(読み)かん(英語表記)ring

日本大百科全書(ニッポニカ) 「環」の意味・わかりやすい解説


かん
ring

任意の二つの整数の和と積はまた整数になる。この整数の和と積の性質を調べ、整数全体の集合Zの性質としてとらえると、環という概念に達する。すなわち一般に、集合Aに和と積とよばれる2種類の二項演算が考えられ、和についてはAが可換群になり、積については、結合律
  (ab)c=a(bc) (a, b, c∈A)
を満たし、和と積の間には、分配律
  (a+b)c=ac+bc,
  a(b+c)=ab+ac
   (a, b, c∈A)
が成り立つとき、Aを環という。とくに環Aが積に関して、可換律
  ab=ba (a, b∈A)
を満たすとき、Aを可換環という。

 整数全体の集合Z、多項式全体の集合C[X]はともに可換環である。また、n次正方行列全体の集合Mn(C)は環であるが、n≧2のときMn(C)は可換環ではない。このように環になっている集合はたくさんある。これらの共通した性質を研究するのが環論である。環Aには、Zの0のように
  a+z=z+a=a (a∈A)
を満たす特殊な元zがある。このzを環Aの零元という。多項式環C[X]の零元は零多項式であり、行列環Mn(C)の零元はn次正方零行列である。

 環Aの零元以外の元全体の集合が積に関して群になっているとき、環Aを体(たい)という。有理数全体、実数全体、複素数全体はそれぞれ体であるが、Zは体でない。環Aに、Zの1のように
  ae=ea=a (a∈A)
を満たす特殊な元eがあるとき、このeを環Aの単位元という。

 環は単位元をもつとは限らないが、もてば、ただ一つである。Zは単位元1をもつが、偶数全体の集合は単位元をもたない可換環である。また、C[X]、Mn(C)の単位元は、それぞれ、定数多項式1、n次単位行列
  En=(δij)
   (δijはi=jなら1、i≠jなら0)
である。

[菅野恒雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「環」の意味・わかりやすい解説


かん
ring

1つの集合 R が2つの結合法(2項演算)をもつものとする。それらを加法および乗法というが,これらは抽象概念であって,必ずしも普通の足し算掛け算のことではない。この R が次の条件を満たすとき,R は環であるという。(1) R は加法についてアーベル群である。(2) R は乗法について半群である。(3) R の任意の元 abc に対して,分配法則 abc)=abac,(bcabaca が成り立つ。さらに,乗法に関する単位元があれば 1で表わし,これを環の単位元といい,加法に関する単位元は 0で表わし,零元という。環の例としては,整数全体の集合,任意の体,閉区間[0,1]上の連続関数の集合などがある。すべての有理数の集合,すべての実数の集合,すべての複素数の集合は,単位元 1をもつ環の例である。これらは,乗法について交換法則が成立する場合,すなわち可換環の例であるが,非可換環の代表的なものとしては,正方行列全体のつくる行列環がある。

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精選版 日本国語大辞典 「環」の意味・読み・例文・類語

かん クヮン【環】

〘名〙
① まるい輪。
② 代数系の一つ。二つの演算(これらを加法、乗法と呼ぶことにする。通常の加法、乗法とは限らない)をもつ集合Rが、(イ)加法について可換群である、(ロ)乗法について、結合法則がなりたつ、(ハ)乗法の加法に対する分配法則がなりたつ、の三条件を満たすときをいう。整数全体や偶数全体は通常の加法、乗法に関して環である。

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デジタル大辞泉 「環」の意味・読み・例文・類語

かん〔クワン〕【環】

円くめぐって終わりのない形。輪。
数学で、任意の元の間に二つの演算(加法・乗法)が定義され、加法について交換法則が、乗法について結合法則が、加法・乗法について分配法則が成り立つときの集合。
原子環状に結合した構造。この構造を分子内にもつ化合物を環式化合物という。

かん【環】[漢字項目]

常用漢字] [音]カン(クヮン)(漢) [訓]たまき わ めぐる
ドーナツ形の玉。また、輪の形をしたもの。「環状一環金環連環
周囲を取り巻く。ぐるりと回る。「環海環境環視循環
[名のり]たま
[難読]苧環おだまき

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デジタル大辞泉プラス 「環」の解説

藤原定による詩集。1979年刊行(弥生書房)。1980年、第13回日本詩人クラブ賞を受賞

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世界大百科事典 第2版 「環」の意味・わかりやすい解説

かん【環】

ドーナツ状をした玉で円孔の半径と辺の幅の等しいものをいう。天子諸侯を封ずるときに賜る瑞玉(ずいぎよく)の一種服飾や車輿(しやよ)の装飾にも用いられたが,耳環,指環,腕環などを指すこともある。環に似て辺の一部分の欠けているものを玦(けつ),平板で外辺の幅と円孔の直径とが等しいものを璧(へき)という。とくに,腰に帯びる環を玉環ともいう。《左伝》昭公十六年に〈宣子,環有り〉とあるのは,杜預の注によれば玉環のことであるという。

かん【環 ring】

整数や多項式,あるいは二次の行列には,和および積がある。このように,数学で扱う対象には,次に述べる公理を満たす二つの算法〈加法〉〈乗法〉をもつものが多い。そこで,集合Aに,その2元a,bの和abを対応させる加法および積abを対応させる乗法が定義され,それらが次の公理を満たすとき,Aを環と呼ぶ。
[公理]
 (1)加法に関し,加群をなす。 (a)abba (b)(ab)+ca+(bc) (a,b,cA)  (c)axbは必ずただ一つ解をもつ。

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世界大百科事典内のの言及

【玉器】より

…石庖丁形のものは前11世紀ころに終末期に達し,骨製の鋤先をかたどったものは前5世紀の秦にわずかに残存する。この時期に特徴的な玉器としては,ほかに断面がT字形の環があり,この玉器は前2千年紀後期にもとづく。 前14世紀~前10世紀ころ,すなわち殷王朝後期から西周前期にかけての時期には,自然の動物や想像上の動物をかたどった小型の装身具,護符,愛玩品が多く作られた。…

【標識法】より

…昆虫などでは主として彩色によって,魚や哺乳類あるいは昆虫の中でも甲虫類などでは体の一部に傷をつけて標識する。しかし最も一般に用いられるのは魚類におけるタグtagと鳥類における足輪(リング)ringである。以下鳥類の標識を中心にその概要を述べる。…

【指輪∥指環】より

…装身具の一種。指輪はほかの装身具より文化性が高いといわれる。未開社会では首飾,腕輪,耳飾などを用いるが,指輪はあまり用いない。つねに狩猟や採集,あるいは農耕にたずさわっている人々には,指輪がじゃまになるからである。バビロニアやアッシリアでも指輪は用いられていなかった。指輪の歴史が始まるのは古代エジプトあたりからで,金のほか貝殻や軟らかい石や紫水晶のものがつくられ,大衆用には陶器のものがあった。エジプトでは指輪にスカラベを彫ったもの,あるいは指輪の飾台(そこに認印のしるしが彫られた)をスカラベ形にしたものが幸運のしるしとして用いられた。…

※「環」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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