直・徒・只・唯・但(読み)ただ

精選版 日本国語大辞典 「直・徒・只・唯・但」の意味・読み・例文・類語

ただ【直・徒・只・唯・但】

[1] 〘形動〙
[一] (直)
① 間に介在する物がなく、直結するさま。直接であるさま。
古事記(712)上・歌謡「嬢子(をとめ)に 多陀(タダ)に逢はむと 我が開(さ)ける利目(とめ)
曲折がなく、まっすぐなさま。遠まわしでないさま。
※古事記(712)下・歌謡「大坂に 遇(あ)ふや嬢子(をとめ)を 道問へば 多陀(タダ)には告らず 当芸麻道(たぎまち)を告る」
[二] (徒・只)
① 格別に扱うような状態ではないさま。取り立てるほどのことのないさま。普通なさま。並のさま。
伊勢物語(10C前)六「まだいと若うて、后のただにおはしける時とや」
今昔(1120頃か)二九「兵共は只の様にて一人づつ其の家に行て隠れて居たりける」
② 取り立てるほどの行為を含まないさま。漫然たるさま。そのまま何もしないさま。むなしいさま。
※竹取(9C末‐10C初)「ただに病み死ぬるよりも人聞き恥づかしく覚え給ふなりけり」
海道記(1223頃)極楽四方に非ず「阿彌陀仏を念じ奉るは、口のあればただに唱へ居たるか、耳のあればただに聞ゐたるか、あな浅増のやすさや」
[2]
① (形動) 代償祝儀などを与えたり受けとったりしないこと。代価が不要なこと。無料。また、無償であるさま。
※能因本枕(10C終)二二「今日はかならずさるべき使ひぞと、心ときめきして来たるに、たたなるは誠にすさまじ」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「無銭(タダ)でも貰(もらほ)と云(い)やせまいシ」
② 何もないこと。
咄本・蝶夫婦(1777)初夢大吉「されば、葉では合点がいかぬが、只(タダ)には増だろう」
[3] 〘副〙
[一] (直)
① 間に介在する物事がなく、直接に。
(イ) 距離的なへだたりがなく、じかに。
万葉(8C後)一七・四〇二五「之乎(しを)路から多太(タダ)越え来れば羽咋(はくひ)の海朝なぎしたり舟梶もがも」
(ロ) 時間的なへだたりがなく、すぐに。また、時間的経過の短いことを限定する。
※万葉(8C後)一〇・二〇六〇「直(ただ)今夜(こよひ)逢ひたる児らに言問ひもいまだせずしてさ夜そ明けにける」
(ハ) 多く命令文や物事を要請することばの上にあって、その意を強める。ともかく。何はともあれ。
※今昔(1120頃か)五「更に不可呑ず。只乗せ給へ」
② ある事柄が、まっすぐに他の事柄に結びついて一致する、またはそっくりであると認める気持を表わす。まさしく。あたかも。
古今(905‐914)哀傷・八四〇「神な月しぐれにぬるるもみぢばはただわび人のたもとなりけり〈凡河内躬恒〉」
[二] (唯・只)
① それ一つを取り立てて限定する。それよりほかのことなく。もっぱら。いちずに。ひたすら。ただに。
(イ) 限定の助詞を伴う。
書紀(720)神代上(水戸本訓)「我が所生之(うめる)国唯(タダ)朝霧のみ有りて薫満てるかな」
※徒然草(1331頃)二一九「笙は、調べおほせて持ちたれば、ただ吹くばかりなり」
(ロ) 限定の助詞は伴わない。
※竹取(9C末‐10C初)「いかん方もしらずおぼえしかど〈略〉ただむなしき風にまかせてありく」
※太平記(14C後)六「合戦の勝負必しも大勢小勢に不依、只士卒の志を一にするとせざると也」
② 事柄の単一さ、数量の少なさを強調する気持を表わす。わずかに。たった。ほんの。
※書紀(720)允恭八年二月・歌謡「数多(あまた)は寝ずに多(タダ)一夜のみ」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「日日にをもり給てただ五六日の程にいと弱うなれば」
③ 「ただ+動詞連用形+に」の形で、ひたすらその行為を推し進めるさまを表わす。あとに同じ動詞をくり返すのが普通。
※万葉(8C後)五・八九四「大伴の 御津の浜びに 多太(タダ)(はて)に み船は泊てむ」
※俳諧・更科紀行(1688‐89)「馬のうへにて只ねぶりにねぶりて」
④ 前文に対して、例外的にその事柄だけが成り立ったり派生したりする意を表わす。後文の内容全体の成立・派生を示すときは接続詞に近づく。
(イ) わずかに。やっと。
※土左(935頃)承平五年一月一一日「人みなまだねたれば、海のありやうも見えず、ただ月を見てぞ西ひんがしをば知りける」
(ロ) けれども、ちょっと。それはそれとして。
※落窪(10C後)一「口つき愛敬づきて、少しにほひたる気つきたり。清げなりけり。ただ眉の程にぞおよずけのあしげさも少し出で居たりと見る」
[三] (徒・只)
① 取り立てた事をしないで。
(イ) ありきたりに。なんでもなく普通に。
※蜻蛉(974頃)下「二日許ありて、ただことばにて、『侍らぬほどにものしたまへりけるかしこまり』などいひて」
(ロ) 何もせずそのまま。
※落窪(10C後)二「今宵ばかりにてこそあれ。御忌日なれば、猶ただ臥し給へれ」
② 代償なしに。無料で。
※虎明本狂言・薩摩守(室町末‐近世初)「舟にただ乗を、さつまのかみと云は、ただのりといはふがためじゃ」
[4] 〘接続〙 先行する事柄に対して、例外を認めたり、その他の事柄を追記する場合。しかし。ただし。
※風姿花伝(1400‐02頃)二「衣・袴の着様、すべて私ならず。尋べし。たた、世の常の女懸りは、常に見馴るる事なれば、げには輙かるべし」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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