涙・泪・涕(読み)なみだ

精選版 日本国語大辞典 「涙・泪・涕」の意味・読み・例文・類語

なみだ【涙・泪・涕】

〘名〙 (古くは「なみた」か)
眼球の上部にある涙腺から出る透明な液体。通常、少量を分泌して眼球を湿すが、神経的な高ぶりや外部からの物理的刺激に応じて多量にあふれ出る。ヒトをはじめ脊椎動物にみられる。涙汁。
書紀(720)雄略一四年四月(前田本訓)「疑を根使主(ねのおみ)に致して不覚(おろか)に涕(ナミタ)(た)りて哀泣(いさ)ちらる」
② ①を流すこと。泣くこと。
※新古今(1205)秋上・三七九「いつまでかなみだくもらで月はみし秋待ちえても秋ぞ恋しき〈慈円〉」
③ (感情に促されて①を出す動物は数少ないところから、人間らしさを表わすものとして) 人情。人のなさけ。思いやり。感情。「血も涙もない人」
名詞に冠して接頭語的に用いて、それが少しばかりであることを表わす。「なみだ雨」「なみだ金」
[語誌](1)「万葉集」には、「那美多」と表記され「ナミタ」と清音で読まれていたらしいものと、「奈美太」と表記され「ナミダ」と濁音で読まれていたらしいものと、両様ある。
(2)「万葉集」にくらべ、「古今集」では「涙」が詠みこまれる割合が増える。この背景にあるものの一つとして、古今の歌人漢詩文に見られる「涙」の比喩表現を旺盛に摂取したことが考えられる。貞観一四年(八七二藤原良房が亡くなって白河辺りに野辺の送りをした時の素性法師の歌「ちのなみだ落ちてぞたぎつ白川は君が世までの名にこそ有けれ」〔古今‐哀傷歌〕や、延喜七年(九〇七宇多天皇の中宮温子が亡くなったとき伊勢が詠んだ長歌「かなしきに なみだのいろの くれなゐは」〔古今‐雑体〕は、白楽天や元稹らの詩文に見える漢語「血涙」「紅涙」に基づいている。→なみだの色(いろ)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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