摩多羅神(読み)マタラジン

デジタル大辞泉 「摩多羅神」の意味・読み・例文・類語

またら‐じん【摩多羅神】

天台宗で、常行三昧堂じょうぎょうざんまいどう守護神。また、玄旨帰命壇げんしきみょうだん本尊最澄円仁が唐から帰国の際に出現して守護したと伝えられる。
京都市右京区太秦うずまさ広隆寺牛祭りの祭神 秋》「里の子も覚えて所―/太祇

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精選版 日本国語大辞典 「摩多羅神」の意味・読み・例文・類語

またら‐じん【摩多羅神】

[一] 仏語。天台宗であがめる、常行三昧堂の守護神。また、玄旨帰命壇の本尊としてまつられた神。一説に、頭部に唐制の幞頭(ぼくとう)をつけ和様の狩衣を着、鼓を打つ姿をとるとする。最澄入唐の際および円仁帰朝の際に、その船中に化現したと伝えられる。〔渓嵐拾葉集(1318)〕
[二] 特に、京都市右京区太秦(うずまさ)の牛祭の主祭神。源信が広隆寺に勧請したものと伝える。また、その祭で、幞頭、狩衣の姿に紙製の大きな面をつけて、この神に扮(ふん)した人やその面をいう。《季・秋》 〔日次紀事(1685)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「摩多羅神」の意味・わかりやすい解説

摩多羅神 (まだらじん)

中世に天台宗寺院の常行三昧堂(常行堂)にまつられた護法神。《渓嵐拾葉集》は,慈覚大師(円仁)の帰朝の船中で影向(ようごう)して念仏守護を誓ったという伝承(大師の引声(いんぜい)念仏請来説話と,新羅明神赤山明神の影向譚のような外国渡来の神の縁起に基づく)を載せる。これは,常行堂が止観の道場から念仏声明に携わる堂僧たちの聖所となっていく過程で,阿弥陀仏の垂迹神として彼らの組織の中心となる神格が創造されたことを示す。神像烏帽子狩衣装束で鼓をもち唱歌する壮年の姿で,笹を採物にして舞う2童子を従える図像が普通である。比叡山をはじめ,法勝寺,多武峰(とうのみね)妙楽寺,日光輪王寺,出雲鰐淵寺など各地方の中心的天台寺院の常行堂の後戸(うしろど)にまつられた。その祭祀は,たとえば輪王寺の《常行堂故実双紙》によると,修正会と結合した常行三昧のなかで,この神を勧請して延年が行われ,七星をかたどる翁面を出し,古猿楽の姿を伝える種々の芸能が演ぜられた。平泉毛越寺常行堂には今もこうした延年が伝えられ,摩多羅神とおぼしい翁が登場して祝詞を唱える。多武峰常行堂にも同様の祭儀があったが,その神体は猿楽の翁面である。太秦(うずまさ)広隆寺の牛祭には,摩多羅神が牛に乗って出現し,こっけいな祭文を読みあげる。これは同寺の伽藍神でもある秦氏の祖神大僻(おおさけ)明神と重なりあっており,金春禅竹の《明宿集》によれば,この神は猿楽者の芸能神(宿神(しゆくしん))であった。摩多羅神はおそらく院政期の天台寺院を本所とする後戸猿楽(呪師猿楽の後身)のまつるところとなり,猿楽の(おきな)の成立に深くかかわる存在であった。一方で,中古天台教学が口伝法門を形成していく過程において,檀那流の伝授に際し玄旨帰妙壇(げんしきみようだん)という秘儀が行われるようになり,この神が本尊とされ,儀礼のなかでは歌舞をともなう性的な意味を示す所作によりまつられた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「摩多羅神」の意味・わかりやすい解説

摩多羅神
またらじん

天台宗で崇拝する神。延暦寺常行三昧堂の守護神であり,玄旨帰命壇の本尊でもある。頭にぼく頭 (ぼくとう) をかぶり,狩衣を着,鼓を持っている。元来インドの神であったが,最澄入唐の際に伝えられ,崇拝により往生ができるとされる。京都太秦の広隆寺の牛祭の祭神。

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世界大百科事典(旧版)内の摩多羅神の言及

【広隆寺】より

…京都市右京区にある寺。山号は蜂岡山。別に太秦寺(うずまさでら),蜂岡寺,川勝寺,秦公寺(はたのきみでら)ともいい,俗に太秦の太子堂と呼ばれる。真言宗別格本山。秦河勝(はたのかわかつ)が,603年(推古11)に聖徳太子から仏像をさずかり,その像を安置するため622年に創建したのが当寺で,京都では最古の寺院の一つである。創建当初の寺地は,いまの場所から北東数kmの地点とされ,現地には平安遷都時あるいはそれ以前に移った。…

※「摩多羅神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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