ニューモシスチス肺炎(読み)ニューモシスチスハイエン

デジタル大辞泉 「ニューモシスチス肺炎」の意味・読み・例文・類語

ニューモシスチス‐はいえん【ニューモシスチス肺炎】

ニューモシスチス‐ジロベチという真菌によって引き起こされる肺炎エイズがん末期など免疫機能が低下している場合に、日和見ひよりみ感染により発症する。PCP(Pneumocystis pneumonia)。
[補説]以前はカリニ肺炎と呼ばれていたが、ヒトで肺炎を起こすニューモシスチス属の菌は、ラットなどの動物から分離されるニューモシスチス‐カリニとは別種であることが判明し、ヒト型はニューモシスチス‐ジロベチと命名されたため、疾病名称もニューモシスチス肺炎に変更された。

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内科学 第10版 「ニューモシスチス肺炎」の解説

ニューモシスチス肺炎(真菌症)

概念
 Pneumocystis jiroveciによる感染症であり,日和見感染症の1つとして,HIV感染症などの免疫不全患者にニューモシスチス肺炎(Pneumocystis jiroveci pneumonia:PCP)を発症する.
病因
 ニューモシスチス肺炎はP. jiroveciによって発症する日和見感染症である.P. jiroveciは,病変組織の中では囊子あるいは栄養体として観察される.その形態により以前は原虫と考えられていたが,遺伝子解析などによって現在は真菌に分類されている.
 幼少期に多くのヒトが初感染していることがわかっており,潜伏感染から免疫不全によって再燃し発症する場合と,免疫不全状態が進行した患者への新規再感染が考えられるが,現在は後者の方が多いといわれている.詳細な感染経路は不明であるが飛沫感染による伝播も指摘されている.
疫学
 免疫不全に伴って発症する日和見感染症であるため,HIV感染症や血液疾患,あるいは免疫抑制薬を使用している移植患者,抗癌薬や副腎皮質ステロイド薬投与などの医原性の免疫不全が背景にあることがほとんどである.特にAIDSが最初に報告された1981年からは,HIV感染症がニューモシスチス肺炎を発症する代表的な基礎疾患となり,AIDS指標疾患の中でも最も多くみられるようになっている.
病態生理
 原因微生物であるP. jiroveciは肺胞のI型上皮に定着し,免疫不全の進行により発症すると肺胞腔内に泡沫状の浸出物が認められ,さらに重症化するに従い硝子膜の形成,肺胞上皮の腫大や胞隔の肥厚が起こり,間質の増殖と線維化が進行する.
臨床症状
1)自覚症状:
非HIV感染者では急性の経過をとりやすいが,HIV感染者では比較的亜急性に進行し,労作時息切れ,呼吸困難が増悪していくことが多い.発熱,乾性咳を伴うことが多く,軽症では安静時には症状を認めないこともある.
2)他覚症状:
進行に従い労作時の頻呼吸,頻脈などを伴うようになる.胸部の聴診においてラ音などが聴取されることは少ない.
検査成績
 病状の悪化に伴い低酸素血症が進行し,PaO2の低下とA-aDO2の拡大を認める.
 血液検査では,ほとんどの例でLDHの上昇とβ-dグルカンの上昇がみられるが,病状の割にWBCやCRPなどの炎症所見の数値の上昇は軽度であることが多い.
 胸部X線像では,肺門部から両側に広がるびまん性のすりガラス陰影が特徴であるが(図4-14-7),進行するにしたがい浸潤影も伴うようになる.胸部CTでは,地図状分布のすりガラス陰影を示すことが多く,早期には胸膜直下に病変が及んでいないという所見もよく認められる(図4-14-8).また,約10%に囊胞を形成し,気胸を合併することもある.ガリウムシンチグラフィでは,早期から肺野の集積像を認める.
診断
 気管支鏡による生検組織や肺胞洗浄液,あるいは誘発喀痰によりP. jiroveciを病理学的に診断する.病原体は,Giemsa染色,Diff-Quik染色,Grocott染色などの染色法で同定することができる.またPCR法による遺伝子検査も行われており,補助診断として利用されるようになっている.
治療・予防
 ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール,trimethoprim-sulfamethoxazole)が治療の第一選択である.AIDS患者では高率に発熱・発疹,骨髄抑制,肝障害,腎障害などの副作用を認めるが,この場合にはペンタミジンかアトバコンへの変更が可能である.アトバコンは副作用の少ないことが利点であるが,効果はST合剤やペンタミジンに劣る.治療期間は,AIDS患者の場合には21日間,それ以外では14日間の投与が基本となっている.また,AIDS患者においては重症例(PaO2<70 mmHgかA-aDO2>35 mmHg)での副腎皮質ステロイド併用が推奨されている.
 HIV感染者においては,CD4細胞数<200/μLでST合剤などによるニューモシスチス肺炎の一次予防を開始することがすすめられている.HIV感染者以外でも,長期の副腎皮質ステロイド薬投与や高度の細胞性免疫不全状態では予防投与開始を考慮する.[今村顕史]
■文献
Guidelines for prevention and treatment of opportunistic infections in HIV-infected adults and adolescents. MMWR, 58 RR-4:6-10, 2009.

