芦刈(叙事伝説)(読み)あしかり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「芦刈(叙事伝説)」の意味・わかりやすい解説

芦刈(叙事伝説)
あしかり

叙事伝説。摂津国(大阪府)難波(なにわ)に住む夫婦が貧困のため別れて、女は上洛(じょうらく)後に主人に仕え、北の方の死後後妻となる。しかし昔の夫が忘れられず、難波へ祓(はらい)の口実で赴くが、すでに行方不明であった。たまたまもとの家の近くで芦を担う乞食(こじき)が通ったので呼び止めると、前夫であった。哀れを催し芦を高く買い、食物を与える。前夫は下簾(したすだれ)の間からかいまみて、その貴人がかつての妻とわかり、恥じて竈(かまど)の後ろに隠れる。捜させると、男は「君なくてあしかりけりと思ふにもいとど難波の浦ぞ住みうき」と詠んだので、女は「あしからじとてこそ人の別れけめなにか難波の浦の住みうき」と返して、着物を与えさせた。有名な和歌説話でもあり、もっとも古い文献では『大和(やまと)物語』148段にある。

 そのほかに、『古今和歌六帖(こきんわかろくじょう)』、『拾遺(しゅうい)和歌集』、『今昔物語集』巻30の15、『宝物集』巻2、『源平盛衰記』巻36にみえ、謡曲芦刈』にもなり、御伽草子(おとぎぞうし)『ちくさ』にもある。『神道集』巻7の42の「芦刈明神事(あしかりみょうじんのこと)」はその本地譚(ほんちたん)で、同巻8の46「釜(かま)神事」とともに竈神(かまどがみ)の由来を語る話としてあったものであろう。その本地譚は、男が恥じて海に投身すると女も後を追う結末から、その後2人が海神の力で顕現したのが芦刈明神で、本地は男が文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、女は如意輪観音(にょいりんかんのん)としてある。炭焼長者の再婚型で、福分(ふくぶ)のある女と別れた夫が死して、女に竈の後ろに埋められる話もこの類型で、夫を荒神様として祀(まつ)る昔話が多い。

[渡邊昭五]

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