通小町(読み)カヨイコマチ

デジタル大辞泉 「通小町」の意味・読み・例文・類語

かよいこまち〔かよひこまち〕【通小町】

謡曲四番目物古作観阿弥改作。百夜通いのすえに、精根尽きた深草少将の霊が死後小野小町の霊を追うが、僧の回向えこう成仏する。

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精選版 日本国語大辞典 「通小町」の意味・読み・例文・類語

かよいこまち かよひこまち【通小町】

謡曲。四番目物。各流。観阿彌改作。古名四位少将」。小野小町に思いをかけて死んだ深草少将の百夜通(ももよがよい)を描く。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「通小町」の意味・わかりやすい解説

通小町
かよいこまち

能の曲目。四番目物。五流現行曲。観阿弥(かんあみ)が古作を改作したもの。古名『四位少将(しいのしょうしょう)』。「四位の少将は、根本(こんぼん)、山徒(さんと)に唱導の有しが書きて、今春権の守(こんぱるごんのかみ)多武嶺(たうのみね)にてせしを、後書き直されしと也(なり)」と『申楽(さるがく)談儀』に記し、観阿弥作としてあげてある。あの世まで持ち込まれた男の執念と、それから逃れて成仏しようとする女を描いた深刻な能。山城(やましろ)国(京都府)八瀬(やせ)の山里の僧(ワキ)に毎日木の実を捧(ささ)げ、回向(えこう)を願って消える女(ツレ)は、小野小町の亡霊であった。僧の弔いに女は成仏への道を喜ぶが、深草の少将の亡霊(シテ)はそれを妨げようと現れ、「煩悩の犬となって打たるると離れじ」とその袖(そで)にすがる。小町の与えた百夜(ももよ)通いの試練。最後の夜のときめきと、突然の死が再現され、一転して2人に成仏が訪れて終わる。ツレは姥(うば)の姿で前段を演じ、中入して若い扮装(ふんそう)で再登場するのが本来の形であるが、若い姿のまま前後を演ずる略式演出が普通となっている。

増田正造

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改訂新版 世界大百科事典 「通小町」の意味・わかりやすい解説

通小町 (かよいこまち)

能の曲名四番目物観阿弥作。世阿弥が部分的に手を加えている。シテは四位少将(しいのしようしよう)の霊。八瀬の里に住む僧(ワキ)の所に,毎日木の実や薪を届ける女(ツレ)がいる。ある日,名を尋ねると,市原野に住む者と答えて消える。僧が市原野に出向いて弔うと,小野小町の霊(ツレ)が現れて弔いを喜ぶが,そのあとを追って,やつれ果てた面ざしの四位少将の霊(シテ)が現れ,小町を引き留めてその成仏を妨げる。少将は,生前小町に恋をして百夜通ったが,ついに思いを果たせず,死後も地獄で苦しんでいるのだった。少将の霊はそのことをこまごまと物語り,恨みを述べるが,僧の弔いで成仏する。自由かつ大胆な構成で恋の執念をみごとに描いている。まだ形式が固定する前の初期の能の良さが見られる。
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百科事典マイペディア 「通小町」の意味・わかりやすい解説

通小町【かよいこまち】

能の曲目。観阿弥作。古くは《四位少将》とも。四番目物,執心物。五流現行。小野小町のもとに百夜通(ももよがよい)の果てに深草少将は死に,その死後にまで残る恋の執念をのがれて小町は成仏しようとする。自由な構成をとりながら簡潔で力強い作品。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「通小町」の解説

通小町
(通称)
かよいこまち

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
寛濶通小町
初演
宝永4.11(江戸・森田座)

通小町
かよいこまち

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
正徳1.夏(江戸・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の通小町の言及

【小野小町】より

…《草子洗小町》は,歌人としての名を傷つけられた小町が,大伴(友)黒主が書き入れをした草子を洗ってその奸計を暴露し,自分の名誉を守るとともに黒主に対しても寛仁の態度をとったという筋で,小町をたたえたもの。《通(かよい)小町》は,小町に恋した深草少将が,100夜通えば望みをかなえてやるという小町のことばを信じて,通いつめた99夜目にはかなくなったという話で,美女の薄情・驕慢な性格を描いている。《卒都婆小町》は,朽ちた卒都婆に腰かけた乞食の老女が仏道に入る話であるが,その老女は深草少将の霊にとりつかれた小町のなれの果てであったという筋。…

【夢幻能】より

…なお,世阿弥の代表的夢幻能には次のような諸曲がある(改作も含む)。初番目物《高砂》《弓八幡(ゆみやわた)》《老松(おいまつ)》《箱崎》《鵜羽(うのは)》(末2曲の女体神能は廃曲),二番目物《実盛》《忠度》《頼政》《敦盛》,三番目物《井筒》《檜垣(ひがき)》《江口》《松風》,四番目物《通小町(かよいこまち)》《舟橋》,五番目物《鵺(ぬえ)》《野守(のもり)》《山姥(やまんば)》《融(とおる)》。 いずれも定型的脚本様式を踏まえながら,素材や主題に応じた変化がみられ,主題,文辞ともに完成度の高い傑作ぞろいである。…

※「通小町」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」