打付(読み)うちつけ

精選版 日本国語大辞典 「打付」の意味・読み・例文・類語

うち‐つけ【打付】

[1] 〘形動〙
[一] 時間的、心理的に、間をおかずに物事が進んだり、行動を起こしたりするさま。
① 予期しないうちに、あるいは予備行動もなく、急に物事が進んだり、行動を起こしたりするさま。
(イ) 突然。唐突。だしぬけ。
※大和(947‐957頃)御巫本附載「男、うちつけながら、いとたつ事をもがりければ」
(ロ) 突然で失礼なさま。卒爾(そつじ)。ぶしつけ。
※源氏(1001‐14頃)橋姫「うちつけなるさまにやと、あいなくとどめ侍りて」
② ある原因やきっかけによって、物事が急に進んだり、すぐに行動を起こしたりするさま。
(イ) ふとしたきっかけで、どうしようもなく、にわかに心の進むさま。
※古今(905‐914)夏・一六二「郭公人松山になくなれば我うちつけにこひまさりけり〈紀貫之〉」
(ロ) あることが原因となって、予期以上にすみやかに他の物事が起こったり、行動を起こしたりするさま。即座。てきめん。現金なさま。
※土左(935頃)承平五年二月五日「さればうちつけに海は鏡のおもてのごとなりぬれば」
③ 深く考えたり、じっくり観察したりするのではなく、表面だけで、反射的に行動したり、判断したりするさま。
(イ) 軽率なさま。一時の出来心によるさま。
※大和(947‐957頃)七八「うちつけにまどふ心ときくからに慰めやすくおもほゆるかな」
(ロ) 一目見ただけで、よく観察していないさま。ちょっと見。
※古今(905‐914)物名・四四四「けにごし うちつけに濃しとや花の色を見ん置くしら露のそむる許(ばかり)を〈矢田部名実〉」
④ 対象との間に、心理的に距離をおかないさま。
(イ) むきだし。露骨。無遠慮。
※源氏(1001‐14頃)帚木「うちつけのすきずきしさなどは、このましからぬ御本性にて」
※仮名草子・好色袖鑑(1682)下「情をしらぬ人の恋は、何事も打つけにくどき」
(ロ) 直接。端的。ぶっつけ。
浮世草子・けいせい伝受紙子(1710)一「お侍様のお口から、打つけには仰られにくきによって」
[二] ぴったりなさま。よく似合うさま。打ってつけ。
歌舞伎梅柳若葉加賀染(1819)五立「こりゃ、おまつどのには打ちつけぢゃわいの」
[2] 〘名〙
① 最初。発端。
※評判記・難波の㒵は伊勢の白粉(1683頃)三「惣而(そうじて)子共は打つけをおむくにやって次第にはりを見せつけよと」
② 風波のこと。
※颶風新話(航海夜話)(1857)二「どの方角から打ち付けが来るであらうで」

うち‐つ・ける【打付】

〘他カ下一〙 うちつ・く 〘他カ下二〙
① くぎなどを打ち込んで、ある物につける。
※今昔(1120頃か)三一「様々に終夜(よもすがら)物の具共打付て」
※太平記(14C後)二七「大物(だいもつ)の五六(ごろく)にて打付たる桟敷傾き立て」
② 火打石を打って、火をつける。
愚管抄(1220)三「一番に火うちつけて法華堂の常燈につけられたり」
③ 手かせや足かせを付ける。縛りつける。
※今昔(1120頃か)二五「盗人を捕へて打付て置たりけるが」
④ 強く打つ。激しくぶつける。投げつける。
※万葉(8C後)一一・二四九〇「天雲に翼(はね)打附(うちつけ)て飛ぶ鶴のたづたづしかも君しいまさねば」
※御伽草子・あきみち(室町末)「打物抜きて〈略〉この人にうちつけんとしたりしかば」
⑤ (「うち」は接頭語) 物に物を添える。付ける。
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「おほきなるかうらいをうちつけ」
讚岐典侍(1108頃)上「つらつらと聞かせ給うて〈略〉御声うちつけさせ給ひて」
⑥ (「うち」は接頭語) ぶしつけに物事をする。露骨に物事をする。
※浮世草子・好色五人女(1686)三「うちつけたる文章、去りとてはにくさもにくし」
⑦ (「うち」は接頭語) うまく適合する。うってつけである。
浄瑠璃・加増曾我(1706頃)四「うちつけたよい敵(かたき)、不足は有まい」

