歌物語
うたものがたり
物語文学の重要な一形態で、和歌を中心とする短い物語、またはそれらを集めた物語集。これは平安時代の10世紀に集中的に制作され、『伊勢(いせ)物語』『大和(やまと)物語』『平中(へいちゅう)物語』がその代表的な作品である。古くから、和歌についてその作者や作歌事情などを口頭で語り伝える「歌語り」と称せられるものがあったらしいが、とくに9世紀なかばの和歌再興期以後、実在の人物の和歌がどのような事情で詠まれたかに深い関心が寄せられ、それが宮廷社会で「歌語り」として語られるようになった。歌物語はそうした「歌語り」を物語として洗練させながら、作中人物の、歌を詠まざるをえない心情の経緯を語ろうとしている。しかし、歌と物語内容とのかかわり方はかならずしも同一でなく、歌そのものが主題を担う場合もあれば、話の内容自体に重点の置かれる場合もある。もとより歌を交えながら話を語るという方法は、その伝統を古代の記紀歌謡にまでさかのぼれるのであり、根が深い。10世紀初頭の、最初の物語と目される『竹取物語』は歌物語ではない作り物語であるが、それにも歌が含まれている。
歌物語自体は10世紀に限られるが、そこでの、歌を詠まざるをえない心情のあり方、散文と歌の緊張的なかかわり方などという歌物語固有の方法が、11世紀以後の『源氏物語』その他の物語に受け継がれていく。
[鈴木日出男]
『阿部俊子著『歌物語とその周辺』(1969・風間書房)』
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歌物語
うたものがたり
平安時代の和歌を中心とした短編物語文学。文学史的には,作り物語 (虚構物語) と対比して用いられ,『伊勢物語』『大和物語』『篁物語 (たかむらものがたり) 』など特定の作品をさす。形態としては,『古事記』『日本書紀』の歌謡を伴った神話や,感情表現を和歌をもってする日記,あるいは詠歌の事情を詳しく記した詞書をもつ私家集などとよく似ているが,歌物語は「歌語り」と呼ばれる和歌にまつわるある人物の逸話から発展した物語であることを基本的性格とする。したがって,実際には虚構でありながら実話として享受された。和歌によって恋を描く方法は作り物語に継承され,恋の高潮した場面では常に和歌が主要な役割を果した。
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うた‐ものがたり【歌物語】
〘名〙
※相模集(1061頃か)「津の国にすむこやの入道哥ものがたりなどおほかたにいふ人なりけり」
② 平安文学における物語の
様式の一つ。和歌を中心として構成された短編物語。また、短編物語集。「源氏物語」などの本格的な物語を生む過渡的形態で、日記、私家集その他にも歌物語的性格があるとされる。「伊勢物語」「大和物語」「
平中物語」などが代表的作品。
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デジタル大辞泉
「歌物語」の意味・読み・例文・類語
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うたものがたり【歌物語】
平安中期の物語の一様式をあらわす文学用語。語彙としては二義あり,一つは早く《栄華物語》(〈浅緑〉)にもみえ,歌にまつわる小話の意で,当時〈うたがたり〉と呼ばれた口承説話とほぼ同一内容のものと思われる。二つは近代に入ってからの新しい用法で,《竹取物語》《宇津保物語》などを〈作り物語〉と古くから呼んできたのに対して,《伊勢物語》《大和(やまと)物語》《平中(へいちゆう)物語》の三つを新しく区別して呼んだのであり,文学史記述の便宜から生じた用語である。
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