宿神(読み)しゅくしん

精選版 日本国語大辞典 「宿神」の意味・読み・例文・類語

しゅく‐しん【宿神】

※明宿集(1465頃)「翁を宿神と申たてまつること、かの住吉の御示現に符合せり。〈略〉三光すなわち式三番にてましませば、日月星宿の儀をもて宿神と号したてまつる」

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改訂新版 世界大百科事典 「宿神」の意味・わかりやすい解説

宿神 (しゅくしん)

呪術的信仰対象の一つ。〈しゅくしん〉は,守宮神,守久神,社宮司,守公神,守瞽神,主空神,粛慎の神,守君神など,さまざまな表記があるが,元来はシャグジシュグジなどと称された小祠の神の名だったと思われる。シャグジ,シュグジは辺境の地主神であるが,呪術的性格の強かった密教神道のほか荒神,道祖神など他の民間信仰と習合を果たし,非常に複雑なまつられ方をしている。おびただしい異表記があるのはそのためである。中世猿楽芸能者および盲僧など,芸能・音曲にたずさわる人たちの共同体が信仰対象とし,尊崇したとき,この神を宿神,守久神と表記した。その背後には夙(しゆく)の神の意も寓されていたと思われる(宿(しゆく))。金春(こんぱる)禅竹の《明宿(めいしゆく)集》は,猿楽者集団が神聖視する翁および翁面につき,その由来を説く伝書であるが,その根底に宿神信仰がある。すなわち,猿楽の翁は宿神の具象と観じたのである。翁面は宿神の神体そのものであった。宿神の図像は,立烏帽子,水干に紫の袈裟(けさ)をまとい,履(くつ)をはき,両手に数珠と檜扇を持つ老翁の姿で表され,神仏混淆を象徴する神像であったらしい。中世の《享禄三年二月奥書能伝書》によると,宿神は台密系の大寺院に祭祀する仏法守護神たる摩多羅神(まだらじん)であると明記してある。世阿弥の《風姿花伝》に載せる猿楽起源説話にいう〈後戸(うしろど)の神〉が,実態は摩多羅神であり,初期の呪師(しゆし)猿楽のわざはこの神に対する〈神いさめ〉であったことと関係がある。猿楽民の宿神信仰は,呪術宗教性を未分化なものとしていた中世以前の芸能の根源的な性格を象徴するもので,宿神はすなわち芸能神であったといってもよい。宿神は現世利益(りやく)の霊威たけだけしい一面,強烈にたたる神と考えられ,いやがうえにも神秘化され,おそれ敬われた。なお,盲僧集団の祭祀した守瞽神,十宮神は同じ神であり,これを〈宿神〉と表記した文献もある。
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世界大百科事典(旧版)内の宿神の言及

【摩多羅神】より

…太秦(うずまさ)広隆寺の牛祭には,摩多羅神が牛に乗って出現し,こっけいな祭文を読みあげる。これは同寺の伽藍神でもある秦氏の祖神大僻(おおさけ)明神と重なりあっており,金春禅竹の《明宿集》によれば,この神は猿楽者の芸能神(宿神(しゆくしん))であった。摩多羅神はおそらく院政期の天台寺院を本所とする後戸猿楽(呪師猿楽の後身)のまつるところとなり,猿楽の(おきな)の成立に深くかかわる存在であった。…

※「宿神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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