準・准・擬(読み)なぞらえる

精選版 日本国語大辞典 「準・准・擬」の意味・読み・例文・類語

なぞら・える なぞらへる【準・准・擬】

〘他ア下一(ハ下一)〙 なぞら・ふ 〘他ハ下二〙
① あるものをもって、本来のもの、あるいは上位のものに擬する。一般に、あるものを、他のものに匹敵するものと見なす。なずらえる。
※歌仙家集本家持集(11C前か)「おとにのみこふればくるしなでしこはなにさかなんなぞらへてみん」
増鏡(1368‐76頃)序「かのふるごとどもにはなそらへ給ふまじうぞなん」
② ならい従う。似せる。まねる。それらしく見せる。なずらえる。
※今鏡(1170)一〇「ことの詞(ことば)につきてなぞらへ試みるに、奈良の御世より広まりたると侍る。赤人・人丸が逢ひ奉れる御世と聞えたり」
③ ある事を口実にする。かこつける。なずらえる。
仮名草子・恨の介(1609‐17頃)下「さて菖蒲殿(あやめどの)は何かとなぞらへ、夜も更けてこそ候へば、我が局(つぼね)にぞ入らせ給ふ」
[語誌](1)中古以来、「なずらえる」「なぞらえる」の両形がある。古辞書では、古くは「なずらう」の形が圧倒的だが、やがて「なぞらう」がふえてくる。しかし、「なぞう(なそう)」という語形上代にあり、「なぞらう」はこれからの派生語と考えられるので、「なずらう」の方が古いとも断じにくい。なお四段活用をする自動詞は、古くは「なずらう」で「なぞらう」の確例は少ない。現代では文語的表現に用い、いずれも下一段活用であるが、「なぞらえる」の方がやや一般的といえる。
(2)ナゾラフがどのようにして成立したのかは未詳。ナゾフと関係があるとすればラフは接尾語的なものということになるが、ラフは平安時代には発達していない。また、ナゾルから作用継続性動詞としてナゾラフが派生したことも考えられるが、ナゾルが現れるのははるかに時代がくだってから。
(3)室町時代頃からヤ行にも活用した。→なぞらゆ(準)

なずら・える なずらへる【準・准・擬】

〘他ハ下一〙 なずら・ふ 〘他ハ下二〙
書紀(720)皇極二年一〇月(図書寮本訓)「蘇我大臣蝦夷、病に縁(よ)りて朝(まゐら)ず、私に紫の冠を子(こ)入鹿に授けて大臣の位に擬(ナスラフ)
曾我物語(南北朝頃)三「さらば、それがしをちゃうしとおぼしめし、かれらを臣下(しんか)になずらへて、御たすけ候はば」
源氏(1001‐14頃)梅枝「右近の陣の御溝水(みかはみづ)のほとりになずらへて、西の渡殿(わたどの)下より出づる汀(みぎは)近う埋ませ給へるを」
[語誌]→「なぞらえる(準)」の語誌

なぞ・う なぞふ【準・准・擬】

〘他ハ下二〙 (古くは「なそう」) =なぞらえる(準)
※万葉(8C後)八・一四四八「吾が屋外(やど)に蒔きし(なでしこ)いつしかも花に咲きなむ名蘇経(なソへ)つつ見む」
[補注]上代では二拍目はナソフと清音であるが、平安時代以後は濁音化した。しかしこれとほぼ同義のナゾラフが一般的に用いられ、「ナゾフ」は、まれである。

なずら・う なずらふ【準・准・擬】

[1] 〘自ハ四〙 準ずる。類する。肩を並べる。なぞらう。
※後撰(951‐953頃)春中・五二「見ぬ人の形見がてらは折らざりき身になずらへる花にしあらねば〈伊勢〉」
※源氏(1001‐14頃)常夏「まことに弾(ひ)きうることは難(かた)きにやあらん、ただ今はこの内の大臣(おとど)になずらふ人無しかし」
[2] 〘他ハ下二〙 ⇒なずらえる(準)

なぞら・う なぞらふ【準・准・擬】

[1] 〘自ハ四〙 =なずらう(準)(一)
※片仮名本後撰(951‐953頃)春中「見ぬ人に形見かてらは折らさりき身になぞらへるいろにかさねは〈伊勢〉」
[2] 〘他ハ下二〙 ⇒なぞらえる(準)

なずらい なずらひ【準・准・擬】

〘名〙 (形動) (動詞「なずらう(準)」の連用形の名詞化) 本物に準ずること。匹敵すること。似ていること。また、そのものやそのようなさま。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「さすがになつかしきことのかの人の御なずらひにだにもあらざりけるかな」

なずらえ なずらへ【準・准・擬】

〘名〙 (動詞「なずらえる(準)」の連用形の名詞化) 類するもの。肩を並べるもの。
※承応版狭衣物語(1069‐77頃か)一上「しばしは、さりともなずらへなる人ありなんと、頼もしくおぼされしを」

なぞえ なぞへ【準・准・擬】

〘名〙 (動詞「なぞう(準)」の連用形の名詞化) あるものを、他のものと同等に扱うこと。また、他と比べること。なぞらえ。
※俳諧・住吉物語(1695か)下「霞たつ空やなそへに鳥のみち〈鵝動〉」

なぞら・ゆ【準・准・擬】

〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段活用の「なぞらふ」から転じて、室町時代ごろから用いられた語。多くの場合、終止形は「なぞらゆる」) =なぞらえる(準)〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報