飲料工業(読み)いんりょうこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「飲料工業」の意味・わかりやすい解説

飲料工業 (いんりょうこうぎょう)

飲料はアルコール飲料と非アルコール飲料に大きく分類され,これらの製造業を飲料工業という。アルコール飲料すなわち類は清酒ビールウィスキーブドウ酒などがおもなもので,非アルコール飲料には炭酸飲料果実飲料,濃厚乳酸飲料などの清涼飲料のほか,コーヒー紅茶緑茶などが含まれ,その裾野は広い。

日本の酒税法では,アルコール分1度以上の飲料を酒類と定め,清酒,合成清酒焼酎(しようちゆう),みりん,ビール,果実酒類,ウィスキー類,スピリッツ類,リキュール類,雑酒の10種類に分けている。日本の酒類消費は,第2次大戦前はほとんどが清酒であったが,戦後は食生活の洋風化に伴い洋酒類の消費が活発となり,なかでもビールは急成長を示した。酒類消費量全体も,昭和30-40年代にかけて着実に伸びた。しかし1973年の第1次石油危機後は伸びが鈍化し,諸外国に比べ1人当り消費量はまだまだ少ないとはいえ,成熟期を迎えている。高度成長期の消費者の酒志向は高級化の一途をたどったが,低成長時代に入って,消費の伸び悩み,酒税の値上げから,下級志向もみられる。とくに清酒では,若者を中心とした清酒離れ,2級酒のシェア上昇がみられ,そのため,従来中小業者に限られていた2級酒製造に大手も踏み切っている。また夏場対策としての生酒製造など失地回復に懸命である。ビールは,その清涼感が人気を呼び,その課税移出数量は酒類の約70%を占め(1995年度),今や清酒に代わり日本の国民酒的地位についている。家庭用生ビール,ライトビールなどの新製品も続々と登場し,需要を刺激している。最近は消費者ニーズが多様化し,本格焼酎,トロピカルドリンクなども人気を呼び,また女性の飲酒ニーズも高まっている。さらに高級化の一途をたどっていたウィスキーも,下級志向と特級志向への分化傾向がみられる。

清涼飲料以外に,緑茶,紅茶,コーヒーなど数多くの飲料がある。清涼飲料は,自動販売機の普及と相まって伸びがめざましく,高度成長期のバロメーター的存在であった。なかでもコーラ飲料は,昭和30年代後半から40年代に需要を急拡大させ,清涼飲料消費の火付け役を果たした。ジュースなどの果実飲料は,炭酸飲料より歴史は古く,生産量は伸びたものの,シェアは炭酸飲料にくわれる形となった。しかし,昭和40年代後半からは消費者の本物志向や健康意識の高揚が,天然果汁を中心とする果実飲料に刺激を与え,1981年ころからは果粒入り(いわゆる〈粒入り〉)果実飲料が代わって伸びている。しかし本格的主役はこのところなくなり,消費者ニーズの多様化から多品種少量生産を強いられ,業界にとって頭の痛い問題となっている。そのほか,近年健康志向から,高度成長期にめざましく伸びた栄養ドリンクのほかスポーツ飲料が人気を呼び,成長市場をめぐって参入が続いている。

 茶類のうち緑茶は,日本人の和風食系適応の飲料として,伝統的で土着化している。農業一次生産物の生葉を農産加工的に一次加工,さらに二次加工されて流通過程に入り,この過程で各産地の茶をブレンド操作し,問屋・小売段階で銘柄がつけられ,消費市場へと流通する。紅茶は,コーヒーなどとともに洋風系適応の飲料として近代に普及したものである。1971年に貿易が自由化されて以来もっぱら輸入依存となり,製品または原料茶を輸入し,ブレンドとパッカーが紅茶食品工業を形成している。コーヒーは,その全部が製品または生豆の輸入であり,レギュラーとインスタントに分類され,これもブレンドとパッカー工業的性格をもっている。これらの需要動向は,緑茶と紅茶が頭打ちないし落込みの生産を価格効果による維持でカバーしているのに対し,コーヒーは,量的にも増加をみせ,レギュラーの比重が高まるとともにインスタントではフリーズドライ製法の製品が伸びており,高級化志向を一段と高めている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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