漁業機械(読み)ぎょぎょうきかい(英語表記)fishery machinery

日本大百科全書(ニッポニカ) 「漁業機械」の意味・わかりやすい解説

漁業機械
ぎょぎょうきかい
fishery machinery

漁業に関連する機械の総称。明治時代中期から大正時代初期にかけて、日本には欧米諸国の先進技術として多種多様の機器類が導入され、漁業もほかの産業と同様に近代化が図られた。明治20年代に動力漁船が輸入されたのを端緒として、各種の漁業機械が装備されるようになり、機械化による漁労作業の軽減化や経営の安定化がもたらされた。

 現在使用されている漁業機械は多種多様であるが、とくに高性能の電子機器による魚群探査や船位測定の高精度化が進められている。1980年代後半から各種の産業分野において、産業ロボットや電子機器類などの導入が進み、作業の省力化制御の自動化が急速に進展した。実用化されている漁業用機械としては、Vローラー、サイドローラーロープワインダーや自動釣り機の装備率が伸びている。しかし、200海里漁業水域の設定による沿岸国の海洋権益の拡大、開発途上国の海洋漁業への進出あるいは資源保護などさまざまな規制や国際情勢により生産量が減少傾向にある日本の各種漁業のなかには、機械類の装備率を低下させているものもあり、ほかの産業と比較して機械化が十分進んでいるとはいえない状況にある。農業など他の第一次産業と同様に従事者の高齢化問題が顕著になるなど労働力不足が現実化しており、この面からもさらなる各種漁業の実情に即した漁労作業の機械化、省人・省力化を推進し、漁労作業の軽減化を図ることが肝要である。

 漁業機械は、(1)直接漁労作業に関わる機械、(2)漁労作業を支援する機械、(3)間接的に漁労作業の効率を高める機械に大別されるが、いずれの機器類もコンピュータ制御システムが導入されつつある。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

自動釣り機

(1)漁労作業に直接関与する漁業機械として代表的なものは、自動イカ釣り機と自動カツオ釣り機である。自動的に漁具の巻き揚げ・降下を反復して行わせる装置である。自動イカ釣り機は、この種の機械のうちもっとも早く実用化に成功、1965年(昭和40)から漁船に装備され、現在ではイカ釣り漁船のほとんどが装備している。当初は水中での擬餌針のアヤシやシャクリの機能、釣り糸の切断あるいは隣接する釣り糸間の絡みなどに対応する機能に重点が置かれたが、1967年ころにはシャクリ機能、スリップ機能を兼ね備えた高性能の自動釣り機が開発された。これによりイカ釣り作業は全面的に機械化され、人力は大幅に削減された。アヤシ、シャクリ、スリップは釣りの用語で、いずれも漁獲効果を高める操作機能である。アヤシは釣り針の巻き揚げ速度に強弱をつけて変化させること、シャクリはアヤシよりも強い速度変化、スリップは巻き揚げ中に釣り針を急激に沈降させる機能をさす。乗組員は、操業中はもっぱら漁具の運用管理・監視と漁獲物の処理作業に従事するのみである。カツオを釣り上げるには、カツオが摂餌(せつじ)する際の引張り力に応じた「合わせ」が必要なため、自動カツオ釣り機は、自動イカ釣り機に比べて微妙な作動が要求される。1970年代から試作機がつくられ漁船での搭載実験が行われ、漁獲対象がビンナガの場合は好成績を得たが、カツオでは期待されたほどの成果は得られなかった。1985年以降、船体動揺に対応する釣り針の位置確保機能、魚体重量に合わせた釣り上げ機能、釣獲魚をはずす機能、さらに漁獲尾数、操業位置、水温などの詳細なデータを記録することが可能な自動カツオ釣り機のコンピュータ制御システムが開発され、カツオ一本釣り漁業の省人・省力化の基礎が確立された。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

漁労支援機械

漁労作業を支援する漁業機械として重要なものに、ウィンチ類がある。ウィンチ類は間接的に漁労作業を支援する機械であり、漁具や漁獲物を船内に収揚するには必須(ひっす)の装備である。漁船は、採用する漁具・漁法に応じて、機能・形態が多様な電動式あるいは油圧式駆動によるウィンチ類を装備している。漁船に装備されているおもなウィンチ類をあげると、トロールウィンチ、パワーブロック(動力滑車)、ネットホーラーラインホーラー、巻網用環綱(かんづな)ウィンチなどである。ウィンチ類のほかには、ベルトコンベヤーフィッシュポンプ、ローラー類などがある。初期の漁業機械のほとんどはウィンチ類で、漁具や漁獲物を船内に収納するために必要な装備である。これには網や綱(ロープ)を直接リールに巻き取る方式と、摩擦車を用いる方法がある。トロールウィンチ、巻網用環綱ウィンチは直巻式であり、パワーブロック、ネットホーラーは摩擦車利用方式である。ベルトコンベヤー、フィッシュポンプは漁具あるいは漁獲物を移送するのに用いられる。ベルトコンベヤーは陸上の産業で用いられているものと同様の機械である。フィッシュポンプは、大量に漁獲された魚を損傷することなく移送・収容するために開発された。ポンプによって水と漁獲物を同時に吸い上げて移送し、排出口で水と漁獲物を分離する。集魚灯で集めた魚をフィッシュポンプで直接吸い上げる漁法がある。そのほかにVローラー、ボールローラーなどがあるが、これらは小型沿岸漁船の漁具運用の省力化を図る目的で開発されたもので、綱や網を空気圧によって挟みつけてスリップを少なくして効率よく巻き揚げて収容する機械である。Vローラーは甲板上に固定し、ボールローラーは支柱に吊り下げて使用する。Vローラーは1960年代の前半、ボールローラーは1965年ごろ開発された。定置網操業における揚網作業の省力化のためには、ロープストッパー、空気式揚網装置なども開発されている。ロープストッパーは箱網内に取り付けられた環締(かんしめ)ロープを引き揚げるためのもの、空気式揚網装置は海底に設置したホースに船上から空気を送り込みその浮力で昇り網を閉ざした後、箱網の敷網を昇り網から順次浮上させるものである。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

魚群探知機

間接的に漁労作業の効率を高める機器として、魚群探知機があげられる。魚群探知機は、漁船から鉛直方向に超音波を発射してその反射波から魚群および海底までの距離を表示する機械である。鉛直方向だけでなく水平方向にも魚の分布状況が探索できるサーチライト型ソナー、1972年に開発されたスキャニングソナー(electric scanning sonar、全方向に魚群を探索しCRT画面に表示する)もある。さらに、魚群の位置のみならず魚群の量および密度までを正確に推定するため、魚群量をデジタル化したのち表示する計量用の魚群探知機が開発された。この新型魚群探知機は、計量魚群探知機(または科学魚群探知機)とよばれるが、これはシムラット社の商品名「Scientific Echo Sounder」の和訳である。測定原理は送波器から比較的広い超音波ビームを発射し、そのなかに含まれる物標からの総反響(総エコー)が、魚群に含まれる1尾ごとが反射する反響エネルギーの和に比例することを利用して魚群全体にわたってこれを積分し、密度や量を求めるものであり、この方式を積分方式という。

[嶋村哲哉・添田秀男]

駆動装置

漁業機械の駆動には油圧装置を用いるものが多い。油圧装置は、微妙な速力のコントロールが容易である、急激に加わる過大なテンション(緊張)にも対応でき、遠隔操縦が容易である、設置場所に特別の条件がない、などの特性があり、使用条件が過酷な漁船の装備に適している。

[嶋村哲哉・添田秀男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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