戦争責任(読み)センソウセキニン

デジタル大辞泉 「戦争責任」の意味・読み・例文・類語

せんそう‐せきにん〔センサウ‐〕【戦争責任】

戦争開始・遂行した責任。また、戦時期にとった行動に対する責任。

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改訂新版 世界大百科事典 「戦争責任」の意味・わかりやすい解説

戦争責任 (せんそうせきにん)

戦争責任が国際的な大問題となるのは,第1次世界大戦を契機とする。第1次大戦は国家総力戦の様相を示したが,交戦諸国が戦争に民衆を動員するには戦争の名分を国内に宣伝し,戦争の原因を民衆に宣伝する必要があった。このため開戦責任を相手になすりつける形で,交戦諸国は戦争責任問題を宣伝した。大戦後のベルサイユ講和条約は,戦争で諸国の政府と国民のこうむったいっさいの損害の責任はドイツにあるとし,領土割譲や多額の賠償金などをドイツに要求した。帝国主義戦争としての第1次大戦の原因は一方的にドイツに帰せられたが,このことは膨大な経済的負担と相まってドイツ人の間に報復主義的感情を植えつけ,ナチス台頭の一因となった。他方,戦争責任論議とともに戦争防止の必要が叫ばれ,1928年には国策遂行の手段としての戦争を違法化したパリ不戦条約が締結された。

 第2次大戦の惨禍と人命損失は空前のものになり,反ファシズム民主主義擁護を戦争目的に掲げる連合国は,戦争責任問題の処理を戦後政策の最大の目標にした。連合国は大戦中,ドイツや日本など枢軸国による侵略や残虐行為の責任を,第1次大戦の教訓から,枢軸国の国民全体にきびしく追及するのではなく,枢軸国の指導者に集中させるという〈指導者責任観〉を公式の戦争目的に掲げた。そして連合国はファシズム軍国主義思想が枢軸国の指導者だけでなく一般国民に浸透していることを重視し,戦争勝利後,国際平和と民主主義的な社会秩序確立のため,連合国の占領によって広範な社会改革を枢軸国に実施する方針をとった。このため第2次大戦終了後,連合国によってドイツや日本の指導者を裁くニュルンベルク裁判東京裁判が開かれ,また各地で,〈通例の戦争犯罪〉や非人道的行為を裁くBC級戦犯裁判が実施された。戦犯裁判のほか,ドイツでは〈非ナチ化〉,日本では〈民主化〉〈非軍事化〉を目標に連合国による各種の占領改革が実施された。連合国の戦争責任追及政策は〈開戦責任〉が基調となっていたが,当初の日本側の受止め方は〈敗戦責任〉が多かった。日本敗戦直後の東久邇稔彦内閣は〈一億総懺悔(ざんげ)〉による天皇への敗戦の謝罪を唱え,また国民の多くも敗戦の悲惨と戦後の苦境をもたらした軍部,官僚など戦争指導者を怨嗟(えんさ)する敗戦責任論に共感した。その後,東京裁判の公判とともに戦争指導者の開戦責任が焦点となったが,戦争の被害者の側面だけでなく,アジアの民衆に対して加害者の立場にあった国民の主体的な戦争責任問題も提起された。戦争責任論議は,だれのだれに対する責任かが不明確な場合は,混乱する傾向がある。また日本の戦争責任を水に流そうとする政治的潮流も根強く存在するが,日本の戦争責任問題は日本の戦後責任ともあわせて検討されねばならないのが現状である。
戦争犯罪
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世界大百科事典(旧版)内の戦争責任の言及

【昭和天皇】より

… しかし,戦局が末期的となり,もはや日本軍の挽回が不可能と確信して以後,天皇は講和に向けて積極的に動きはじめ,和戦両派の対立を収拾してポツダム宣言受諾にもちこんだのである。戦後は,連合国の天皇制への強い非難と天皇の戦争責任追及の声が起こるなかで,“戦争責任を認めるような形で退位すると天皇制そのものが危うくなる”という〈国体護持〉の観点から退位を拒み,天皇制維持に全力を傾倒した。45年9月27日のマッカーサーとの会見,46年1月1日のいわゆる〈天皇人間宣言〉,明治憲法を根本的に否定するいわゆるマッカーサー草案を日本政府の憲法改正案として承認したことなどは,いずれも,こうした天皇制維持の目的のために余儀なくされたものであった。…

【太平洋戦争】より

…これに対し,中国の犠牲者は軍人の死傷者約400万名,民間人の死傷者約2000万名にのぼり,フィリピンでは軍民約十数万名が死亡したと言われているが,その他の地域の犠牲者数は不明であり,日本軍と戦ったアメリカ,イギリス,オーストラリアなどの被害も物心両面にわたって甚大なものであった。
[戦争責任問題]
 では,以上のような被害と加害の大惨害の責任は誰が負うべきか。太平洋戦争は,出先軍部の暴走によって始まった満州事変や日中戦争と異なり,天皇を頂点とする支配層上層部が正規の手続きに基づき,天皇出席の御前会議をはじめとする各種の会議を積み重ねたすえ,出席者全員の同意で開戦を決定したことによって開始された。…

※「戦争責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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