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六訂版 家庭医学大全科 「ニューモシスチス肺炎」の解説

ニューモシスチス肺炎
ニューモシスチスはいえん
Pneumocystis pneumonia
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 ニューモシスチスは真菌の一種で、ヒトの細胞性免疫が低下状態になった時に、両側性びまん性間質性肺炎として発症します。とくに、抗がん薬治療や副腎皮質ステロイド療法を受けている患者さん、自己免疫疾患、臓器移植、エイズ、先天性免疫不全の患者さんに合併して発症します。

どのように感染するか

 ニューモシスチスは、ヒトの肺に潜在的に寄生していますが、免疫の低下により顕性化し、肺胞内に充満するように増殖します。このため酸素がうまく血液中に取り込めず、低酸素血症が起こってきます。増殖にはⅠ型肺胞上皮細胞の存在が必要とされ、肺以外の病変は極めてまれです。

症状の現れ方

 空咳(からせき)で始まり、やがて呼吸困難、発熱、低酸素血症へと進展しますが、早い時期から呼吸困難が強いことが特徴です。また、免疫応答がほとんど生じないため、肺胞内の液体成分に乏しく、痰が出にくいのが特徴です。

 HIV(エイズウイルス)に感染している患者さんとそうでない患者さん(非HIV)では進行速度に差があり、前者では比較的ゆっくりと進行するのに対し、後者では数日の経過で急速に進行します。

検査と診断

 図19に検査と診断のフローチャートを示しました。血液検査では、二酸化炭素の上昇を伴わない低酸素血症、LDH上昇、β(ベータ)­D­グルカンの高値などが診断的価値の高い指標です。胸部CTでは肺胞中心性の肺野濃度上昇がびまん性にみられますが、区域によって濃淡のある地図状分布を示すことが多く、気腫性(きしゅせい)変化もよく認められます。

 確定診断は、喀痰(かくたん)、気管支肺胞洗浄液あるいは経気管支的肺生検の材料から染色で菌体の証明、あるいは遺伝子診断で決定されます。

治療の方法

 主な治療薬は、ST(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)合剤とペンタミジンです(図19)。治療薬の選択は、基礎疾患や骨髄・肝腎機能にもよりますが、ST合剤が最も有効であり第一選択薬です。ST合剤には経口と経静脈の2つの投与ルートがありますが、注射薬は溶解度の点から多量の水負荷が必要であり、経口投与でも十分な体内移行が得られるため、経口投与が望ましいとされています。

 治療期間は3週間が標準です。そのほか、初期からの副腎皮質ステロイドホルモン薬の併用は、予後を改善することが明らかとなっています。

宮下 修行


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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