精選版 日本国語大辞典「で」の解説
で
[1] 〘格助〙 (格助詞「に」に「て」が付いて変化したもの) 平安時代中期に早く用例が現われ、末期以降盛んに用いられた。
① 場所・時間を示す。
※御堂関白記‐寛仁元年(1017)正月七日「右大臣宣命、以二右手一、此院では用レ左」
※歌舞伎・仏母摩耶山開帳(1693)一「銀子はあとで渡さう」
② 手段・方法・材料等を示す。
※輔親集(1038頃)「ある女の許より色々の錦を紙でふじて、かく書きておこせたり」
※平家(13C前)九「これまでのがれくるは、汝と一所で死なんとおもふため也」
③ 理由・根拠を示す。
※平家(13C前)五「奏聞しけれども、御遊の折節で聞こし召しも入れられず」
※歌舞伎・京雛形(1699)一「顔見せで忙しいに、何の用で来た」
④ 主格助詞によらないで、動作・状態の主体を示す。
※洒落本・遊子方言(1770)更の体「今におゐらんでお出なんす」
※洒落本・一事千金(1778)二「そっちでほれても、こっちでいやだ」
[2] 〘接助〙
※竹取(9C末‐10C初)「え起きあがり給はで、船そこにふし給へり」
※伊勢物語(10C前)二四「あひ思はで離れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる」
[二] ((一)③の用法から転じたもの) 原因・理由を表わす。…ので。近世に現われる。→語誌。
※浄瑠璃・心中二つ腹帯(1722)三「お暇が出たで去にまする」
[3] 〘終助〙 自分の発言内容を聞き手におしつける気持を表わす上方語。「ぜ」の変化したものといわれる。明治以後次第に優勢となり現在は「ぜ」を駆逐している。対等の間柄で用いるぞんざいな語。
※大内旅宿(1907)〈高浜虚子〉「お梅ドン此あとを早く掃除せんとあぶないで」
[語誌]格助詞「にて」の約音により格助詞「で」が発生したが、その種々の用法のうち、原因・理由を表わす場合、「で」の前の体言が省略されて活用語連体形を直接受けるようになって(二)(二)が生じた。この連体形接続は江戸時代に行なわれたが、後にはふたたび別の形式名詞「の」を省略位置に復活させた「ので」が現われ、これに取って代られた。
で
〘接続〙 (「そこで」「それで」などの「そこ」「それ」が略され、助詞「で」が自立語化したもの)
① 前の事柄を受け、その結果、あとの事柄が生ずることを示す。そこで。それで。
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉前「『君、ねえ、本当の事を言ひたまへよ』『で、もし本当なら如何(どう)する気だね』」
② 会話文で、話相手に対して次の話をうながす時に用いる。それで(どうした)。それから(どうなった)。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)四「『国はどこじゃ』『紀州でござんす』『ムム、紀州。で』『母様と三人出ました』」
で
(断定の助動詞「なり」の連用形「に」に助詞「て」の付いた「にて」の変化したもの) 後に、断定の助動詞「だ」の活用に組み込まれて、連用形として、連用中止形に用い、また、「ある」「ない」「あります」「ございます」などに続けて用いる。
※今昔(1120頃か)四「今の后は継母でぞ有りける」
※虎寛本狂言・末広がり(室町末‐近世初)「去ればこそ田舎者で、何をも存ぬ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報