重症複合免疫不全症(読み)じゅうしょうふくごうめんえきふぜんしょう

六訂版 家庭医学大全科 「重症複合免疫不全症」の解説

重症複合免疫不全症
じゅうしょうふくごうめんえきふぜんしょう
Severe combined immunodeficiency (SCID)
(子どもの病気)

どんな病気か

 Tリンパ球とBリンパ球の両方に先天的な欠陥がある病気で、重症細菌性、ウイルス性その他の感染症を繰り返し、致死的な感染症のため血液幹細胞(かんさいぼう)移植や遺伝子治療によって免疫機能が再建されなければ、大多数の患者さんが生後1歳前後までに死亡します。

原因は何か

 X(染色体)連鎖型(れんさがた)、あるいは常染色体劣性型(じょうせんしょくたいれっせいがた)による遺伝子変異により、リンパ球減少や低γ(ガンマ)­グロブリン血症を来し、重症の細胞性免疫能の欠陥と特異抗体の欠乏症を示すことが原因です。

症状の現れ方

 生後まもなくより反復する細菌、ウイルスによる気道感染、皮膚・口腔粘膜のカンジダ症肺炎膿胸(のうきょう)敗血症(はいけつしょう)間質性(かんしつせい)肺炎などの()感染性(感染しやすい)を特徴とし、生後5カ月ころから難治性下痢症による体重増加不良が顕著になります。

検査と診断

 免疫学的所見として、末梢血リンパ球数は減ります。血清免疫グロブリンはすべてのクラスが欠乏します。時には低値ながらも認められることもありますが、抗原に特異的な抗体は完全に欠如します。遅延型過敏反応、細胞障害反応などのT細胞機能も欠如します。

治療の方法

 組織適合抗原HLA)が一致した同胞からの血液幹細胞移植によって、約90%が免疫機構を再建し直すことができるとされています。また、一部疾患では遺伝子治療の成功例が報告されています。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「重症複合免疫不全症」の解説

重症複合免疫不全症(原発性免疫不全症候群)

(1)重症複合免疫不全症(severe combined immune deficiency:SCID)
概念・病因
 T細胞数の減少とヘルパーT細胞機能の低下による免疫グロブリン産生不全を特徴とする.約半数がX染色体上にあるγc鎖の遺伝子異常による.常染色体劣性遺伝のJAK3,IL-7Rα,RAG1,RAG2,Artemisなど15種以上の原因遺伝子が見いだされている.
臨床症状
 生後まもなく日和見感染症を含む各種の感染症に反復罹患,重症化する.原因不明の体重増加不良(failure to thrive),難治性下痢,重症の鵞口瘡をしばしば認める.ニューモシスチス肺炎サイトメガロウイルスによる間質性肺炎や麻疹ウイルスによる巨細胞性肺炎が重篤化する.
検査成績
 T細胞数の減少,リンパ球増殖反応の低下,免疫グロブリンの低値を認める.γc鎖,JAK3の遺伝子異常ではT細胞とNK細胞が欠損し,B細胞数は正常だが,RAG1/2の異常ではT細胞とB細胞が減少するがNK細胞数は正常である.IL-7Rαの異常ではT細胞のみ欠損する.
診断
 出生直後よりの高度の易感染性,検査上細胞性免疫と液性免疫の両者の異常が認められる場合に疑う.末梢血のリンパ球分画で病因を推定し,遺伝子検査で確定診断する.最近,胸腺から出てきたばかりのT細胞に存在するTREC(T cell receptor excision circle)を使った新生児マススクリーニングが米国で開始されている.
合併症
 輸血中にT細胞の混入があると移植片対宿主反応(GVHD)が起こり致命的になることがある.輸血への放射線照射で予防する.
予後
 造血幹細胞移植による免疫再建が行われない場合,そのほとんどが1歳までに不幸な転機を取る.早期発見し早期に造血幹細胞移植を行えれば,予後を大幅に改善できるので,早期確定診断の重要性が高い.
治療
 早期の造血幹細胞移植が必要である.遺伝子治療の成功例がある.[峯岸克行]
■文献
Notarangelo LD, Fischer A, et al: Primary immunodeficiencies: 2009 update. J Allergy Clin Immunol, 124: 1161-1178, 2009.
Ochs HD, Smith CIE, et al: Primary Immunodeficiency Diseases, 2nd ed, Oxford University Press, New York, 2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報