ぶっ‐つけ【打付】

[1] 〘名〙
① ぶつけること。
③ 打付店(ぶっつけみせ)女郎
洒落本辰巳之園(1770)自序吉原に昼三あれば、〈略〉。打附(フッツケ)有は、櫓下佃島あり」
④ はじめであること。また、その時。最初。
病牀六尺(1902)〈正岡子規〉七一「甘酒屋と初句をぶっつけに置いた処が不審な点である」
⑤ (形動) 遠慮、気がねなどをしないで、事を行なうこと。また、そのさま。端的(たんてき)
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「いっそ端的(ブッツケ)に、〈略〉お島さんへ形見にと云ふやうなことで、届けたが可いだらう」
⑥ (形動) ぶっつけ本番で事を行なうこと。また、そのさま。
人情本・恋の若竹(1833‐39)初「役があらァ。きり山でやらっし、伊吾がぶっつけの役だ」
[2] 〘副〙 そのことが近い将来であるさまを表わす。間もなく。近いうちに。すぐ。
※人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)前「けふ突出しの真名鶴といって、ぶっつけ(よびだし)のお職さネ」

ぶっ‐つ・ける【打付】

〘他カ下一〙 (「ぶちつける(打付)」の変化した語)
① くぎなどを強く、または雑に打ち込んで、ある物につける。
真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝四五「裏の方の、竹を打付(ブッツ)けた窓がある」
② =ぶつける
※雑俳・柳多留‐一七(1782)「ぶっつけるやうに駕ちん女房出し」
③ =ぶつける
※歌舞伎・八重霞曾我組糸(1823)三立「ぶっつけて云やア、矢っ張り惚れたのだ」
④ 「する」「行なう」「与える」などをぞんざいに言う語。
※歌謡・松の落葉(1710)四・どうらく踊「あのどうらくめ、むかひこよねが羽をつくにの、手鞠つくにの、よいつくつくつくにはつてんひつわがふらくとぶっつけた」
※落語・入れ髪(1890)〈三代目三遊亭円遊〉「彼(あ)の情婦(おんな)は三拾円の金を打附(ブッツ)けて遣れば訳なく手が切れちまふんだ」

うち‐つ・く【打付】

[1] 〘自カ四〙
① (「うち」は接頭語) 二つの物が離れない状態になる。付着する。つく。
※大鏡(12C前)六「頭の血うちつきたるを」
② 火打ち石を打って火がつく。
※滑稽本・和合人(1823‐44)四「火が打付(ウチツ)きました」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒うちつける(打付)

ぶち‐つ・ける【打付】

〘他カ下一〙 ぶちつ・く 〘他カ下二〙
① 釘(くぎ)などをうってつける。固く釘づけにする。うちつける。
※幸若・景清(室町末‐近世初)下「大釘を以て丁々どぶち付」
② 強くうち当てる。ぶっつける。
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「こらへかねて、枕をとってぶちつくる」

うって‐つけ【打付】

〘形動〙 (「うつ(打)」の原義の、強く物事にあてる、釘で打ち付けたようにぴったり合うの意から) 人や物事がある目的、またはその場の状況にぴったりかなっていること。また、そのさま。もってこい。あつらえむき。
※雑俳・柳多留‐七(1772)「羽衣のくせは野がけに打てつけ」
※うつせみ(1895)〈樋口一葉〉一「庭は広々として植込の木立も茂ければ、夏の住居にうってつけと見えて」

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