〘他カ下一〙 しか・く 〘他カ下二〙 (「し」はサ変動詞「する」の連用形)
[一] (「かける」は、覆うようにかぶせるの意)
① 物を用意して、それを他の物にかける。
※
落窪(10C後)二「腹を立ちて、しかけたる衣どもも著ずて」
② 息を吹きかけたり、水を浴びせたりする。特に、尿などの
汚物を相手にかける。かけてよごす。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「父君に尿
(しと)多
(ふさ)にしか
けつ」
※宇治拾遺(1221頃)三「息しかけなどして物くはす」
③ 煮たきするために、鍋、釜、
やかんなどを、火の上に置く。火にかける。
※虎明本狂言・
鱸庖丁(室町末‐近世初)「
茶の湯にすいたれば、おくのまにしかけておいたが、いかにもりんりんりんと、たぎってある」
※浮世草子・好色貝合(1687)下「宿の
女房は、
鑵子(くはんす)あらひて、茶をしかくれば」
④ 浴びせるように勢いよく飲む。ひっかける。
※洒落本・恵比良濃梅(1801)一「先
いきやすめに一ッぱいしかけ、いきをひをつけんと、料理茶屋へづっとはいる」
[二] (「かける」は、動作や
作用を相手に向ける意)
① 相手に対して、こちらから働きかける。行為をしむける。積極的に働きかける。
※枕(10C終)一四三「口をひき垂れて、『知らぬことよ』とて、さるがうしかくるに」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈
仮名垣魯文〉初「きゃくにはなしをしかける」
② (①から転じて自動詞的に用いる) 強引に相手のところへ行く。押し掛ける。乗り込む。
※浮世草子・
武道伝来記(1687)七「それより直に主膳屋形に仕掛
(シカケ)案内申せば」
③ 相撲で、相手よりも先に技をかける。攻勢に出る。
④ 将棋で、序盤の駒組が完了して戦いを開始する。また、ある指し手に着手する。「千日手をしかける」
[三] (「かける」は設備する、設ける意)
① ある働きをさせるために、装置、工夫などを設けたり、準備をしたりする。しかけを作る。
※山上宗二記(1588‐90)「朝起、夜放し会朝は、寅一天より茶湯仕懸る也」
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉七「門柱に装置(シカ)けた電鈴の釦鉏(ボタン)を推しつつ」
② 相手を自分の考えにひき込むために、ある計画をする。たくらむ。
※浮世草子・好色一代男(1682)六「召連(めしつれ)の者、駕籠までも嵐ふく夜はわざとならぬ首尾に仕懸(シカケ)て」
③ 行儀、作法などを教え習わせる。しつける。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)五「随分厳敷(きびしく)仕(シ)かけても、大かたは母親ひとつになりて、ぬけ道をこしらへ」
④ 巧みに相手をごまかして扱う。相手をたくらみに乗せる。ごまかす。だます。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)五「油も壱升弐匁の折から弐匁三分に仕掛(シカケ)られ」
[四] (「かける」は、動作を始めそうになる。また、始めてその途中であるの意) 動作、作用をし始める。また、動作をし始めて、その途中である。
※太平記(14C後)二九「自害を半(なかば)にしかけて、路の傍に伏たりけるを」
※天草版金句集(1593)「Xicaqeta(シカケタ) コトノ スマヌ ウチニ マタ ベチノ ムツカシイ コトガ アル」
※三四郎(1908)〈夏目漱石〉三「もう帰らうと思って挨拶をしかける所へ」