立憲主義(読み)りっけんしゅぎ(英語表記)constitutionalism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義
りっけんしゅぎ
constitutionalism

政治権力の専制化や政治恣意(しい)的支配憲法や法律あるいは民主的な政治制度の確立などによって防止・制限・抑制しようとする思想原理。立憲主義の起源は、古くは13世紀ごろのイギリスにおいて、「国王も官吏も神の法、自然法、この国の慣習法によって政治を行うべし」と主張する中世的な「法の支配」観念のなかにみられる。さらにこの思想は、イギリスにおいては、13世紀末から17世紀末にかけて議会の地位・権限が拡大・強化されるなかで、人権と自由を確保するためには、議会の制定した法律(制定法)に従って統治すべしという考えに発展し、ここに近代的な「法の支配」観念と議会尊重の思想とが結び付き近代的な立憲主義が形成された。フランス人権宣言第16条における「権利の保障が確保されず、権力分立が定められていない、すべての社会は、憲法を有しない」という規定は、前述した民主的な立憲主義の思想を簡潔に表現したものといえよう。この点からいえば、プロシア憲法下のドイツや、大日本帝国憲法下の日本の政治は、立憲主義の名に値しない非近代的な政治形態であったといえる(外見的立憲主義)。第二次世界大戦後の日本では、憲法によって、憲法の最高法規性(98条)、またそれを確保するための違憲立法審査権(81条)が規定され、さらに国会が国権の最高機関(41条)と定められたので、イギリスやフランスのような立憲主義が確立された。

[田中 浩]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義
りっけんしゅぎ
constitutionalism

法の支配 rule of the lawに類似した意味を持ち,およそ権力保持者の恣意によってではなく,法に従って権力が行使されるべきであるという政治原則をいう。狭義においては,特に政治権力を複数の権力保持者に分有せしめ,その相互的抑制作用を通じて権力の濫用を防止し,もって権力名宛人の利益を守り,政治体系保全をはかろうとする政治原則である。狭義における立憲主義はすでに古代ギリシア・ローマ,あるいは中世ヨーロッパの一定の都市国家などに見出されるが,近代市民革命を経て近代立憲主義に変貌した。そこでは国民の一定の範囲における国政参加を前提に,権力分立構造を通じて国民個々人の権利,自由の保全をはかろうとする意図が明確にされ,それを具現する成文憲法を制定することが肝要であると考えられるようになった。立憲主義に立脚する民主制が立憲民主制であり,君主制と結合している場合が立憲君主制である。

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百科事典マイペディア 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

立憲主義【りっけんしゅぎ】

広義には政治権力を法(憲法)によって規制しようという政治原則。狭義には近代市民国家におけるような権力分立の原則に立つ憲法に基づいて政治を行うという原則。権力分立が形式的にのみ認められている場合は外見的立憲主義(外見的立憲制)といわれる。

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デジタル大辞泉 「立憲主義」の意味・読み・例文・類語

りっけん‐しゅぎ【立憲主義】

憲法によって支配者の恣意しい的な権力を制限しようとする思想および制度。

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世界大百科事典 第2版 「立憲主義」の意味・わかりやすい解説

りっけんしゅぎ【立憲主義 constitutionalism】

政治権力の恣意的支配に対抗し,権力を制限しようとする原理をさす。1789年のフランス人権宣言16条〈権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていないすべての社会は,憲法を有しない〉は,その簡潔で端的な定式化として知られている。立憲主義は,中世封建制社会で,身分的自由と身分制議会というかたちで存在したし,そのような中世立憲主義は,市民革命期以後の近代立憲主義の成立・発展にとって,しばしば大きな役割を演じた(とくに,イギリスにおけるマグナ・カルタと議会制の伝統)。

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世界大百科事典内の立憲主義の言及

【国家】より

…また,国家権力の行使を委託された人々は,しばしば自己の私的利益のために国家権力を濫用するおそれがある。こうしたことのために,自由と権力の対抗関係において自由を確保するには,権力を制限しなければならないとする自由主義や,権力者の恣意的統治に代えて,あらかじめ定立された規則に基づく統治を推し進めようとする立憲主義が高い説得性をもつことになる。多くの近代国家において,憲法が制定され,権力分立制や地方分権制が制度化されているのも,国家権力の濫用あるいは恣意的な権力の行使を抑制しようとするものであるといえよう。…

【国家緊急権】より

…戦争,内乱,天災地変等の緊急事態にあたって,通常の統治体制ではそれに対処できないとして,国家と憲法の存立を維持するため行使される特別の権力。国家緊急権の発動によって,通常,権力の集中と立憲主義(憲法による権力の拘束)の一時的停止が行われる。そのため,人権に対して特別の制限が課されることが多い。…

※「立憲主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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