活版印刷
かっぱんいんさつ
typographic printing
letterpress printing
活字を使い、文字を主体とする凸版印刷で、グーテンベルクの発明以来、書籍、雑誌、新聞などの印刷の主流をなしてきた。印刷物の格調の高さ、読みやすさ、美しさなどの点で、平版による文字印刷をしのぐが、製版の作業能率、生産費その他の点から、1980年ごろより写真・電子技術を用いるオフセット印刷にとってかわられた。
活版の組版では、まず必要な活字を集める(文選(ぶんせん))、集めた活字を原稿に従って配列し、行間・字間を整えて配置する(植字)、大部数の印刷には複製版をつくる、の工程がある。活字は総数4万種以上あったといわれるが、普通の印刷では6000~7000種程度であった。これを活字ケースに収め、ケース台に置く。活字の配列は、音別分類もあるが、普通は部首別である。使用頻度のもっとも多い活字のケースを大出張(おおしゅっちょう)とよび、もっとも採字しやすい場所に置く。次に多いものを小(こ)出張とよび、その近くに置く。そのほか、外字(がいじ)(使用頻度の少ない文字)、平仮名、片仮名、数字のケースもある。文選は、活字ケースから選んだ活字を浅い文選箱に入れる作業である。植字作業は、文選した活字に句読点、ルビ(振り仮名用活字)、記号、罫線(けいせん)を加え、指定された体裁に組み込む。字間にスペースspace、行間にインテルinterline leadsを入れて読みやすくする。また、版の空白部を埋めるため、クワタquadrat、ジョスjustifier、フォルマートFormatstegを使う。クワタは空白の行や行末に使い、ジョスはさらに大きい、フォルマートはいっそう大きい空白部を埋めるのに用いる。これらは印刷時にインキがつかないよう背を低くしてある。これらをステッキcomposing stick(小さな植字箱)に入れて整理し、ゲラに移し1ページにまとめる。ゲラは組版を入れる薄い箱で、校正刷りや少部数の印刷はゲラに組んだまま行う。英語のgalleyの訛(なま)ったことばで、校正刷りをゲラ刷り、あるいはゲラとよぶことがある。校正刷りを原稿と照合して正しく訂正し、正しい活字と差し替えたのち本印刷にかかる。大部数の印刷では複製版をつくる。少部数の印刷では、活字組版を印刷機に取り付けて直接印刷する。新聞印刷では、活字→紙型→丸鉛版→輪転機印刷の方式が主流であったが、1980年ごろからコンピュータ植字、オフセット印刷に移行した。
[平石文雄・山本隆太郎]
『川田久長著『活版印刷史』(1981・印刷学会出版部)』▽『青山敦夫著『活版印刷紀行 キリシタン印刷街道』(1999・印刷学会出版部)』
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活版印刷
かっぱんいんさつ
typography
凸版印刷の一種。活字を使用し,さらに線画,網版などを同一版上につけて行う場合も包括されている。活版の意味は,途中訂正のある場合はその文字部分だけを自由に抜替えて直す (差替えという) ことができる活字 (活動できる字) を使用するところからきたもので,書籍,新聞,雑誌などがこの方式で印刷されている。溶融された合金を母型に流し込んでつくる鋳造活字を用いるためホットタイプと称し,写真の種版から文字を焼付けていく方法 (コールドタイプ) と対称している。現在はコールドタイプがほぼ主流となってきており,活版印刷は特別な場合を除いてあまり用いられなくなっている。
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活版印刷
活字を組んだ版を使って印刷する凸版印刷の一種.広義には,活字版を複製して作った鉛版や電鋳版などを使って印刷することを含む.この技法は,西洋では15世紀の中頃にドイツ人グーテンベルクが開発し,出版物の主要な印刷方式となった.日本では本木昌三(1824-1875)が明治初期に上海美華書館のガンブル(William Gamble 1830-1886)から活字鋳造などの方法について指導を受け,近代印刷の基礎を築いた.
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デジタル大辞泉
「活版印刷」の意味・読み・例文・類語
かっぱん‐いんさつ〔クワツパン‐〕【活版印刷】
活版で印刷すること。また、その印刷物。鉛版・線画凸版・樹脂版などの印刷も含めていう。1445年ごろ、ドイツのグーテンベルクが発明。活版刷り。
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かっぱん‐いんさつ クヮッパン‥【活版印刷】
〘名〙 活版で印刷すること。また、印刷したもの。
※商業史歌(1901)〈
田口卯吉〉商業史歌年表「一四三八 活版印刷の濫觴」
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かっぱんいんさつ【活版印刷 typographic printing】
凸版式印刷の一種で,活字で組んだ版(活版)を用いるものをいう。それ以前の印刷版が木版のように1枚の板につくられたものであって,文字の抜き差しがむずかしかったのに対して,文字の組替えが自在にできるところから〈生きた版〉という意味で活版と名づけられた。J.グーテンベルクの発明以来,文字印刷の主流として,また印刷の主流として利用されてきたが,鉛合金の活字を使用するため工場衛生上に問題があること,版が重く印刷機の構造もがんじょうでなければならず,取扱いも不便,スピードも出ない(とくに組版においては,和文の活字の場合コンピューターと結びつけて自動化しても毎分120本くらいを組むのが限度である)こと,そしてこの分野における若年労働者の不足もあって,写真植字法の進歩とともにその地位を譲りつつある。
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世界大百科事典内の活版印刷の言及
【印刷】より
…伝播の経路は不明であるが,ヨーロッパの木版印刷術が中国に起源を持つことは確実であろう。
[活版印刷の誕生]
ヨーロッパに活字印刷(活版印刷)が始まったのは15世紀半ばであるが,その最初の考案者が誰であったかについては異説がある。その中で有力なのはオランダ人コステルJ.Costerとドイツ人グーテンベルクJ.Gutenbergをあげる説である。…
【活字】より
…活版印刷において文字の印刷に用いる柱状のもので,頂面に1字ずつ凸状に刻んである。粘土に文字を彫って焼成した活字,木製の活字も利用されたが,現在では活字合金を用いた金属製のものが用いられている。…
【大日本印刷[株]】より
…なお,1935年まで使われた秀英舎の社名は〈英国より秀でるように事業を伸ばせ〉という意味で勝海舟が名づけたものである。秀英舎は,明治の三大名著の一つといわれる中村正直の《西国立志編》の再版の際に《改正西国立志編》として,それまでの木版に代えて日本で初めて活版印刷を行った。新聞,雑誌などの活版印刷を中心に,明治,大正の両時代を通して発展したが,1928年には日本で初めて本格的グラビア印刷を開始するなど印刷技術の高度化も進めて,総合印刷会社になった。…
【凸版】より
…凸版は,印判の例を見てもたやすく理解できるように,画線の面が非画線の面より高く,この間の高低差を利用して画線面のみにインキをつけて印刷するもので,これには非常に多くの種類がある。最も代表的なものは活版印刷で用いられる活版で,このほか,線画を印刷するために線画部分のみを凸にした線画凸版,写真など濃淡の階調のあるものを印刷するため,濃淡を凸状の点(網点という)の大小におきかえた写真版(網凸版),写真版の一種で,原画の白色部を強調するため白色部の網点を取り除いたハイライト版,同じく写真版の一種で,カラー印刷に用いる原色版などがこれに属する。 印刷インキを版面に選択付着させる平版や,不要のインキを版面から除去してから印刷する凹版などと異なり,凸版では,版面へのインキの付着は簡単で,このため印刷中に起こりうる画像のゆがみがなく安定した印刷が可能であり,また大部数を印刷する場合にも適している。…
※「活版印刷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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