転位(結晶体の格子欠陥)(読み)てんい(英語表記)dislocation

翻訳|dislocation

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

転位(結晶体の格子欠陥)
てんい
dislocation

結晶体の中に含まれる線状の格子欠陥一種転位線ともよばれる。エネルギー的には不安定な欠陥であるが、力学的には安定な配列をとりうる。転位線は力が加えられれば特定の結晶面に沿ってかなり容易に移動できる。転位線の通過後には結晶格子の相対的なずれを生じる。1本の転位によって生じるこのずれの量(バーガーズ・ベクトル、中のb)は原子の直径程度である。ずれの方向(格子の乱れ方)には2種類あり、ずれが転位線に垂直となる転位を刃状(「じんじょう」あるいは「はじょう」)転位、ずれが転位線に平行となる転位を螺旋(らせん)転位とよんでいる(参照)。

 転位線は、物質が液相(溶融状態)から凝固して固体(結晶)になる際や、その後の室温までの冷却中に結晶内に発生し、転位を含まない結晶(材料)をつくることはきわめてむずかしい。転位は外部から力を加えることによっても発生あるいは増殖する。通常の材料中には1辺が1ミリメートルの立方体当り合計1000メートルを超えるきわめて多量の転位が含まれている。

 金属材料や無機材料(セラミックスなど)の塑性変形(普通に認められる形の変化)は多数の転位が結晶中を移動することによって生じている。これら材料の機械的性質(強さや硬さなど)は、その中に含まれている転位の数(転位密度)やその移動の難易易動度)によって支配されている。また、転位は半導体などの電気的性質や金属耐食性などにも大きな影響を与える場合が多い。

[及川 洪]


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