立・建(読み)たてる

精選版 日本国語大辞典 「立・建」の意味・読み・例文・類語

た・てる【立・建】

〘他タ下一〙 た・つ 〘他タ下二〙
[一] 物、人などを、目立つように動かす。
① 煙、湯気などを上方にのぼらせる。また、花火をあげる。灯をともす。
※万葉(8C後)五・八九二「かまどには 火気(ほけ)ふき多弖(タテ)こしきには 蜘蛛の巣かきて」
② 風、波などを起こす。
※万葉(8C後)七・一三六六「明日香川七瀬の淀に住む鳥も心あれこそ波立(たて)ざらめ」
③ 横になっているものを起こす。起きあがらせる。
日葡辞書(1603‐04)「ヒザヲ tatçuru(タツル)
④ (からだを起こす意から) 出発させる。ある所へ行かせる。
※万葉(8C後)二〇・四四六五「大久米の ますらたけをを 先に多弖(タテ)(ゆき)とり負せ 山川を 磐根さくみて 踏みとほり」
※大鏡(12C前)五「春日明神となづけたてまつりて、いまに藤氏の御氏神にて、公家、男女使たてさせ給ひ」
⑤ 人や動物を追いたてる。鳥を飛び立たせる。
※万葉(8C後)一六・三八八七「天なるや神楽良(ささら)の小野に茅草(ちがや)刈り草(かや)刈りばかに鶉を立(たつ)も」
[二] 作用、状態などを、はっきりわかるようにする。
① 音や声を高くひびかせる。
※万葉(8C後)一一・二七一八「高山の石本(いはもと)たきちゆく水の音には立(たて)じ恋ひて死ぬとも」
② 人に知れわたるようにする。
※万葉(8C後)一九・四一六四「後の代の 語り継ぐべく 名を多都(タツ)べしも」
③ はっきりわかるようにあらわす。
※万葉(8C後)一八・四一〇六「世の人の 多都流(タツル)言立(ことだて)
※枕(10C終)四九「いみじうみえ聞えて、をかしき筋などたてたることはなう」
④ 特に誓いや願いを神仏などに表わし示す。
※書紀(720)仁徳二二年正月・歌謡「貴人(うまひと)の 多菟屡(タツル)言立(ことだて) うさゆづる 絶えば継がむに 並べてもがも」
※竹取(9C末‐10C初)「此人々家にかへりて物をおもひ、いのりをし、願をたつ」
⑤ 注意や力を集中する。
※枕(10C終)二六七「げすなどのほども、親などのかなしうする子は、目たて耳たてられて、いたはしうこそおぼゆれ」
⑥ (建) 建造物などを造る。また、国や都市、会社などを建設する。
※万葉(8C後)一八・四〇五九「橘の下照る庭に殿(との)多弖(タテ)て酒みづきいますわが大君かも」
※平家(13C前)五「神武天皇より景行天皇まで十二代は、大和国こほりごほりにみやこをたて」
⑦ 催す。
※今昔(1120頃か)五「其の後、毎年に此の墓に祭を立てて、国挙て崇めけり」
※日葡辞書(1603‐04)「イチヲ tatçuru(タツル)
⑧ 水を十分に熱して湯気やあわを生じさせる。湯や風呂をわかす。
※順徳院御集(1220頃か)「夕けぶり民のかまどにたつる湯のかけても誰か身を祈るらん」
⑨ (「腹を立てる」などの形で) 怒りを外に表わす。立腹する。
※平家(13C前)二「入道あまりに腹をたてて、教盛にはつひに対面もし給はず」
⑩ ある気持や状態を生じさせる。
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下「目に角をたててにらむ」
⑪ (点) 粉などを液体に入れてかきまわし、味や香を発揮させる。かきまわして作る。転じて、抹茶を入れる。茶の湯を行なう。
※今昔(1120頃か)二九「竈(かまど)の土を立(たて)て呑せ、吉き酢を呑せて」
※日葡辞書(1603‐04)「チャヲ tatçuru(タツル)〈略〉ミソヲ tatçuru(タツル)〈訳〉ミソを溶かす」
⑫ 匂いなどを放つ。
※街の物語(1934)〈榊山潤〉「猫の死骸は腐って、悪臭を立てるだらう」
[三] 物や人を、縦にまっすぐな状態にする。また、ある位置や地位を占めさせる。
① 足などでからだをまっすぐに支えさせる。立たせる。
※万葉(8C後)一四・三三八六「鳰鳥(にほどり)葛飾早稲(かづしかわせ)を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外に多弖(タテ)めやも」
② 下の面に垂直にすえたり、刺し込んだりする。
※古事記(712)中・歌謡「その鼓(つづみ)臼に多弖(タテ)て」
③ 刀、矢、とげ、針など、細長いものをからだや物に刺す。
※平家(13C前)九「熊谷あまりにいとほしくて、いづくに刀をたつべしともおぼえず」
※天草本伊曾保(1593)鶴と、狼の事「アルトキ ヲウカメ ノドニ ヲウキナ ホネヲ tatete(タテテ)
④ 大きな物や重い物をすえる。
※万葉(8C後)三・三八八「淡路島 中に立(たて)置きて 白波を 伊予に廻(もとほ)し」
乗物などを、ある場所にとめる。休むために、駕籠、輿などをおろす。また、途中で休息する。
※万葉(8C後)七・一一五三「住吉(すみのえ)の名児の浜辺に馬立(たて)て玉拾ひしく常忘らえず」
古今(905‐914)恋一・四七六・詞書「むかひにたてたりける車の」
⑥ ある位置につける。ある立場に身を置かせる。また、重要な地位につける。
※続日本紀‐天平宝字八年(764)一〇月一四日・宣命「人々〈略〉此の人を立(たてて)我が功と成さむと念ひて」
※医師高間房一氏(1941)〈田畑修一郎〉四「鍵屋の方でも辯護士を立てて」
⑦ (閉) 門、戸、襖、障子などをとざす。しめる。
※万葉(8C後)一二・三一一七「門立(たて)て戸もさしたるを何処(いづく)ゆか妹が入り来て夢に見えつる」
⑧ のこぎりの歯ややすり、臼(うす)の目などを鋭くする。
※雑俳・柳多留‐一一四(1831)「角たてず丸く取りなす市ノ正」
⑨ 花を活(い)ける。活花をさす。
たまきはる(1219)「つくりたる八重桜の一間には余るばかりなるを、瑠璃の瓶にたてられたりしを」
[四] ある状態を保たせる。また、物事を成立させる。
① 使ったり仕事をしたりするのに十分な働きをさせる。
※中華若木詩抄(1520頃)中「いかな不才な者も、其時によりて、用に立つる也」
② 一段高いものとして大切にする。
太平記(14C後)一八「諸大将の被立たる秘蔵の名馬共を」
※道草(1915)〈夏目漱石〉二七「比田さん比田さんって、立てて置きさへすりゃ好いんだ」
③ 面目などを、そこなわないように保たせる。
浮世草子・世間娘容気(1717)三「聟をもとめて此家をたつべし」
④ 生活をしていけるようにする。
※俳諧・炭俵(1694)下「算用に浮世を立る京ずまひ〈芭蕉〉 又沙汰なしにむすめ産(よろこぶ)〈野坡〉」
⑤ ある物事を専門・職業とする。
※平松家本平家(13C前)一「吾立てし道なれば、人の上とも覚えず」
⑥ 物事をはっきりと成立させる。確立させる。また、心を定める。意志・決意などをつらぬく。
※源氏(1001‐14頃)帚木「中の品になん、人の心々おのがじしのたてたる趣も見えて」
※今昔(1120頃か)二五「此の二人墓无(はかな)き田畠の事を諍て、各道理を立(たて)て」
※日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉一「之が首領を撰び之が規則を立つるも皆な自ら行へり」
⑦ 賭け金を出す。金銭を張る。
※太平記(14C後)三三「博奕をして遊びけるに、一立てに五貫十貫立ければ」
⑧ 金銭、年貢などをさし出す。支弁・弁償する。
※結城氏新法度(1556)一〇一条「夏ねんぐは五月端午の日より六月晦日にたてきるべし。中のねんぐ六月一日たてべし」
⑨ 遊興費などを負担する。おごる。ふるまう。
※浄瑠璃・本朝二十四孝(1766)二「潔白を立てるといふはおらが小半酒(なから)を立てると同じことで」
⑩ 遊興・散財する。
※談義本・つれづれ睟か川(1783)五「青楼街を通りてはたてん事をおもふとかや」
[五] 時を経過させる。
※栄花(1028‐92頃)花山たづぬる中納言「その月をたてて六月一日寅の時に」
[六] 補助動詞として用いる。動詞の連用形に付いて、さかんに…する、しきりに…するの意を表わす。
※万葉(8C後)二〇・四三二〇「大夫(ますらを)の呼び多天(タテ)しかばさを鹿の胸分け行かむ秋野萩原」

