〘自ラ五(四)〙 (古くは「くくる」)
① 物の下やすき間など、狭い空間を通り抜ける。
(イ) 漏れて出る。漏れ出るように狭い空間を流れる。
※万葉(8C後)四・五〇七「しきたへの枕ゆ久久流(ククル)涙にそうき寝をしける恋の繁きに」
※
日葡辞書(1603‐04)「ミヅ イワノ シタヲ cuguru
(クグル)」
(ロ) 狭い空間を身をかがめて、また、身をかがめるようにして通る。
※金葉(1124‐27)雑上・五六三・詞書「傍のつぼねの壁のくづれよりくぐりて逃しやりて」
(ハ) 多くの物事の間を、縫うように、また、すり抜けるように通る。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)六「寒暑を潜(クク)て物を化す」
※雑俳・柳多留‐一(1765)「
網の目をくぐってあるく娵
(よめ)の礼」
② 水や土の表面に出ないようにして進む。
※万葉(8C後)一一・二七九六「水泳(くくる)珠に混じれる磯貝の片恋のみに年は経につつ」
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)四「地の中に潜(クク)り、穴ほて空に入りて」
③ 門を通り抜ける。
④ 他の気づかないところをねらって事をする。
(イ) 弱点、欠点、油断などに乗じて、うまく事を運ぶ。
※東京学(1909)〈石川天崖〉二四「よい工合に法律の下を潜(クグ)って居るのである」
※
大寺学校(1927)〈
久保田万太郎〉四「その網の目をくぐって一寸一寸
(ちょいちょい)寄合をつけた」
(ロ) 先まわりして考える。心を読む。
※狂歌・
吾吟我集(1649)六「ゆがみゆく君の心をくぐり見てたえず恨はありどをし哉」
⑤ 困難な状態や危険にさらされながら過ごす。困難や危険の中を、切り抜けていく。
※故旧忘れ得べき(1935‐36)〈
高見順〉六「明日をも知れぬ危険を潜ってゐるんだといふことを」
[語誌](1)上代文献では第二音節も清音で「くくる」の語形である。平安末頃には、「くくる」と「くぐる」の両形が存したらしい。
(2)
平安朝の仮名散文では、①(イ) の意味は主に「漏る」(四段)によって表わされていたようである。
(3)「くぐ」については「くぐまる」「くぐもる」や「くぐせ」「たにぐく」などとの関係が考えられる。