日本大百科全書(ニッポニカ) 「魚群探知機」の意味・わかりやすい解説
魚群探知機
ぎょぐんたんちき
echo sounder
漁船から水中に超音波を発射し、その反射波から魚群または海底までの距離を表示する機械である。略して魚探ともいう。漁船から鉛直方向に超音波を発射する方法と水平方向に発射する方法がある。船舶の安全航行に必要な音響測深機から発展したもので、原則として超音波発振器、超音波送受波器、超音波受信器、記録器で構成されている。
[嶋村哲哉・添田秀男]
原理と出力
原理は、発振器を作動させ電気振動を超音波に変換し、送波器を通して水中に超音波パルスを発射する。これが魚群(反射体)に当たると反射し、返ってきた反射波を受波器で受け、受信器で増幅する。出力方法は記録器から記録紙に記録ペンによって反射像が記録される。記録紙は記録ペンと直角に巻き取られるので連続した記録が得られ、記録の時間的な経過を知ることができる。発射された超音波は、魚群に限らず伝搬方向に存在するあらゆるものに当たって反射する。したがって、記録紙には、魚群をはじめ海底、漁具、プランクトン層、その他が記録される。反射波の表示方法には、記録紙(湿式、乾式)によるほか、ブラウン管式、ネオン管式などがある。
魚群探知機もデジタル化が進み、航走しながらCRT(Cathode Ray Tubeの略。陰極線管の代表であるブラウン管をさす)上で水深が直読でき、反射波の強さに応じて色分けして表示できるようになった。一般に強い反射を赤系統、弱い反射を青系統とし、8~16色で表示される。また、パソコンと直結して記憶媒体に保存し残すことができる。したがって記録紙を用いるタイプは減少しつつある。
魚群探知機の記録では、魚群までの距離、魚種あるいは魚群の大きさなど、海底情報としては水深、底質、海底形状などがわかる。さらにGPS(全地球測位システム)と連動して濃密魚群が発見された位置の情報も得られる機種もある。使用される超音波の周波数は10キロヘルツから400キロヘルツの範囲である。周波数が異なるときの超音波の特徴を生かし、目的に応じて周波数を切り換える高低複数の周波数併用型の機械が多く用いられている。
[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]
ソナーの開発
超音波を鉛直方向だけでなく水平方向に発射する水平魚群探知機(水平ソナー)もある。周囲の魚の分布状況を探索するため送受波器を水平方向に回転させるサーチライト型のソナーである。漁船は漁業種類に応じてそれぞれの目的に適した機種を装備する。普及率は非常に高く、重要な漁業機器である。
魚群探知機は1928年(昭和3)イギリスとアメリカから農林省が初めて日本に輸入したが、1972年(昭和47)に漁船用としては日本で最初のスキャニングソナーが開発された。これは、超音波の送信パルスを送受波器から水平面内に無指向性で全方位に発射させ、電子スキャナーを使い、海中の受波器を回転することなく鋭い超音波ビームのみを高速回転させ、CRT上に、レーダーと同じPPI(Plan Position Indication)表示をする方式である。従来のサーチライト型ソナーでは、送受波器を360度回転することにより漁船の周囲の魚群を探索したので、全方位の探索に時間がかかっていた。しかし、このスキャニングソナーでは、魚群の分布だけでなく移動状況も瞬時に判明するので、魚群の追跡に迅速性を必要とする巻網漁において、とくに効果をあげている。
また、魚群の分布位置を知るだけでなく、さらに魚群の量および密度をより正確に把握するため、魚群量をデジタル化した後に表示できる積分方式の計量魚探が開発された。計量魚探は、科学魚探とよばれることもあるが、これはシムラット社の商品名「Scientific Echo Sounder」の和訳である。計量魚探は、送波器から比較的広い超音波ビームを出し、そのなかに含まれる物標からの総反響が、魚群の1尾ごとに反射する反響エネルギーの和と比例することを利用、魚群全体にわたってこれを積分し、密度や量をもとめる方式である。
魚群探知機はおもに漁業用として発展してきたが、デジタル化が進み、小型軽量化が可能になり、レジャー用としてプレジャーボートに搭載あるいはボート釣りに用いられる腕時計様の物まで比較的安価で手に入れることができる。
[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]