だて【立・建】

(動詞「たてる(立)」の連用形から)
[1] 〘接尾〙 多く名詞、動詞の連用形、形容詞の語幹に付いて、ことさらにそのような様子をする、積極的に、実際以上のさまを誇示してみせようとする意を表わす。「男立て」「賢(かしこ)立て」「古歌立て」「隠しだて」「かばいだて」など。
※古今著聞集(1254)一二「さしもはやりたることに、ただひとりまじりたまはざりつれば、賢人だてかとおもひて侍つるに」
[2] 〘語素〙
① 車につける牛馬の数や舟につける艪(ろ)の数につけて、それだけの数で成り立っていることを表わす。「二頭だての馬車」「八ちょうだて」など。
② 映画、演劇などで、一回の興行を成り立たせている作品の数をいう。また、一つのことを構成している項目や種類、方針などの数を表わす。「三本だての興行」など。
③ (建) 建築物の構造や階数を表わす語について、そのような建て方のものであることを表わす。「二階建て」「平屋建て」「一戸建て」など。

たつ【立・建】

〘名〙 和船の船体および上部構造に使われる柱の総称。駒の頭立、扣(ひかえ)立、垣立、からかい立、車立、鳥居立など、すべて柱または柱状に配する材をいい、その使用箇所によって太さ・長さ・材質をきめる。立木(たつき)。〔日葡辞書(1603‐04)〕

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