掠・擦(読み)かすり

精選版 日本国語大辞典 「掠・擦」の意味・読み・例文・類語

かすり【掠・擦】

〘名〙 (動詞「かする(掠)」の連用形名詞化)
① かすること。軽く触れること。
※俳諧・其袋(1690)冬「桂男もうごくやうなる春の月〈百花〉 舟責下(くだる)かすりおもしろ〈菊峯〉」
② 物がかすってできた傷。掠り傷
※俳諧・物種集(1678)「浅茅かはらで敵うたせて 肩さきにすこしかすりの有乳山〈南達〉」
③ 文字がかすれていること。また、その箇所。かすれ。
金品をかすめ取ること。また、その取ったもの。上前(うわまえ)をはねること。うわまえ。口銭。ぴん。ぴんはね。ぼうさき。
※談義本・当世花街談義(1754)四「一文にはなされ、おもはず仮盗(カスリ)大横(だいわう)と現ず」
⑤ 利益やもうけ。
洒落本・根柄異軒之伝(1780)「少宛(すこしばかり)のかすりをせしめ」
労力金銭を節約すること。また、その節約して得たもの。
※洒落本・契国策(1776)南方「門(もん)のまへにくさるほどあるかごにのらないで道でのるは、百もやすくのろふといふかすりだ」
⑦ もとの語の音や意義を巧みに利用して別語に仕立てるしゃれの技巧秀句、地口(じぐち)、口合(くちあい)の類。
咄本醒睡笑(1628)八「天然作意、うまれつきて、かすり・秀句をいふに上手なり」
親分が縄張り内の与太者浮浪者などからはねる上前(うわまえ)
江戸から東京へ(1925)〈矢田挿雲一二「バクチの賭場が立てばきっとテラカスリを持って来ますから」

かす・る【掠・擦】

[1] 〘他ラ五(四)〙
① 通り過ぎるときなどに表面にさっと触れる。他の物の表面を一瞬かすかにこするようにして過ぎる。比喩的にも用いる。
※松下十巻抄(1531)蹴鞠条々「懸植事〈略〉惣而枝のかすることなし」
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉一「金から吹起る都の腐れ風に日向(ひなた)臭い横顔を漸々(だんだん)かすられ」
② 軽くその事に関して触れる。ほのめかす。また、もとの語をたくみに利用してしゃれほのめかす。
※異本紫明抄(1252‐67)三「すこくとは意如何。かするの常詞歟(か)
※咄本・鹿野武左衛門口伝はなし(1683)上「天智天皇の哥をかすりてよみけるを聞は」
③ 軽く触れたかのように動く。
真理の春(1930)〈細田民樹〉森井コンツェルン「柔かな薄雲が、〈略〉所々大胆にかすってゐる」
④ 上前(うわまえ)をはねたり、ごまかしたり、倹約したりなどして利益を得る。
※雑俳・川柳評万句合‐宝暦一三(1761)礼五「そば切のあかりをかする夜はまぐり」
⑤ 中に入れた物が少なくなって、取り出すときに容器の底に軽く触れる。また、底までさらう。底までなくす。
※日葡辞書(1603‐04)「ツボソコヲ casuru(カスル)〈訳〉壺の底をこそげる」
[2] 〘自ラ下二〙 ⇒かすれる(掠)

かす・れる【掠・擦】

〘自ラ下一〙 かす・る 〘自ラ下二〙
① 軽く触れて過ぎる。
② はっきりと目に見えていたものがかすかになる。また、消えかかった状態になる。
※和英語林集成(初版)(1867)「ジガ kaszreta(カスレタ)
③ 声・音などが、はっきりした連続音として出なくなる。
※恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉二三「意志を張らうとすれば節回(まはし)が渋り、力を籠めれば調子が外れて、息は切れる、音(ね)は抄(カス)れる、遂には指まで間違へて」

かすれ【掠・擦】

〘名〙 (動詞「かすれる(掠)」の連用形の名詞化)
① 軽く触れて擦(す)ること。また、その箇所。
② 含ませた墨や絵の具が少なくなった筆で書いた状態。また、その箇所。
③ 声がしわがれること。
※鏡子の家(1959)〈三島由紀夫〉一「彼の声には拳闘家特有の嗄(カス)れがあった」
④ 商品などが不足してくること。〔増補改訂新聞語辞典(1936)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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