鼠の浄土(読み)ねずみのじょうど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鼠の浄土」の意味・わかりやすい解説

鼠の浄土
ねずみのじょうど

昔話異郷を訪れて財宝を得ることを主題にした致富譚(ちふたん)の一つ。爺(じじ)が落とした団子が穴に転がり込む。追って穴に入るとネズミの国である。機(はた)を織りながら、ネコがいなければ世の中がよいと歌っている。爺は歓迎される。ネコの鳴きまねをするとネズミは逃げる。爺は宝物を持って帰る。隣の爺がまねをするが、さんざんなめにあう。「地蔵浄土」と基本形式が同一で、異郷をネズミの国とするところに特色がある。本来、一つの昔話から分化したものであろう。地下のネズミの世界の説話は、『古事記』の大国主命(おおくにぬしのみこと)の物語にもある。物語の表現も、団子が転がる場面、ネズミの歌、ネコの鳴きまねなど、技巧的で興味深い。

 動物の国を訪ね、財宝を得て帰り、まねをした人は失敗するという構想は、「舌切り雀(すずめ)」とも共通する。この類話の「猫の家」は、トルコを中心に、カフカスハンガリーギリシア、イタリアに分布している。親切な女はネコの家で贈り物をもらい、悪い女は蛇やサソリの入った袋をもらう。ネコがスズメにかわったのが「舌切り雀」である。「猫の家」は継娘(ままむすめ)と実の娘が主人公で、継子話になっている。「継子の栗(くり)拾い」はその形を継承して分化した話である。「鼠の浄土」は「猫の家」のネコとネズミが入れ替わった形である。これらは、ヨーロッパに広く分布する「親切と不親切」の系統に属する類型群である。「親切と不親切」は、継母が継子を井戸に突き落としたため、地下の国へ行く話になっており、親切な継娘はネコとスズメに助けられて、そこで1年間奉公し、褒美に宝石の入った箱をもらって帰るが、不親切な実の娘は火の入った箱をもらって焼け死ぬという話もある。「鼠の浄土」の発端は「地蔵浄土」と同じく、団子、握り飯など食物をネズミに与えることから始まるが、これはもともと、稲穂を手に入れ、それで食物をつくるという、日本の昔話の語り始めの形式の一つで、「語りの様式」とよぶべき部分である。類例は古く「かちかち山」の赤本『兎(うさぎ)大手柄』にあり、「猿蟹(さるかに)合戦」のカニの握り飯や、「舌切り雀」のスズメがなめた糊(のり)も、おそらくその名残(なごり)であろう。

[小島瓔

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