、また、鳥の数を数えるのに用いる。
「羽二―、鹿の角四頭」〈延喜式・四時祭上〉
船を数えるのに用いる。
「毎歳商船二―を支那の広東に送り」〈輿地誌略・四〉

よく【翼】[漢字項目]

常用漢字] [音]ヨク(漢) [訓]つばさ たすける
鳥のつばさ。「羽翼鶴翼かくよく比翼
飛行機のはね。「銀翼主翼尾翼
つばさのように左右に張り出たもの。「鼻翼最右翼左翼手
力を添えて助ける。「翼賛翼成扶翼
[名のり]すけ・たすく

つばさ【翼】

鳥類の空中を飛ぶための器官。前肢が変形したもので、先端から初列風切り羽が10枚ほど、次列風切り羽が6~30枚並び、その上面に雨覆い羽が並ぶ。
飛行機の左右に突き出たよく。また、飛行機。
[類語](1/(2主翼尾翼両翼銀翼回転翼

つばさ[列車]

山形新幹線で運行されている特別急行列車愛称。平成4年(1992)運行開始。通常、東京・福島間は東北新幹線やまびこ」の下り側に連結されて走り、福島・新庄間は単独で走行する。

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世界大百科事典 第2版 「翼」の意味・わかりやすい解説

つばさ【翼 wing】

飛行のために変形した脊椎動物の前肢で,〈よく〉ともいう。一般に鳥類に特有のものであるが,翼竜類pterosaursやコウモリの前肢も〈よく〉と呼ばれる。翼の形状はもちろん鳥によって異なるが,その基本的構造はすべての鳥類に共通している。翼の骨は,他の脊椎動物の前肢と同様に,上膊(じようはく)骨,橈骨とうこつ),尺骨,腕骨,掌骨,指骨より成るが,成鳥では腕骨は2個を除いて掌骨と癒合して1個の腕掌骨carpometacarpusとなり,指骨は第4指と第5指が欠如し,残りの3本の指骨も発達していない(欠けているのは第1指と第5指という説もある)。

よく【翼 wing】

羽根,つばさともいう。空気など流体の中を動き,または風や流れを受けたとき,大きな揚力を発生することをおもな目的としたもので,航空機を空に浮かべる役割を果たす。航空機のうち飛行機やグライダーの翼は機体と一体となっており,機が前進すると風が当たって揚力を生ずるもので,固定翼と呼ばれる。これに対しヘリコプターなどの翼は軸に取りつけられ,回転させると風が当たり揚力が出るもので,回転翼あるいはローターという。

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世界大百科事典内のの言及

【翅】より

…多くの昆虫の成虫には翅が4枚(中・後胸部に各1対)ある。体壁の背側部が左右に伸長してできたものであるが,一般に薄い膜質で,その中には筋肉がなく,気管から変化した脈が走っている。古生代に生息した原始昆虫のなかには前胸も伸長しているものがあるが,翅は広げたままで,滑空できる程度であった。その後,しだいに前翅(ぜんし)・後翅に分化が起こり,たたみこめるようになり,飛翔(ひしよう)能力を獲得することによって生活圏や分布を広げ,昆虫類の現在の繁栄をもたらした。…

【翼】より

…羽根,つばさともいう。空気など流体の中を動き,または風や流れを受けたとき,大きな揚力を発生することをおもな目的としたもので,航空機を空に浮かべる役割を果たす。航空機のうち飛行機やグライダーの翼は機体と一体となっており,機が前進すると風が当たって揚力を生ずるもので,固定翼と呼ばれる。これに対しヘリコプターなどの翼は軸に取りつけられ,回転させると風が当たり揚力が出るもので,回転翼あるいはローターという。…

【鳥類】より

…飛翔(ひしよう)生活にもっとも適応した脊椎動物で,基本的な体制は爬虫類と共通な点が多いが,両者は一見して区別することができる。鳥類のおもな特徴をあげると,(1)体は羽毛で覆われている,(2)前肢は変形して翼となり,後肢のみで体を支える,(3)体温は定温性,(4)卵生であるが,雛は両親の保育を受けるなどである。このほかにも,骨は含気性で軽いとか,気囊をもっているとか,現生の鳥には歯がないとか,いろいろの特徴がある。…

【翼】より

…飛行のために変形した脊椎動物の前肢で,〈よく〉ともいう。一般に鳥類に特有のものであるが,翼竜類pterosaursやコウモリの前肢も〈よく〉と呼ばれる。翼の形状はもちろん鳥によって異なるが,その基本的構造はすべての鳥類に共通している。…

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