祇王(読み)ギオウ

デジタル大辞泉 「祇王」の意味・読み・例文・類語

ぎおう〔ギワウ〕【祇王/妓王】

平家物語に登場する人物京都白拍子平清盛寵愛ちょうあいを受けたが、のち、自分の推挙した仏御前にその寵が移ったため、母・妹とともに尼となり、嵯峨さが往生院に隠棲した。
謡曲三番目物宝生金剛喜多流。喜多流では「二人ふたり祇王」。平清盛をめぐる白拍子の祇王と仏御前の葛藤かっとうを描く。

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改訂新版 世界大百科事典 「祇王」の意味・わかりやすい解説

祇王 (ぎおう)

(1)平曲の曲名。平物(ひらもの)。フシ物。平清盛はわがままいっぱいに暮らしており,その最愛の白拍子に祇王という女があった。白拍子の始まりは,鳥羽院のころの島の千歳と和歌の前の2人で,水干に烏帽子(えぼし)を着けて太刀を帯びて舞い,男舞と呼ばれていた(〈中音(ちゆうおん)〉)。祇王は遊び女たちのうらやみの的だったが,仏御前(ほとけごぜん)という若い白拍子が,自分も一度はというので清盛邸に推参した。祇王の取りなしで清盛の前へ出た仏御前は,〈君を始めて見る折は,千代も経ぬべし姫小松……〉という今様をみごとに歌って人々を感動させた(〈三重〉)。清盛の心は仏御前に移り,祇王は退けられたので,障子に和歌一首を残して涙ながらに邸を出た(〈折声・サシ声・中音〉)。翌春,祇王が清盛に召されたのは,仏御前の退屈しのぎのためだった。祇王が〈仏ももとは凡夫なり……〉という今様を歌ったので,皆涙を流した(〈三重〉)。ほどなく祇王は21歳の若さで尼になり,嵯峨山里に引きこもった。ある夜戸をたたく音に開けて見ると,意外にも仏御前が立っていた(〈三重・初重・中音〉)。仏は,祇王の書置に胸を打たれて清盛に退出を願ったが,許されないので抜け出して来たと言って被衣(かずき)を脱ぐと,尼になっているのだった。その後仏と祇王はいっしょに念仏を事とし,ともに極楽往生を遂げたという。平曲の中でもっとも長文の曲の一つで,三重・中音などが聞きどころ。

(2)能の曲名。喜多流は《二人祇王(ににんぎおう)》と称する。三番目物鬘物(かつらもの)。作者不明。シテは仏御前。瀬尾太郎(せのおのたろう)(ワキ)が祇王(ツレ)のもとに来て清盛の言葉を伝える。祇王の取りなしで清盛が仏御前の舞を見る気になったというのである。2人は舞の装束を整え,曲舞(くせまい)を相舞(あいまい)に舞う(〈クセ〉)。仏御前に心が移った清盛から,今度は仏ひとりで舞えと命じられ,やむをえずそれに従うが(〈破ノ舞〉),仏は祇王に2人の友情に変りはないと告げるのだった。相舞の舞グセが中心で,その前にやはり相舞の中(ちゆう)ノ舞を添える演出もある。同じ物語夢幻能に仕立てたものに《仏原(ほとけのはら)》がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「祇王」の意味・わかりやすい解説

祇王
ぎおう

滋賀県中南部、野洲市(やすし)上屋(かみや)周辺の地域。旧義王村。平清盛(きよもり)の寵愛(ちょうあい)を集めた白拍子(しらびょうし)祇王、祇女の生地と伝えられる。この地はもと水利が悪かったが、祇王が清盛に願って用水路が掘削されたという伝説がある。その遺徳をしのんで江部という地名を祇王と改め、水路も祇王井川と称したという。祇王の木像と祇王、祇女の塔という2基の古石塔のある妓王寺がある。

[高橋誠一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祇王」の意味・わかりやすい解説

祇王
ぎおう

妓王,義王とも書く。『平家物語』巻一に出る白拍子。平清盛の寵を受け栄えるが,清盛が仏御前に心を移したため,妹祇女,母とともに尼になって嵯峨に住む。やがて仏御前も尼になり,4人一緒に仏道修行に努め,極楽往生する。謡曲や室町時代の物語に同名の作がある。

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世界大百科事典(旧版)内の祇王の言及

【祇王寺】より

…山号は高松山。《平家物語》によると,仏御前(ほとけごぜん)に清盛の寵愛を奪われた白拍子の祇王は,嵯峨に庵を結んで尼となった。当寺は小倉山の東麓,二尊院の北,祇王の庵があったという場所にあり,法然の高弟念仏房が開いた往生院の故地にも当たる。…

※「祇王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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