改訂新版 世界大百科事典 「ヒイラギ」の意味・わかりやすい解説
ヒイラギ
Osmanthus heterophyllus (G.Don) P.S.Green(=O.ilicifolius (Hassk.)Mouillef.
葉に鋭い鋸歯のあるモクセイ科の常緑小高木。節分に枝葉を戸口に挿して邪鬼の侵入を防ぐ民俗がある。台湾名は柊樹。高さ10m,径30cmに達し,樹皮は帯褐灰白色,円形の皮目がある。葉は十字対生し,楕円形で長さ3~7cm,若木では刺端に終わる大型の鋸歯を1~4対もつが,老木では全縁,質厚く光沢があり,裏に半透明の腺点が散布する。秋10~11月,当年枝の葉腋(ようえき)に数花ずつの散形花序をつけ,芳香がある。雄花と両性花が別株につき,花冠は白く4深裂し,おしべは2本。翌年7月楕円形で長さ12~15mmの紫黒色の核果ができる。福島県南東部から屋久島までと西表島(沖縄県)および台湾の暖帯に分布するが,九州と山陰ではきわめて限られる。カシ林の中などに生える。材は淡黄白色を呈し緻密(ちみつ)強靱なので,器具,楽器,印判,櫛(くし),将棋の駒,そろばん珠などに賞用される。暖地の庭園樹としてもよく,葉の形や斑入りの園芸品種も多い。同じモクセイ属のナタオレノキO.insularis Koidz.も材がひじょうに堅い。福井・山口・愛媛各県のごく一部と九州,沖縄(八重山諸島),小笠原諸島に産する。なお,クリスマスに飾るセイヨウヒイラギはモチノキ科の樹木で,果実が赤く葉が互生する。
執筆者:濱谷 稔夫
民俗
節分にイワシの頭をヒイラギに挿して戸口にかかげて魔よけとする風習は広い。このほか,こと八日,大晦日などの年の替り目や流行病がはやったときにも同じことをする。これらは,ヒイラギの葉のとげやイワシの悪臭で邪霊や疫病を防ごうとしたものであり,古く《土佐日記》元日の条にナヨシの頭とヒイラギをつけた家々のしめ縄のことが出てくる。またヒイラギを屋敷に植えると魔よけとなり流行病にかからないという所も多く,逆に富山県氷見市ではヒイラギが枯れると死者がでるという。ヒイラギは《延喜式》に卯杖(うづえ)の材料の一つとして挙げられているように,古くから強い生命力と魔よけの力をもつ常緑樹とされてきた。《想山著聞奇集》などによれば,京都下鴨の比良木社(下鴨神社の境内末社出雲井於(いずもいのうえ)神社)は〈柊(ひいらぎ)さん〉とも呼ばれ,疱瘡(ほうそう)の神で,願がかなったお礼に社頭に任意の木を植えておくと,いつの間にかヒイラギになってしまうと伝えている。このほか,ヒイラギに餅花をつけて神饌(しんせん)としたり,節分にヒイラギの葉の燃え方で一年の天気占いをする風習もあり,民間療法でもヒイラギは病気よけとして使われる。
執筆者:飯島 吉晴
ヒイラギ (柊)
Leiognathus nuchalis
スズキ目ヒイラギ科の海産魚で,発光器をもつことでよく知られている。本州中部以南の内湾でふつうに見られる。高知でニロギ,有明海でシバまたはシイラ,岡山でゲッケ,千葉でギラなど地方名も多い。また,三重県二木島でギイギイ,広島県旧賀茂郡でギギと呼ぶが,これは口部の骨を用い,摩擦音を出す習性があることによる。発光器は食道を環状にとり巻くもので,内部に発光バクテリアが共生し,これにより腹側から見たときぼんやりと明るく光る。全長15cmに達する。産卵期は5~7月で,直径約0.6mmの球形の浮性卵を産む。小型の定置網や釣りにより漁獲され,一部の地方では食用とし美味であるという。しかし,小骨がかたいとして多くの地方では食用にしない。また,近縁のオキヒイラギL.rivulatusは,やや沖合の深所にすむが,骨がやわらかいため,四国,関西などで干物として食べる地方が多い。
執筆者:望月 賢二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報