被・蒙(読み)こうぶる

精選版 日本国語大辞典 「被・蒙」の意味・読み・例文・類語

こうぶ・る かうぶる【被・蒙】

〘他ラ四〙 (「かがふる」の変化した語)
書紀(720)大化三年是歳(北野本訓)「此の冠どもは、〈略〉四月・七月の斎(ほかみ)の時に着(カウフル)所なり」
※守護国界主陀羅尼経巻八平安初期点(900頃)「大甲冑を被(カウフラ)く」
※書紀(720)神武即位前己未年三月(北野本訓)「頼以皇天之威(あめのかみのみいきほひをカウフリ)て凶就(あた)就戮(ころされぬ)
※土左(935頃)承平五年一月三〇日「かみほとけのめぐみかうぶれるに似たり」
平家(13C前)一二「天下に疵(きず)を蒙(カウブ)(高良本ルビ)るものたえず」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉三「汝若し我を食はば、忽ちばつをかうぶる可し」
※名語記(1275)六「さをば五月にかうぶらしめつ」
⑤ (酒を)大いに飲む。
※思ひ出す事など(1910‐11)〈夏目漱石〉一八「宵に、酒を被(カウブ)った勢で」
[語誌](1)上代の「かがふる」が変化して中古以降用いられた語であるが、仮名文献では②の神仏や上位者から行為恩恵を受ける意の例が見られるのみで、①の頭や体を何かでおおう意の例はなく、その意は「かづく」が表わしていた。一方、訓点資料では①②ともに使用例が見られる。
(2)③の傷などを身に受ける例は中世以降である。→「こうむる(被)」の語誌

こうむ・る かうむる【被・蒙】

〘他ラ五(四)〙 (「こうぶる(被)」の変化した語)
① 頭から衣服、帽子などをかぶる。身体や頭をおおう。かぶる。
※玉塵抄(1563)一七「かうべにかうむってかづいたか鶡冠と云て」
② 神仏や目上の人から、ある行為や恩恵などを受ける。いただく。相手に対する敬意をこめて用いる。「御免をこうむる」
※九冊本宝物集(1179頃)四「後生に三宝のあはれみをもかうむらんと思ひて」
きず災禍、罪など好ましくないものを身に受ける。また、負担をしょいこむ。
愚管抄(1220)四「友実といふ禰宜きずをかふむりなんどしたりければ」
④ (冠) ある字やことばなどを他のことばや名前のはじめにつける。冠する。
※鑑草(1647)陰「陰の二字あるを採て篇首に弁(カウム)らしむ」
[語誌](1)「かがふる」から変化した語に、「こうぶる(こうむる)」と「かぶる(かむる)」があるが、中古に生じた「こうぶる」に加え、中世以降「こうむる」が用いられるようになる。
(2)頭部などを何かでおおう意では、漢文訓読文の場合、主に「こうぶる」「かぶる」が、和文脈では主に「かずく」が用いられた。
(3)「こうぶる」「こうむる」は、上位者からの行為や恩恵を受ける、もしくは、傷を身に受ける例を中心に使用される語として定着し、「かぶる」「かむる」との意味分化が意識されていたと考えられる。→「こうぶる(被)」の語誌

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