毛染め(読み)けぞめ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「毛染め」の意味・わかりやすい解説

毛染め
けぞめ

頭髪染料などで染めること。しらが染めをはじめ、自然毛髪を好みの色調に染め変えることで、最近ではヘア・カラリングhair coloringということが多い(ただしアメリカではティントtintという)。

[横田富佐子]

歴史

世界での毛染めの歴史は、古代エジプトまでさかのぼることができ、女性たちはミソハギ科の植物ヘンナ枯れ葉でつくった染め粉や、ベニバナの粉などを使っていた。ローマ時代に入り、頭髪を好みの色に染めるため漂白することが貴婦人の間で行われた。しかし、かぶれをおこしたり、時間がかかったりするので、むしろ、かつらが愛用されていた。毛髪料にはカミツレクルミなどの抽出液が用いられ、これは19世紀の中ごろまで使われていた。毛染めに今日使用されている有機合成系の酸性染料は、1863年にイギリスの化学者ホットマンがパラフェニレンジアミンを発見し、これによって頭髪や、また毛皮羽毛などが染められるようになった。

[横田富佐子]

日本

日本ではかつて、しらがになることは長生きの象徴として受け取られたり、しらがが増えれば増える分だけ、苦労が抜けていくといわれたりしたことはあるが、毛染めに関しての記録は少ない。『平家物語』巻7の斎藤実盛(さねもり)が「老武者とて人のあなどらんも口惜しかるべし」と、墨で鬢鬚(びんひげ)を染めて出陣したと記されている。そのほかまた、染料としてザクロの皮を煎(せん)じたり、クワの根を油で煮詰めたりしたものを使用したとか、鉄漿(おはぐろ)でしらがを染めたとかが史実に残っている。

 日本における有機合成系の染料は、1883年(明治16)に「元禄(げんろく)」や「君が代」などの商品名で発表されたのが最初で、当時は「赤毛、しらが染め」用で、パラフェニレンジアミンを主剤にした、黒く染めるだけの毛髪剤であった。以後も第二次世界大戦までは、新劇の俳優がかつらのかわりに一時的に染める程度であった。戦後、欧米人のいろいろな頭髪の色を直接目にし始めて、ブリーチbleach(漂白)によって脱色し、毛髪の色を変えることが流行し、とくに1960年後半以降、カラーテレビやカラー写真の急速な普及に伴って、服装や化粧がカラフルになるとともに、ヘア・カラリングもかなり一般化してきた。また男性にも、しらが染めだけでなく、おしゃれ染めを試みる傾向もみられてきた。

[横田富佐子]

毛染剤の種類と特質

ヘア・カラリングは、使用する毛染剤の浸透度に応じて、頭毛の表面だけが染まる一時性のもの(シャンプーからシャンプーまでの期間しか染色できないタイプ)と、1回のシャンプーによってすぐには洗い流されない半持続性のもの、また頭髪に毛染剤をしみ込ませてしまう持続性のものとがある。

 持続性染色剤は3種類あるが、今日では大部分が有機合成系染料(酸性染料)のタイプが使用されている。有機合成系染料は、酸化剤を用いるが、シスチンの結合状態を変えることがないので、毛髪を傷める度合いが少なく、色の種類も豊富なので、利用頻度が高い。なお有機合成染料でアレルギー反応をおこす人は、しらが染めに限り植物性染料あるいは金属性染料を使ってもよい。ただし植物性染料はヘンナを原料とするものが代表的で、かぶれをおこさず、毛髪を傷めないが、色彩が赤褐色に限られ、使用後に手や衣服などが汚れやすい欠点がある。

 また鉱物性染料は、頭毛のケラチン分子中にシスチン結合が分散し、金属塩が浸透するために毛の構造自体を変化させ、毛髪を傷めることがある。パーマネントもかけにくくなり、色彩も金属的な光沢を帯びてくる。

 酸性染料の組合せにより、現在ではもっとも普通なブラック系、ブラウン系をはじめ、レッド系、イエロー系など、およそ40色の種類がある。

[横田富佐子]

おしゃれ染め

しらが染めでなく、黒髪を栗(くり)色やその他の色に染めたりするのが、おしゃれ染めである。さらに髪全体でなく部分染めをする方法もある。

(1)ストリーキング たとえば髪の一部を1~2センチメートル幅に取り分け、アルミホイルに包んで、前頭部など好みに応じて1~3か所除いておく。残りを黒髪のまま、あるいは基調色にヘアダイし、取り分けた部分は明るめの色など好みの色にする方法。

(2)フロースト 穴のあいたゴム製のキャップを頭にすっぽりかぶせ、かぎ針のようなものでごく少量ずつ頭髪の一部を引き出す。その部分だけを染めると、仕上がりは陰影がつき、しゃれた感じになる。

[横田富佐子]

リタッチ

頭髪の成長速度は1日に0.2~0.4ミリメートルといわれているので、染めたあとの毛の成長の度合いによって、リタッチ(根元に同色のヘアダイを塗りたす)することができる。

[横田富佐子]

毛染めの注意

体質によっては染料でアレルギー反応をおこす場合もあり、予防としてパッチテスト(塗布試験)を行い、安全性を確認してから使用することになっている。異常があるときには、使用を中止する。パーマネント・ウエーブとヘア・カラリングを行う場合には、パーマネントを先に、その1週間か10日後ぐらいに毛染めをしたほうがよい。

[横田富佐子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例