さん‐じゅう ‥ヂュウ【三重】
〘名〙
[一] 物、事柄などが三つかさなっていること。三段階になっていること。また、そのもの。みかさね。
みえ。三層。三段。「三重の衝突」「三重の苦しみ」
※続日本紀‐宝亀元年(770)四月戊午「発二弘願一、令レ造二三重小塔一百万基一」
※ささめごと(1463‐64頃)下「心を二重三重になせにはあらずと書給へり」
[二] 音の高さや、奏法にいう語。
① 仏教音楽の
声明(しょうみょう)で、
音域を三つにわけた最高の高さの音域。初重、二重、三重と高くなる。
② 平家
琵琶の曲節の一つ。美しく詠嘆的なところに用い、速度はもっとも遅く、音域はもっとも高い。平曲中の聞かせどころとなる。三重のもっとも高い部分を三重の甲
(かん)という。
※太平記(14C後)二一「真都(しんいち)三重(ヂウ)の甲を上れば、覚一初重の乙に収(をさめ)て歌ひすましたりければ」
③
三味線楽の
旋律型の一つ。
浄瑠璃や
長唄などで、一曲の最初や最後、または、場面の変わり目などに用いる。
義太夫節には、大
(おお)三重、キオイ三重、引取三重など、種類が多い。本来は高い音域の部分という意味からの名称。
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「すごすご帰る有様は 目も当て、られぬ 三重」
④ 歌舞伎の下座音楽で用いる効果音楽としての三味線。唄は伴わない三味線曲で、まれに鳴物を伴う。曾我の対面の場に使う「対面三重」など。
※歌舞伎・時桔梗出世請状(1808)二幕「『おのれ化け物、いづくまでも』と三重(さんヂウ)になり、新左衛門追ひ駈けて向うへ入る」
み‐え ‥へ【三重】
[1] 〘名〙
① 三つ重なっていること。また、その重なっているもの。
※
古事記(712)中「玉の緒を腐して、三重に手に纏かし」
※
万葉(8C後)一三・三二七三「二つなき恋をしすれば常の帯を三重
(みへ)結ぶべく
我が身はなりぬ」
[2]
[一]
三重県北部の郡名。明治二九年(
一八九六)の郡統合以前には、三重・
朝明(あさけ)の二郡に分かれていた。
みつ‐がさね【三重】
〘名〙 杯・重箱・衣服などで、三つ重ねて一組としたもの。三枚重ね。三つ組。みえがさね。
※栄花(1028‐92頃)若水「みつがさねの袴・扇まで、いみじくせさせ給へり」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
三重
さんじゅう
日本音楽の用語。音域名称から,楽曲構成部分名称または旋律形態名称として用いられる。 (1) 声明 本来は初重より1オクターブ高い音域を二重,2オクターブ高い音域を三重といったが,実際に1人の演奏者の声域が3オクターブにわたることは少いので,その間隔も自然せばめられ,現行の講式などでは,初重の完全4度から5度高い音域をいっている。 (2) 平曲 楽曲構成部分名称として用いられ,最高音域で,テンポも最緩で,最も旋律的な部分をいう。詞章のうえでも詠嘆的な叙景部分が多く,前奏にはやはり三重と称される琵琶の器楽的な序奏がある。主要音の違いによって甲 (かん) ,上の区別があり,甲上甲上と繰返され,そのあとにはたいてい,下りという中音と同音域の部分がある。特殊なものに「走り三重」という短いものがある。 (3) 三味線音楽 特に義太夫節では,原則として1段のなかの場面転換 (主として舞台装置が変る場合) に用いられる曲節と,これに伴う三味線の旋律。したがってその転換する前の場面の終りと,例外はあるが次の場面の最初にも用いられることになる。1段の終りでは,三重と段切りの曲節が複合されたものとなる。なお旋律の違いによって大三重,愁 (うれい) 三重,錣 (しころ) 三重などいろいろの名称がある。豊後系浄瑠璃,長唄などにも応用され,半太夫節,河東節でも旋律形態名称として用いられている。 (4) 歌舞伎陰囃子 合方の一種としての三味線の旋律。忍び三重,送り三重,幽霊三重などいろいろな種類がある。
三重
みえ
長崎県南部,長崎市北西部の旧村域。 1973年長崎市に編入。五島灘に臨む畝刈湾 (あぜかりわん) に面した小型揚繰網漁業の基地。 1989年住宅,水産物加工の設備をもつ大規模な新長崎漁港が開港した。
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デジタル大辞泉
「三重」の意味・読み・例文・類語
さん‐じゅう〔‐ヂユウ〕【三重】
1 三つ重なること。「二重三重に防護する」「三重衝突」
2 日本音楽で用いる語。
㋐声明で、音域を三つに分けたうちの最高の高さの音域。
㋑平曲で、美文調の韻文による詠嘆的な場面に使う高い音域の曲節。
㋒義太夫節で、一段の最初や最後または場面の変わり目などに用いる旋律。
㋓長唄・常磐津・清元など歌舞伎舞踊音楽で、場面転換などに用いる曲節。2㋒を取り入れたもの。
㋔歌舞伎下座音楽で、唄を伴わない三味線曲。特定の演出と結びついた効果音楽として用いる。
み‐え〔‐ヘ〕【三重】
1 三つかさなっていること。また、そのもの。さんじゅう。
2 3色の色糸で模様を織り出すこと。また、その織物。
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さんじゅう【三重】
日本音楽の理論用語。声明(しようみよう)に発し,ほかのいくつかの分野に採り入れられた。まず声明では,低,中,高の三つの音域を区別して,初重,二重,三重という。たとえば,3オクターブに及ぶ五音(ごいん)の並びについて,宮~羽をひとまとまりとして,もっとも高い音域のものを三重といい,また,同一詞章による短い旋律を,段階的に音高と気分を高揚させながら3度唱える場合の3度目をいう。後者の三重は,初重,二重との音程関係が確定している場合と,していない場合とがある。
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世界大百科事典内の三重の言及
【平曲】より
…拾イ類の曲節を多く含む句が〈拾イ物〉とよばれる。(5)フシ類(三重(さんじゆう)・中音(ちゆうおん)・初重(しよじゆう)など) ユリをたっぷりきかせ,最も旋律的な曲節。美文調の部分に多く用いられる。…
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